第一五話「一緒にいるのが楽しいから、飲みに行く」

同期会の後、真央と二人で居酒屋に入った。このところ、ひらめと真央と頻繁に飲んでいる。


「ひらめ、最近、仕事頑張ってるらしいじゃん?」

「そんなことはない。ぼちぼちだよ。誰、情報?」


「野田くん。さっき『何でひらめなんだ〜』って騒いでたよ」


野田は、ひらめと同じ職場の同期で何かとライバル心を剥き出しにして、ひらめにからんでくる。


「打診を受けただけ。断ったけど・・・」

「なんだ、やる気になったのかと思った」


「全然だよ。まだまだ何もできない」

「なんかなあ〜。少しやる気出したら?」


「う〜ん・・・。誰かとエッチなことすれば、やる気が出るかもしれない・・・」

「変態っ! 今の話題のどこから、そこに飛躍するのか、頭の中見ていたいわ」


「仕事の話は止めよう。つまんない」


「こんな変態でも、人気があるから不思議だよね」

「・・・」


真央が、前髪で隠れているひらめの顔を覗き込む。


「さやかに猛アタックされてるんだって?」

「情報がはやいね。見てた?」


「恭子。さっきメールで・・・」

「う〜ん・・・。今度、二人で飲んで確かめるよ」


「女子と二人で飲みに行くの?」

「普通でしょ? 今だって真央さんと二人だし・・・」


「真央とさやかは違うでしょ?」

「えっ? 何が違う? 一緒でしょ?」


真央が驚きの表情で、ひらめを見る。


「ごめん、真央さん・・・。言い方が悪かった。真央さんとさやかちゃんは違う。全然違うよ・・・。だけど、俺からしたら、どっちも友達じゃん?」


「うん・・・」


「友達だったら遊びに行くでしょ? 断わらないでしょ? そういうことなんだよ」


「うん、分かる。分かるんだよ。でも、ひらめだけ、楽しんでズルい・・・。なんか腹が立つ・・・」

「・・・」


「真央だって女の子だから、たまには男子に甘えたいときがある・・・。ぎゅーってしてもらいたいときがあるんだよ。でも、甘える相手がいないから甘えられない・・・。そんな葛藤かっとうがあるんだよ」


「俺と付き合ったら、いつでも抱きしめてあげるよ・・・」

「・・・考えておく」


「何それ?」

「なんか、軽いんだよ」

「・・・」


「真央は、今のひらめとの関係は悪くないと思う」

「・・・」


「真央はしばらく彼氏はいらない。そして、お互い恋人がいないから、ひらめと会っている。もし、ひらめが彼女が欲しくなったら、真央に気にしないで作ればいい。真央は、反対できる立場じゃない。だから、ひらめの好きにすればいい」


「分かった。もういいよ。終わりにしよ。俺も真央さんとは今の関係でいい。終わり」


「そうやって直ぐ逃げる」

「逃げてねーし・・・」


「友達と彼女って何が違うの?」

「セックスするか、しないかだよ」


「ひらめは真央のカラダが目的なの?」

「それだけじゃないけど・・・。もういいよ。終わりにしようよ」


「逃げるな、ひらめ。お前は彼女じゃないとセックスしないか?」

「そんなことはない・・・ね」


「でしょ? 真央だって付き合う前にしちゃうかもしれない」

「えっ? じゃ、今からホテ・・・」

「無理。変態!」


「終わりにしようって言ってるのに、真央さんが続けてんじゃん・・・」


「彼女と友達って何が違う?」

「なんか、あるじゃん・・・。彼女だったら、他の誰かに取られたくないとか・・・」


「そんなのは、今でも一緒だもん・・・。ひらめが他の女子と遊びに行くのは、嫌な気分になる・・・」

「真央さん、それって俺のことが好きなんじゃ?」


「うん。好きだよ。でも彼氏の好きとは違う」


(本当に面倒くさい・・・)


「まあ、真央さんが、俺といて楽しけりゃいいよ。少なくとも俺は今でも十分楽しいしね」


「でしょ? 真央もひらめと一緒にいて楽しい。だから、今の関係で良いと思うんだ。ただ、ひらめに彼女ができたら、ちょっと寂しい気がする。きっと嫉妬する・・・。でも、真央にはそれを止める権利はないんだよ」

「じゃ今日はホテルに泊ま・・・」

「無理。クルマ買って、お金ないんでしょ?」


「そこはどうにかするよ。迷惑かけないから、すぐくし、三秒、いや二秒・・・」


「それじゃ真央、逝けないじゃん?」

「えっ?」

「えっ?」


顔を赤らめる真央。


(可愛い・・・)


「ヤバい。完璧にひらめのペースじゃん」


「待て待て。真央さんが勝手にスケベな妄想してるだけでしょ?」

「・・・」


本気なのか、冗談なのか、分からないけど、こんなバカな話をできる関係も悪くない・・・。


「いつも、そうやって女子を騙してるの?」

「聞き捨てならん。俺がいつ、女子を騙した?」


「ズルいよね。いつもそうやって自分は悪くないみたいな・・・。勘違いをさせておいて・・・」

「えっ? 俺?」


考えてみたら、ひらめも真央が他の男と仲良くしていたら嫉妬すると思う。


彼女でもない友達なのに・・・

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