第一六話「無能だけど社会人だから、仕事をする」
週が明けても、部長、課長、先輩たちは、大竹の代役探しに
「ひらめ。会議室で呼ばれている。来いよ」
石田から呼び出されたひらめの周りに先輩女子社員たちが、からかいに集まってくる。
「これはクビ確定だね・・・」
「ほら、あんな子供っぽい断り方するから・・・」
「送別会の幹事は自分でやりなよ」
「思ったより頑張ったよ。もっと早くこうなると思っていたわ」
「ちょっと待って。
(あの断り方は大人気なかったかな)
ひらめは、ちょっと反省をしながら石田と会議室に入るとお偉いさんが勢揃いしていた。
「早速なんだけど、あのプロジェクトをやる人がいないんだ。どうしてもやれないか?」
「大きなプロジェクトって聞いてるけど・・・。僕が出来ると思いますか?」
この一言で、場の空気を凍らた。空気が読めない人間とはこういうもの。
「社内業務、他部署との調整。メンバーへの指示は石田を含め、部課長で行う」
「・・・」
「進捗管理やお客様との打合せも出来るだけ、バックアップする。だからプロジェクトリーダーとして頑張ってもらいたい」
「・・・ごめんなさい。ちょっと質問して良いですか? よく理解をしてないんだけど・・・。簡単にまとめると、実質的には何もしなくて良いという話ですよね?」
「そうだな。言い方は悪いけど、そういうことになるな」
「良いっすよ。なんだ、もっと大変なのかと思ってた。大丈夫っす。やります」
その日の夜。ひらめは先輩たちに誘われ飲みに行った。
「「お疲れ様!」」
「短かったけど、楽しかったよ!」
「次の職場が決まるまでは大変だと思うけど、ひらめなら大丈夫!」
「ごめんな。急だったから、こんなお店で。ひらめの送別会ならホテルのホールを貸し切って・・・」
「待て待て。まだ辞めないし、洒落になってないから・・・。なんか、追い出しコンパみたいなノリになってるじゃないですかっ!」
「「あはははは」」
「初プロジェクト、おめでとう」
「やっとだな。新人の中で最後か?」
「なんか、やりたくなくなって来た・・・。断ろうかな・・・」
「頑張れよ!」
酔った石田が、ひらめに絡む。
「ひらめ、俺はすごく大変だったんだぞ」
「何がっすか?」
「お前が引き受ける条件を調整するの。マジで大変だったよ・・・」
「ひらめくん、マジで石田さんに感謝しなさいよ」
「僕はよく分かってないのですが・・・」
「お前なあ。あんだけ周りからフォローされるプロジェクトなんてあり得ないんだからな」
「そうなんすか? みんなで協力してやれば良いじゃないですか。みんなが出来ることをやるみたいな。僕はやれることがないから、やらなくても、しょうがないしゃないですか」
「・・・マジで言ってる?」
「はい」
「良いか。ひらめ。誰もお前ができるとは思っていない。分かるな?」
「はい」
「そんなお前しか手が空いている人間がいない。みんな忙しい。誰がやるのが一番効率がいいと思う?」
「石田さん?」
「違うだろ・・・」
「だって『仕事は忙しい人にふれ』っていうじゃないですか? だから忙しい石田さん・・・」
「確かに。・・・じゃなくてっ!」
「うそうそ。暇な人間がいたら、そいつっすよね? でも暇な人間が『ひらめ』しかいないと、これは困った・・・」
「そうなんだよ。そして、そいつの教育係が俺。『上から説得しろ』なんて言われても、そいつは『嫌だ。駄目だ。無理だ』と騒ぐ・・・」
「マジであれはウケた。本気で仕事を拒否してたもんな・・・」
「らしいと言えば、らしいんだけど・・・。石田も大変だよな・・・」
「・・・」
「そんなクソみたいな後輩のために、上司に交渉をして、なるべく負荷をかけないように調整をしたんだぞ? 『何をすれば、中井くんは引き受けるかね?』なんて部長も必死でウケたけど・・・マジ大変だったわ・・・」
「で、何もしなくて良くなったと・・・」
「優しいだろ? 俺」
「神っす!」
「よし。飲むぞっ!」
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