第19話 襲い来る影
「ぷはぁ……助かったー!!」
「あの戦いに巻き込まれずに済んだのは良かったです……」
荒野でぶつかり合った戦士と騎士の影。
その戦闘から逃れた僕達は消費した魔力や体力を回復させるための休憩中だった。
そんな中で僕は先程まで居た場所……特に、扉を通る前の最後の光景が脳裏から焼き付いて離れずにい居た。
何らかの技術で映し出されていた本物と見紛う様な空や荒野。
最初こそ歪な人型なだけだったが、戦いを経るにつれて鮮明な人の姿を形取る様になっていったあの戦士。そして炎の壁を切り裂き、最期には戦士と相打つ様な形となった騎士。
色々と不可解な点は多いが、特に二人の間に僕達が挟まっている間どちらも動こうとしなかった事が気になる。まるで何かの場面を再現しているかの様な……。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「はうわっ!? な、なんだ……リベラか」
「む~、何その反応。もしかして、さっきから声掛けてたのに気付いて無かったの?」
リベラは変な声をあげた僕に冷たい視線をぶつける。
どうやら彼女が話しかけて来たのに気付かず考え込んでいたらしい。
ごめん、と謝りながら何を話そうとしていたのかを尋ねる。
「実はね、さっきの場所から出る時に少しだけ変な感じがしたの」
「変な感じ? 身体とかに異常は無い?」
「うん、それは大丈夫。けど何て言えば良いんだろ……」
リベラは何かを伝えようとするが、上手く言葉に出来ないのかうんうんと頭を悩ませる。
「言えない様な事なら無理して話す必要は無いよ」
「そうじゃ無いんだけど……。えっと、今から私が話す事、お兄ちゃんは信じてくれる?」
「ああ、信じるよ」
恐らく遺跡の仕掛けだろうか、何か信じ難い様な体験をしたようだ。
不安げにこちらを見るリベラに心配する事は無いと伝え話を促す。
「……頭の中にね、さっきの人達と話してる光景が流れて来たの」
「あの二人と?」
先程の僕達はあの影と会話をした覚えは無い。
となると、リベラは幻覚か何かを見せられた可能性もあるが……。
「その様子、詳しく説明出来る?」
「多分、出来るよ」
判断材料が無いため、いまはとにかくリベラの話に耳を傾ける。
どうやら彼女の頭の中に流れた光景では自分自身と騎士が並び立ち、あの戦士と対峙している景色が見えたらしい。
話を聞いている限りだと、まるでその場面に自分が立ち会っているかの様な見え方だったのだろうか。
リベラの頭に流れた景色は、あの場で起こった僕達の状況と少し似通う物がある。
「そう言えば、リベラは最後の瞬間を見たんだっけ?」
「? 頭に流れたやつだと最後は……騎士の人が負けて、戦士の人も大怪我を負ってた気がする。ちょっと忘れちゃったかも」
リベラが見た光景は最後の方は朧げになってしまったらしく、自信が無さそうに小さな声で告げる。
僕が聞きたかったのはこちらでの話だったのだが、上手く伝わらなかったらしい。だが彼女が頭で見た光景と、僕がこちらで見た最後は恐らく同一のものだと見て間違い無さそうだ。
「なになに、どしたの二人とも?」
「気になる事でもありましたか?」
考え込む僕達を見て何事かと思ったのかエルンとレナが話し掛けて来る。
二人にも話をして良いか視線で尋ね、リベラが小さく頷いたのを確認して彼女の身に起こった出来事を説明する。
「実は―――」
「つまり、扉に入る際に誰かの記憶の様な物がリベラちゃんの頭に流れたと言う事ですね」
「私達は何も無かったんだけどね。やっぱりリベラちゃんにだけ感じ取れる何かがあるのかな?」
二人には同様の現象は起こって居なかった様で、話を聞いて不思議そうに首を傾げる。
今ある情報を纏めると、この場所は誰かの記憶を元に構成された遺跡で、リベラだけがその記憶を直接閲覧する事が出来る、と言う仮説が立つ。
「けど、それだと最初に戦士の人の輪郭がぼやけてたのは何でだろ?」
エルンの指摘する通り、戦士の影が最初に会った際その姿が不明瞭だった事については、現状では何も分かっていない。
次第に元通りになった所を見るに、そう言う仕掛けと思えば良いのかも知れないが……。
「……この遺跡についての考察は一度ここまでにしましょう。今の段階で結論付けられる程の判断材料が揃っている訳では無いですしね」
「そうだね、もう少し探索を続けてみよう。リベラ、何かあったら直ぐに言うんだよ?」
「うん、勿論。みんなありがとうね!!」
話した事でスッキリしたのか、リベラの表情は元通りになった。
取り敢えずいまはこの遺跡を更に進む事にし、僕達は次の場所へ行くために存在しているであろう扉に向かう。
近づいて扉を確認してみると、この場所に来る際に通った扉とは僅かな違いがあるが、罠が仕掛けられている訳では無さそうだ。
ゆっくりと扉を開け、その先で僕達を待っていたのはとても広い空間だった。
「さっきの荒野……とは全然違うな」
「闘技場みたいな感じだね」
「闘技場?」
エルンが口にした聞き慣れない単語をリベラが繰り返す。
「んーと……、そこの壁の上側に人が座れそうな段差が幾つもあるの見える?」
「うん、見えるよ」
「あそこに大勢の観客が座ってね、私達が今立ってるここで人とか動物が戦うのを見るんだ。で、そう言う催しが行われる場所を闘技場って言うん……だったかなぁ?」
彼女もよく分かって居ないのか、はっきりとは言い切らない形で説明をする。
「ま、取り敢えずここでもまた戦いそうな雰囲気があるって事だよ」
「なるほどー、分かった!!」
凄く雑に纏めたエルンに素直に返事をするリベラ。
だが、エルンの予想はあながち間違っても無さそうだ。
「また出て来ましたね」
「さっきと同じ……いや、少しだけ大きさが違う?」
前の荒野で僕達を襲った影。それと似た様な人影が二つ目の前に現れる。
最初に会った戦士と同じくその姿はぼやけていて、どんな人物であるのかはっきりとしない。
「嘘でしょ、ちょっとキツくない?」
「でもやるしかない。二組に分かれて相手をしよう」
先程の戦闘を終えたばかりで連戦となるが、目の前の敵はこちらの事情など知らないとばかりに剣に似た影を生成する。
「―――『岩針』!!」
「―――『螺炎』!!」
相手が攻撃して来るなら迎え撃つ他無い。
早々に決着を付けるべく、問答無用で魔術を放つ。
放たれた眼前を埋め尽くす岩の群れ、渦巻く炎の檻を、剣に纏わせた紫電を以って片方の影が切り伏せる。
無数の岩と炎が霧散すると同時に、もう片方の影が二振りの剣を振るう。
「取り敢えず、こっちは私達が貰うね!!」
「ああ、任せた!!」
エルンは振るわれた二刀を躱し、腹部に蹴りを見舞って二つの影を分断させる。
こちら側に残った影はバチバチと鋭く唸る雷を剣に宿しながら僕達の様子を伺っている様だ。
その隙にこちらも小剣を抜いて身構える。
「僕が動きを妨害するよ」
「分かった、上手く合わせる!!」
短く言葉を交わし、先手を取って泥沼を生成する。
足を取られた影は即座に足元目掛けて雷を撃つ。
自らにダメージは入っていないのか、泥沼を吹き飛ばした影はそのままこちらに向かって無数の雷玉を放る。
「―――『水鏡』!!」
妖しく光る雷球は一つ一つが尋常では無い速度で飛んでくる。まともに回避するより跳ね返した方が良いだろう。
目の前に創り出した鏡が雷を弾き、持ち主の元へと送り返す。
『―――!!』
影は綺麗に自らの元に戻って来た雷に驚いた様子を見せる。その硬直が仇となり腕や足に魔術が直撃し、そこから影が漏出していく。
「―――『螺炎』!!」
その隙を見逃さず、間髪入れずに炎が影の全身を焼き抱く。
炎を止めさせようと影はリベラに向かって雷を放つが、僕がそれを全て弾き返す。
全身を炙られた影は、結局人の姿を取れずにそのまま消失して行った。
「よし、二人の方は!?」
「あ、もう終わりそうだよ」
戦いが終わり、もう一つの影を相手しているレナ達の方を見ると、影は半分程男性騎士の姿を取り戻した所でエルンに頭を吹き飛ばされていた。
「うわぁ……豪快だね」
「まぁ、うん」
全力を出される前に倒す為か、エルンの身体には無数の傷が刻まれていた。
丁度戦闘も終わった所なのですぐにレナに回復して貰っている。
「お疲れ。いやー、もう少しで首が無くなっちゃう所だったよ」
「もう!! エルンはもっと自分の事を大切にして下さい!!」
「ご、ごめん……」
回復中、今の戦いで余りにも無茶をしたせいでレナに怒られていた。
そんな二人の姿を見て思わず笑いが溢れる。
「あ、お兄ちゃん。扉出て来たよ」
「本当?」
二つの影を倒したからか、再び新しい扉が僕達の前へ出現した。
「リベラちゃん、何か変わった事は無い?」
「うん、まだ平気だよ!!」
リベラの方もまだ不調や異変は起こっていない様だ。
もしかすると、扉を通る事がきっかけなのかも知れない。
「よし、行こう」
この場所の謎を解き脱出する為に、僕達は新たに現れた扉を通り抜けるのだった。
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