第八話「駅でからまれ、拉致された」
ダルそうに歩くひらめは、後ろから急に腕を掴まれた。
(うわ〜面倒くさい・・・)
派手な見た目のひらめは、学生時代からよく絡まれる。
そっとポケットの中でジッポを握りしめ、一、二の三・・・。
振り向くと身長二メートル体重一〇〇キロ超えの戦闘員。がいれば良かった。
大きな目で、ひらめを
「なんだ。真央さんか・・・。どうした? 迷子?」
ひらめの殺気を感じた真央がすくむ。
「ごめん。びっくりした? えっ何? ごめん・・・。ひらめくんだよね?」
真央を確認したひらめから、殺気が消えていく。
「うん。どうしたの?」
「・・・飲み行こう」
「用事があったんじゃないの?」
「うん。『ひらめくんと話す』という用事ね」
「意味が分からん」
「いいじゃん。行こうよ」
(かわいい過ぎる・・・)
真央が少し照れながら、上目づかいでひらめを見上げる。
女子の上目づかいは犯罪だと思う。簡単に使えないように法律を作った方がいい。
二人は、前回と同じショットバーへ入った。
「どうした? 相談? 金以外なら何でも相談に乗るよ」
「この前の続き」
(そうだよね・・・)
「色々と考えたんだけど、私はやっぱり、ひらめくんに本当のことを言って欲しい」
「真央さん。俺なんて信用しちゃダメだよ。本当は腹黒くて汚くてエッチなことしか考えてない・・・かもしれない」
「いいよ。・・・ホテル行く?」
ひらめは、予想をしてなかった真央の反応に
「えっ? ホテル? 何しに?」
「うそ。私はそんなに軽くない」
「・・・」
「どうして、私と本気で向き合ってくれないかを教えて欲しい・・・」
(面倒くさい。それが苦手なんだよ・・・)
「真央さん、この間も言ったけど、僕は誰とも本音で話そうとは思わない。うわべだけの薄っぺらい関係でいいんだよ」
「どうして?」
「俺は本性というか、本当の姿は誰にも見せたくない。演じている『ひらめ』を否定されても、痛くも痒くもない。だけど、大切にしている本当の俺を否定されたら凹む。間違いなく、凹む。だから、本音の部分は絶対に誰にも見せたくない。見せなければ否定もされない。俺は強くないから、そうやって自分を守っている」
「それは私だって一緒だよ。誰にも本当の姿なんて見せられない。親にも」
「うん。そういうことなんだよ」
「それでも、私はひらめくんと本音で話したい」
(その真っ直ぐな目が苦手なんです・・・)
「分かった。俺も思ったことを話す。本音でね。でも、誰にも言わないって約束して。俺も真央さんの言ったことは誰にも話さない」
「分かった。約束する」
「うん」
「良かった。すごく悩んだんだからね・・・」
「何が?」
「男子に面と向かって『嫌い』なんて言われたことなかったから、凄く凹んだ・・・」
「『嫌い』とは言ってないじゃん。『苦手』とは言ったけど・・・」
「同じでしょ?」
「まあ、同じか」
「でも良かった。話ができて」
「真央さん。俺は本音で話すけど、真央さんのことが苦手なのは変わってないよ・・・」
「大丈夫。真央はいい子だから直ぐに慣れるって。惚れるなよ!」
暑苦しくて苦手な女だけど、話していて不快ではない。
ひらめは、真央をマジマジと観察する。
「ん? 何?」
「真央さんが、かわいいから
「うん。ありがと」
「真央さんと付き合いたい」
「いきなり、なに言ってるの? さっきまで苦手って言ってたのに・・・。展開が早い。ないない」
「俺、真央さんの理想の彼になるよ。真央さんが求める彼氏を完璧に演じる自信がある」
「なんか、それが嫌なんだよ。騙されている感があって・・・」
「そんなことないよ。誰だって自分の都合の良いようにキャラを演じているでしょ。真央さんだって酒が飲めないフリをしてんじゃん。一緒だよ」
「真央とひらめくんは違う。絶対に違う!」
「一緒だよ。真央さんだって、会社では『しっかりした新人』のフリして、高い評価を貰おうとしてるじゃん? 本当は、全然そんなことないのに」
「・・・」
「真央さん、気づいていないかもしれないけど、さっきから一人称が『真央』になっていて、ちょっと子供っぽいけど、かわいいよ・・・。俺は今の真央さんの方が好き・・・」
「ありがと・・・」
真央が顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
軽口に素直に反応する娘に愛おしさを感じる。
「とりあえず、今日はひらめくんと本音で話せて良かった。ありがとう」
「騙されてるかもよ?」
「それはない。真央には分かる。素直に話してくれてるじゃん。ただ思った以上にゲス野郎だったけど・・・」
「よし。帰ろうか」
「うん」
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