第23話 力の差
「私が迎え撃つよ!!」
「分かった!! 行くぞリベラ!!」
「うん!!」
ゆっくりとこちらへと歩み寄る女戦士―――ラースを前に、僕達は一瞬でそれぞれの担う役割を認識し、立ち向かう。
基本的な闘い方は以前と変わらない。
エルンが正面切って相手とぶつかり、僕達三人がそれを援護する。
エルン以外に真っ向から敵と戦える面子が居れば良かったが、そもそも探索者の中で純粋な戦闘を得手とする者は希少だ。大体の探索者は戦闘を回避しようとするし、仮に戦闘するとしてもある程度勝算のある状態で挑み始めるだろう。
故に身を隠す遮蔽物も無く、炎の檻によって敵と大して距離を離す事も出来ない現状は、僕達にとって非常に厳しい物がある。
(それでも、やるしかない……!!)
弱気な思考を掻き消し、目の前の相手に集中する。
「少しは楽しませてくれよ!!」
「別に楽しんで貰いたい訳じゃ無いけどね……!!」
ラースは炎を、エルンは風と水を拳に纏い、互いに殴り合う。
ぶつかり合う二つの拳は、明らかに炎の方が優勢に見える。
「「―――『迅雷』!!」」
「ちぃっ……!!」
エルンが劣勢なのを悟り、リベラと共に魔術を撃つ。
自らに迫る二筋の雷を認識したラースは片方を弾き、もう片方を身を捻って躱す。
「っせい!!」
体勢の崩れた彼女に向かって、エルンが風を纏った回し蹴りを放つ。
彼女が足に纏った風は、渦巻きながら周囲の物を巻き取り、切り裂かんとその暴威を振るう。
「小賢しいんだよ!!」
「くぁ……!?」
一方のラースは、その風ごと彼女の足を蹴り返さんと右足を振るい迎撃する。
崩れた体勢から放たれたとは思えない程重い一撃がエルンを襲い、その余りの威力によって彼女は後方へと吹き飛ばされた。
直ぐにレナが治療を行うが、カウンターを受けた瞬間、エルンの足からは嫌な音が響いていた。
「リベラ!!」
「うん、合わせるよ!!」
回復に時間が掛かると判断した僕はリベラと共に時間稼ぎをする。
エルンと違い、僕達は魔術による身体強化を行える程の練度が無い。まともに一撃を喰らえば、その時点で戦線離脱を余儀なくされるだろう。
そうならない為にも一撃加えて離脱する事を心掛け、手数で相手を消耗させていきたいが……
「おいおいどうした? まさかビビってんじゃねぇだろうな?」
「くそ……」
明確な隙を作りだそうにも、どっしりと構えてこちらを見る彼女は、とてもじゃ無いが手を出せる様な状態じゃない。下手に突っ込めば返り討ちに会い、無駄に消耗して終わるだけだろう。
とは言え、膠着状態を維持しようとしても、今度は相手の方から突っ込んで来るだけだ。
そうしてしまえば直ぐに決着が付くほど確実に力量差があると言うのに、相手は敢えて手を抜いてこちらを甚振って居る。
「お兄ちゃん!?」
このままでは埒が明かないと判断し、一か八か小剣を片手に突撃する。
迷っていても意味が無い。最小限の動きで直撃する物を避ける事だけに意識を研ぎ澄ませる。
「威勢は良いが、技術が伴ってねぇんじゃ意味がねぇぞ」
「く、はぁ……あぐっ……!!」
その細やかな抵抗を捻り潰すかのように、ラースは拳と脚による乱打で僕を吹き飛ばす。
彼女は先程までは纏っていた炎を消し、素手で僕を殴りつけて来た。確実に手を抜かれていると言う事実に歯噛みするも、僕は全身に鈍く圧し掛かる様な痛みで直ぐに立ち上がれずにいた。
「何だよ、まともに身体強化も扱えねぇのか? これじゃあ準備運動にもなりゃしねぇぜ」
とても退屈そうにラースは呟く。
僕達の戦闘能力では彼女の力に到底太刀打ち出来ない。その事実をむざむざと突き付けられ、自分の無力さに拳を握り込む。
「皆を馬鹿にするな!!」
「あぁん?」
彼女の言葉に憤ったリベラが右手から雷、左手から炎を生み出しラースへ向かって同時に放つ。
リベラが同時に二つの魔術を放った事に関心しつつも、迫る炎と雷をラースは紅炎を纏った腕で苦も無く掻き消して行く。
「う、あああ!!」
「リベラ、止めるんだ!!」
その光景を見たリベラは小剣を振り回しながら突っ込む。
彼女を止めようと呼びかけるも、狂乱状態のリベラに聞こえる事は無く、リベラは再び退屈そうな顔に戻ったラースに腹部を蹴り飛ばされた。
「叫びながら剣を振り回せば当たってやると思ってんのか? もしそう思ってんだったら、随分とめでてぇ頭してやがるな」
「かはっ、うぅ……」
嘲りの言葉を掛けられたリベラはラースを睨みつけるも、彼女に興味は無いとばかりに一瞥もしない。
「あんまり、私の友達を虐めないで欲しい、なっ!!」
そんなラースへ向かって、エルンが果敢に飛び込んで行く。
だが完全に治りきって居ないのか、踏み込む度に走る苦痛を堪えながら戦う彼女の姿はとても痛ましい。
「お前は中々悪くねぇ。だが、一人で無理した所で大した意味はねぇぞ」
「く……」
彼女の戦意を認めつつも、攻撃を全て回避したラースはあしらう様に前蹴りを放つ。
単純ながらに強力なそれを正面から防いだエルンは強制的に後方へと押しやられ、足の痛みが耐え切れなくなったのかその場で膝を付く。
「で、お前は何時までお姫様気取りを続けるつもりだ? まさか自分だけ後ろで支援してりゃ良い……なんて考えてる訳じゃないだろ?」
「……エルン」
エルンが動けなくなったのを見て、ラースはレナへと言葉を掛ける。
だが、レナは魔術を攻撃に用いる事が出来ない。
ラースがどう言おうと、彼女が自力で戦う術を持たないのは事実なのだが……。
「駄目だよレナちゃん。私はまだ戦えるから、それは取っておいて」
「でも、もうそんなにボロボロじゃない……」
「……二人共?」
不穏な言葉を交わす二人に、僕は言い知れぬ不安を覚える。
「この期に及んで出し惜しみするとは随分余裕じゃねぇか。ま、そう言う事なら仕方ねぇよな?」
「何をーーー!?」
「不味い、『迅らーーー」
獰猛な笑みを浮かべるラースに魔術を放とうとした瞬間、彼女の姿が目の前から消えた。
「う、があっ!?」
「エルンちゃん!!」
再び姿を現したラースは、足を押さえているエルンを蹴り上げ炎の壁に叩き付ける。そして宙に浮いたエルンの首を右手で掴み絞め上げる。
「う、かふっ……、くぁっ……!!」
「や、辞めて!!」
息が出来ず、苦しげに呻くエルンを見たレナは動揺を隠し切れずに叫ぶ。
だが、彼女の悲痛な叫びを聞いたラースは笑みを深め、手に一層力を込めてエルンの首を絞め上げていく。
「ほらほら、早くしないとお友達は助からねーぞ?」
「うあ、あああああ!!」
「ははは!! ーーーっ!?」
わざとらしくレナを煽り、彼女が涙目になりながら叫ぶのを笑っていたラースは、突如その顔色を変えた。
「レナ、ちゃんを……泣かせる、な……!!」
「へぇ……やるじゃねえか」
彼女の右腕には鋭く刻まれた様な跡が幾つも付けられていた。
どうやらエルンが力を振り絞って抵抗した結果、怪我を負わせる事に成功した様だ。
しかしそれ以上魔術が使えなくなったのか、エルンは追撃を行わずにぐっとラースを睨みつける。
「あぁ、悪くねぇ。その根性見上げたモンだよ。もう少し実力があればなぁ……」
「く、はっ……」
「ま、言ってても仕方ねぇか。これでしまいだ」
そう言うとラースは左腕に炎を纏わせ、止めを刺そうと振りかぶる。
僕はその背中を目掛け、もう一度紡ぎ直した魔術を撃ち出した。
「『迅雷』!!」
「無駄だよ」
彼女は心底興味が無い様子で指を打ち鳴らし、放たれた雷を炎で燃やし尽くす。
そして再度エルンに止めをさそうとしーーー
「そこまでだよ」
瞬いた一筋の剣閃に、右腕を斬り落とされた。
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