第11話 見え見えの罠
「リベラ、勝手に何処かに行っちゃ駄目だよ?」
「うぅ……ごめんなさい」
レナと共に行動していたはずのリベラは、彼女と共に街へ出た途端あちこちのお店を飛ぶように見て回っていたそうだ。そのあまりの速度にレナは追いつけず、結果として彼女を取り残してしまったらしい。
ただ、ちゃんと目的は果たして居た様で、リベラとは無事に宿屋の前で合流する事が出来た。
「心配かけてごめんね、レナちゃん」
「居なくなっちゃった時はどうなるかと思いましたけど……無事で良かったです」
リベラはレナに向かってペコリ、と頭を下げる。
レナははぐれた事を不安に感じていただけの様で、そこまで怒っている訳では無い様だ。
それはそれとして、リベラにはもう少し落ち着いて行動して欲しいが……。
「それで、どうする? 今日一日お休み取って、明日遺跡に向かう感じで良いのかな?」
「うん。今の所そう言う風に考えてる。ずっと馬車に揺られっぱなしだったからね、しっかりと体調を整えて探索に臨もう」
「それでは明日の朝、宿の一階に集合しましょうか」
「朝起きれるかなぁ、お兄ちゃん絶対に起こしてね?」
明日の動きについて四人で確認をし、その日はもう休む事にした。
それぞれの部屋で道具の整備を行い探索の準備を整えた所で、温かなベッドに潜り眠りに付くのだった。
翌日の早朝。 僕は目を覚まして直ぐにもう一つのベッドで未だ眠りに付いているリベラを揺すり、何とか起こそうと試みる。
「リベラ、ほら、もう朝だぞ」
「ん……おはよう、お兄ちゃん。……ふあぁ」
すると、いつもは起きるまで大分時間が掛かっていたのだが、今日は眠たげに目を擦りながらもどうにか目を覚ましたようだ。
「まだ眠いなら一度顔を洗いに行こうか。まだ二人も起きたばかりだと思うからね」
「うん……」
リベラはまだ眠いからか、受け答えは出来ているが反応が鈍い。
そんな彼女の手をゆっくりと引き、目を覚ます為にも顔を洗いに水場へと向かう。
「ん、おはよう二人共。リベラちゃんはまだ眠そうだね」
「おはようございます。ちゃんと起きれたみたいで良かったです」
どうやら二人もここに来ていた様で僕達はばったりと出くわす。
「おはよう。二人共早起きには慣れてるみたいだね」
「まぁね。普段からこの時間には目を覚ましてるから」
二人と会話していると、次第に意識がはっきりして来たのかリベラが幾度か瞬きをして目の前を確認する。
「む~ん……エルンちゃんとレナちゃん? おはよう……うみゅ」
「おはようリベラちゃん。まだ眠そうなら、もう少し遅らせる?」
「ううん、頑張る……」
「リベラちゃん、水場はこっちですよ」
リベラも二人に気が付いた様で、二人に連れられて顔を洗い始める。
少し経つ頃にはしっかりと目を覚ました様で、いつもの調子に戻っていた。
「はっ、そうだ今日は探索の日だ!! みんな、早く行こう!!」
「まだ朝食を取って無いから、行くならそれからね」
普段の調子に戻った途端そそっかしくなるリベラを宥め、宿で朝食を取ってから僕達は目的の遺跡へと向かった。
辿り着いた遺跡は坑道の様になっていて、壁に多少の明かりが備え付けられている。
とは言えそれだけでは光源として心許ないので、いつも通りライト付ヘルメットを被り、ライトを手に早速探索を始める。
目や耳が効くリベラが先頭を行き、魔物や非常時に備えて僕とエルンが殿を務める。レナにはどちらに異常があっても良いように隊列の中央で待機して貰っている。
歩行速度なども彼女に合わせ、少しゆったりとしたペースで進む。
「割と歩き易いし、これなら体力の消耗も少なくて済むね」
「そうですね、もう少し速度を早めても問題無さそうです」
道が整っているからか、レナの足取りも以前の沼地の時より大分軽い。
その事を考慮し、もう少し速度を上げようと思った時、先頭のリベラが立ち止まった。
「お兄ちゃん、あれってもしかして罠?」
リベラが指差した方向には、露骨に目を惹く様に壁から突き出ている鉱石。
坑道内にある僅かな光を反射し、滑らかに煌めく姿からは相当高価な宝石だと思われる。
「罠……だと思うけど」
「少し様子を見てみる?」
流石に罠だと思うが、念の為に近付いて確認を取る。
魔術が仕込まれている様子は無く、触れる事すら出来ない訳では無さそうだ。
「さ、流石に触るのはどうなんでしょう」
「……止めて置いた方が良いね。何かのスイッチみたいだ」
「むーん、残念」
近付いてよく目を凝らすと、不自然に鉱石と壁の間に僅かな隙間が出来ている。
宝石を取ろうとして安易に触れると罠が作動する仕組みなのだろう。
遺跡内に出現する宝は基本的に、最奥の部屋の物以外触れない方が賢明だろう。
そう思って居たのだが……
「うわぁ、これは酷いね」
「これは全部が罠なんでしょうか?」
進んだ先にあったのは通路一面に敷き詰められるように配置された無数の宝石。恐らくその全てが罠だろう。いっそ清々しい程丁寧に床や天井まで張り巡らされたそれらは、何が何でも探索者を罠に嵌めようとするかの様な強い意志を感じる。
「これ、一つ踏んだら全部作動するなんて事無いよね?」
「それは無いと思うけどなー」
悪意に満ち溢れた通路を四人で慎重に進んで行く。
リベラはひょい、ひょいと敷き詰められた宝石の合間を器用に縫って進んで行くが、レナは慎重になりすぎて居るせいか、後ろに続く僕達が詰まってしまう。
地味に、進むほど通路が狭められているせいで横から通り抜けにくくなるのも嫌らしい。
「エ、エルン……背中を押さないで……」
「いや、私も押したくて押してる訳じゃ……あ」
「あ」「あ」
思わずバランスを崩したレナを支えようとしたエルンの手が、壁に設置されていた宝石に触れる。カチッ、と何かが反応した音が鳴り、反対側の壁から矢が飛び出して来た。
「何の……!!」
起動した罠に反応し、エルンは素早く風を纏った拳を振り抜く。
荒々しい風を纏った剛拳は飛来した矢を容易く圧し折り、彼女は無傷で罠を切り抜ける。
……が、今度はその風に煽られ彼女の後ろに居た僕が尻餅をつく。
「うあっ!? これはもう走り抜けた方が良いかも知れない!!」
今度は天井から針が突き出て来る。
間一髪、身体を横に逸らして避けられたものの、避けた先で再びスイッチを押してしまう。
このままだと不味いと直感し、僕達は一気にこの通路を走り抜ける。
「わ、私が遅かったばっかりに……すみません!!」
「本ッ当にごめん、結局こうなっちゃった!!」
「それはもう仕方ない、とにかく早くここを抜けよう!!」
三人でスイッチを踏む事も構わずに通路をひた走る。
その先でリベラがこちらに手を振って居るのが見えた。
「みんな、ここまで来れば安全だよ!!」
「もうすぐだ、一気に行こう!!」
「は、はい!!」
彼女の居る安全地帯まで一息に走り抜ける。
後ろからは作動した罠から槍や針、矢に鉄球が次々と射出され僕達を掠めて行く。
「ぐっ……!?」
「ちょ、リオン君!!」
出口までもう少し、と言う所で一番後ろを走る僕の肩に一本の矢が刺さった。
痛みで一瞬動きが止まった僕に向かって、無数の罠が襲い掛かる。
「どっ……せい!!」
「ちょ、わっ!? レナちゃんこっち!!」
エルンは体勢を崩した僕の腕を引っ張り、足元に魔術を放って一気に出口まで飛び出す。
それを見たリベラは、先に安全地帯へと抜けていたレナを引っ張って横に避け、僕達と彼女が衝突するのを防ぐ。
飛び出した僕達を追いかける様に四方八方から放たれていた凶器は、細い通路を抜けた瞬間にピタリとその姿を現さなくなった。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「直ぐに治療しますね……!!」
「いや、大丈夫。割と傷は浅いから
幸いな事に、矢の刺さり方が浅かったお陰で傷は直ぐ治りそうだ。
肩から矢を引き抜き、回復薬を降り掛けてから傷口を覆う様に包帯を巻く。
応急処置を終えた僕は残りの治療セットをしまって立ち上がる。
まだ動かすと痛みはあるが、このまま探索を続ける事は出来そうだ。
「お待たせ、次の部屋はどんな感じかな?」
「……そうだね、私でも大分危険って事は分かるかな」
エルンに連れられて先を覗くと、そこは先程までの坑道から一変して不思議な素材で構築された綺麗な部屋があった。
恐るべきことに、その部屋の天井は一定間隔で地面への上下運動を繰り返している。
タイミングを間違えば迫る天井と地面の間に潰され、跡形も無くなるのは明白だ。
ここに来て今までの遺跡とは段違いに危険な罠を目前にした僕達は、一度対策を練る為に安全地帯で休憩を取る事にしたのだった。
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