第17話 異質な場所
「ここは、一体……?」
眩い光に包まれた僕達は先程までの花畑では無く、見た事の無い建物の中に居る様だった。
壁に紋様が浮かび上がり、花が輝き始めた時はどうなることかと思ったが、少なくとも四人揃ってこの場所に飛ばされたのは幸いだった。
「これ、もしかしたら大遺跡の中じゃないかな?」
「大遺跡の入り口は普通に存在してたはずだけど……。もしかしてあれは偽物?」
あの場所が大遺跡の裏側にあったと言う点や、これだけ大層な仕掛けからしてここは大遺跡の内部だと想定した方が良いかも知れない。
そうなると、今の僕達がこの場所を探索するのはかなり荷が重い。
「駄目ですね……。周囲に出られそうな場所は見つかりません」
「こっちも無さそう。お兄ちゃん、どうしよう……」
外に出ようにも完全に閉じ込められているらしく、出口らしき物は見当たらない。遺跡を踏破すれば脱出出来る様になるのだろうか。
「……行こう。今はとにかく進むしかない」
「そうだねー、頑張るっきゃないか」
こうなったら前に進むしかない。
隊列を組んで早速今いる場所の探索を始める。
城の廊下なのだろうか、かなり上品な印象を受けるこの通路には、罠の仕掛けられている様子は見られないが……。
「……ここが大遺跡内だとすると、さっきみたいな特殊な魔力感知型の罠が無数に張り巡らされてるかも知れない」
「万が一罠が仕掛けられている場合、発見は困難と言う事ですか?」
レナの問いに僕は首を縦に振る。
歴戦の探索者であるアースさんですら欺かれた特異な罠。あれと同じ種類の物があるとするなら、今後は罠に嵌る事を前提として行動するしか無いだろう。
掛かった先に何が待ち受けているのかは現状では想像も付かない。
「気にしすぎても仕方ないよ。探索を進めて行けば何か分かるかも知れないしね」
そんな状況下でもエルンは持ち前のマイペースさを崩さない。
最初にこの場所へ飛ばされた時点で、既に自分の中で折り合いを付けている様だった。
彼女の言う通り、いまは出来る事を確実にやっていくしかない。
「そうだね。何が起きても良い様に気を引き締めて行こう」
今はとにかくこの広い通路を進んで行く。
そうして進み続けて行くと、幾つか扉が見え始めた。
周囲を確認して一つ目の扉に手を掛ける。しかし、扉は何かで固められているかの様に頑なに動かない。
「ちょ、これどうなってるの!? レナちゃんならまだしも私がこれだけ押して開かないなんて事ある!?」
エルンがムキになって扉を押し込もうとするも、全く動く気配は無い。
試しに僕も扉を押したり引いたりしてみるが、相変わらずどちらにも動きそうに無かった。
「リベラ、扉が開くか試してくれる?」
「うん、やってみる!!」
僕達が駄目でも仕掛けを動かしたリベラなら……と思い、扉に触れさせてみる。
だが、彼女が触れてもなお扉が動く事は無かった。そうなるとこの扉を開ける術は今の僕達には無さそうだ。
「開かないなら仕方ない。他の扉も試してみよう」
「あと五つくらいかな?」
「うん。その先は曲がり角になってるみたい」
今いる通路には扉が残り五つ。
その一つ一つをしっかりと確認してみるが、結局この場所にある全ての扉は開く事無く閉ざされたままだった。
「えぇ……、何処かの仕掛けを解くと開いたりするのかなぁ?」
「魔術でも壊れそうに無いですし、そうかも知れないですね」
エルンとレナは、他の仕掛けを動かせばここが開くと考えているらしい。
それを
「……いや、もしかしたらこの扉は全部開かないんじゃ無いかな」
「どうしてそう思ったの?」
僕の呟きに対し、リベラは不思議そうに首を傾げる。
「この場所に飛ばされる前の花畑、そこに咲いてる花を触ってみたんどけど、全部作り物みたいな感じがしたんだ」
あの花畑にしても、この城内の廊下の様な場所にしても、まるで見た目だけ模して造られたかの様に感じられる。中身が伴っていないとでも言うのか、ここを幾ら調査しても何の進展も無く終わるだけだろう。
「なるほどねー。じゃあ、取り敢えずこの場所は放って置いて先に進んでみようか」
「うん、そうしよっか!!」
様々な方法を試しても動かない扉を放置し、その先の曲がり角へと向かって僕達は進む。
「―――『水鏡』」
「えーっと……、あ、一番向こうに扉っぽいのが見えるよ!!」
リベラが道の先を鏡で確認してみると、今まで通って来た景色と似た風景の先に小さな扉の様な物が見えたらしい。
付近に罠がある様子も無いので、早々にその扉に向かって進む。
「それにしても、確かに同じ景色が連続してますね」
「だね。一部分を切り取ってそれをずっと繋げてるみたい」
エルンやレナも、この場所の歪さに気が付いたようだ。
道中の扉を全部無視して進み、ようやく奥の小さな扉に辿り着く。
今までの扉と違い、手を掛けると扉はスッと滑らかに動いた。
少しだけ開き中を見てみると、そこには先程までの通路から一変して開けた荒野が広がっている。
「……罠は、ここからだと判断出来ないな」
「これは直接入って確かめるしか無いですね」
扉周りに仕掛けが無いかを確認し、それが終わった所で全員で一斉に扉を潜り荒野へと出る。
入ってみると、特に変わった様子は無いはずなのに何故か違和感を覚える。
「うーん? 何かおかしくない?」
「私もそう感じるけど……何処が、って言われると分からないなぁ」
この違和感は遺跡の中に荒野が広がっている、と言う所では無いもっと別の部分から察せられる。
「……そうか、空だ」
「空? 確かによく晴れてるね。それがどうか……ああ!?」
僕の呟きに反応したエルンが上を向いて大声を上げる。
この場所は遺跡の中。だと言うのに、僕達の頭上には鮮やかな青空が広がっていた。
エルンの声に反応した二人も、空を見上げて驚愕の表情を浮かべる。
「外に出た……訳では無いですよね?」
「多分違うと思う」
試しに空に向かって魔術を放つ。
すると、放たれた魔術は途中で何かにぶつかったかの様に弾かれ、そのまま霧散した。
「うん、あれは本物の空じゃないみたいだ」
「じゃあ、やっぱりまだ遺跡の中なんだね」
リベラは自身の頭上に広がる空を見ながら、どこまでが遺跡の天井なのかを探っている。
それにしても、魔術をぶつけた衝撃で何かしらの仕掛けが作動すると思ったが、今の所そんな気配は無い。
それを確認した僕達は、いっそ不気味なほどに何も起こらない荒野を恐る恐る進み始める。この異常に広い空間も空と同じように何かしらの技術で幻視させているのだろうか?
「お兄ちゃん。ここ出口が見当たらないよ?」
「流石に果てが無いとは考え難いけど……」
入って来た扉は消えてしまったのか、若しくは風景に溶け込んで見えなくなっただけなのかは分からないが、その姿を目視する事は出来なくなっていた。
とは言え、引き返した所で出口は無い事を考えると大した事ではないかもしれない。
そのまま真っすぐ荒野を進み続けると、次第に異変が起こり始めた。
「空が暗くなってきましたね……」
「でも夜、って訳でも無さそうだよ~?」
清々しい程の快晴だった空は次第に暗くなり始め、周辺の景色も靄がかかった様に不明瞭になっていく。
「……リオン君、避けて!!」
「くっ……今のは!?」
エルンの声で反射的に身を引くと、それまで僕のいた場所に炎が放たれた。
気が付けば辺り一面が火の海になっている。空が暗くなり、景色が霞んで見えたのはこの炎の所為だった。
「一体どこから火が!?」
「多分あれ!! あそこに人が居る!!」
「人……?」
全員がリベラが指差した方向に顔を向ける。
そこには、人影としか言い表しようのない、得体の知れないモノが存在していた。
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