第九話「飲みながら、初デートの極意を語る」

定時前に真央から飲みの誘いがあった。


ひらめはスロット屋に行く程度の予定しかないので飲みに行く。


「ちなみに、本当に興味だけで、深い意味はないんだけど、ひらめくんは女子を初デートに誘うとき、どこに誘う?」

「俺は映画かな?」


「ベタだね・・・」

「だって、話さなくていいでしょ?」


「いやいや、話せよ。話さなかったら相手のこと、分からないでしょ?」


「相手の性格なんて俺の中で決めれば問題なくて、まずは、効率良くベッドインをしてお互いの肌を合わせ・・・」


真央の視線が突き刺さる。


「なんて考えていた頃もある・・・」


「本当にゲスな男だね」


「割とマジな話、俺が誘う場合は、映画とかクラブとか、会話ができないところに行くよ。その方がお互いに話が弾む」

「意味が分からない・・・」


「これは経験則なんだけど『コイツとは合わないな』って思うのは、話が合わないときか、エッチの相性が悪いとき・・・でしょ?」

「うん」


「初デートは『この人と上手く付き合えるかな?』って、お互いが探り合いをしている状態だと思う・・・」

「そうね」


「そんな状態で、共通の話題を見つけて、二人で盛り上がるなんて奇跡だと思わない? 相手の好き嫌いも、どうやって育って来たかも分からないのに」

「まあ確かに」


「共通の話題を見つけなければ『コイツとは話が合わないな・・・』と感じ、次のデートには進めない」

「うん」


「相手を知らない状態で、話を続けるのは至難しなんわざで、口から生まれた男、おしゃべり上手の『ひらめ』でさえ、居酒屋の『二時間一本勝負』を盛り上げる自信がない」

「・・・」


「おそらく、おしゃべりモンスターの『さんま師匠』でも不可能だと思う。他に人がいれば別だけど、二人きりだと逃げ道がない。そして、気まずい沈黙が耐えられず、相手が求めていないことを話してしまい、せっかく、神様が用意してくれたチャンスなのに無駄にしてしまう・・・」


真央は頬杖をつきながら、上目づかいでニコニコと話を聞く。


「失敗をかて試行錯誤しこうさくごを重ね、数多くの実証実験を経て、あみ出されたのがこちら『ひらめ流、初デート必勝法』です。今なら通常価格一万ニ千円のところ、三千八百円でご提供致します・・・」

「続けなさい」


「よく知らない相手の時は、なるべく同じモノを見て、同じ体験をして、共通の話題を作る。それが男の優しさなんだよ。同じ映画を観た後なら、共通の話題ができる。お互いに話をするハードルが下がる」

「なるほど」


「駆け引きをする前の準備じゃな。この準備をしないで、話を始めるから失敗する確率が高くなってしまう。自分のためだけじゃないぞ、相手のためでもあるのじゃ・・・。会話をしなければ、お互いの考えていることなんて、確認し合えないんじゃ。お互いのことが分からなければ、恋の駆け引きは始まらん」

「凄い納得・・・。ただのスケベじゃないんだ」


「女子とは、お互いに正々堂々と化かし合い、駆け引きを楽しみたい。俺は女子が心を開くか、逃げていくか・・・せめぎ合いがイチバン楽しいと思っている。だから、まずは戦場に立って貰うために、話しやすい雰囲気を作るようにしてる」

「駆け引きか・・・」


初デートの極意は『話すネタを作る』こと。


そうじゃなくても、緊張するデートだから、話すネタを用意するより、言葉を交わさなくても、良いように準備をすることが大切なのだ。そして、話すネタを一緒に作るのがラクする極意。

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