第49話

「さーてまずは……確かこいつらは不法入界者っすよね」


「そうだ」


「ならまぁ順当にそっち方面からあたるべきっすかね」


 ごみ置き場のようになったデスクの前に腰を下ろしたルルイエは、そこに置かれた雑多な物を全て地面に落として煙草に火をつけ、同時に埋もれていたPCを立ち上げる。


「えーと、スレのタイトルは……自称大魔王一行脱獄中~不法入界者の情報求む~っと」


「おい……なにやってんだ」


「蛇の道は蛇ってね、裏サイトでその手の奴らに宿なりなんなりを提供してくれる奴らのコミュニティがあるんっすよ……と、レスはえーなぁもう来た」


 ルルイエのPCに映し出された掲示板には次々とコメントが書き込まれて行く。

 その大半は報酬次第、という内容だったが裏を返せばその手の言葉を発した者は何かしらの情報を握っている。

 裏サイト、ひいては裏世界の住民である彼らは同業者に対して嘘を吐かないことを信条としている。

 いかんせん同業者の間で悪評が広まるという事は、彼らにとっては仕事が回ってこなくなることを意味しているからである。


「報酬ねぇ……警部、いくら出せる?」


「警察に頼るな。俺はむしろこいつらを捕まえなきゃいけない側だぞ」


「だよねぇ、警察の名義で小切手なんて出したら私も袋叩きにされるだろうし……現物かな」


 そう口にしてからカタカタとキーボードを打ち鳴らすルルイエ。

 何かに使えるかとデータ化して取り込んでいた、とある極秘写真のサンプリングデータを掲示板に張り付けた瞬間だった。

 ルルイエのスマホに大量のメッセージが届き始めた。

 鳴りやむことのないそれを思わず取り落としたルルイエに代わってアバーラインが中を検めていく。


「ちょっと待てお前ら片っ端から情報送ってくんな。ほしい情報はこいつらの奴だ!」


「うっへぇ……男の性欲ってこわ……」


「お前が言うな……っと、アデル。メモ取れ」


「うっす」


「昨日までラブ地区の商店街に潜伏、今朝早くに出たそうだ」


「ラブ地区商店街……っと。今朝早くってことはそこから4時間圏内……飛行は目立つから避けるとして車での移動だと……」


「その情報もある。移動方法は白いバン14台……全部別の方角に移動したが行先は決まっているみたいだな」


「白いバン14台っと」


「今からいうナンバーを控えてすぐに本部に連絡、いいか?」


「うっす」


 一呼吸おいてからアバーラインは車のナンバーをアデルに伝えていく。

 それをメモ用紙に書き記したアデルは、アバーラインが頷くのを見てから自分のスマホで本部とやらに電話を掛けた。


「お手柄だな、やればできるじゃねえか」


「虎の子使ったんでこんくらいは当然っすよ。他になんか有力な情報はありました?」


「あぁ、どうやら奴さんら転移門に向かっているらしい。今から検問引いても間に合わねえなこりゃ」


「そりゃまた、逃げる腹積もりですかね」


「だといいんだがなぁ……」


 含みのある答えを返したアバーラインにルルイエは首をかしげる。


「この自称大魔王、肩書通りこいつがリーダーやってるんだが……なんというか負けず嫌いでな。ムショの中でもしょっちゅう揉め事起こしてた問題児だったんだ」


「そりゃまた……」


「やはりナコトにどうにかしてもらうしかねぇなこりゃ」


「呼んだー?」


「あぁ、お前さんの出番だって話だよ」


 アバーラインがそういうとナコトはエプロンで手をふきながらルルイエの後ろに立った。

 同時にデスクの上に置かれた写真を見て眉をひそめたが、PCに映し出された掲示板とその内容を見て納得したように笑みを浮かべる。


「なるほどねぇ……それで転移門がうんたらって言ってたけど?」


「あぁ、どうやらそこにこいつらが向かってるらしいからな。俺たちは先回り……できればいいんだが最悪の場合一時転移門封鎖も考えなきゃならんな」


「へぇ……んーこれ見る限りその心配もなさそうだけどねぇ」


 デスクの上に置いてあった調書や報告書をパラパラとめくりながらナコトは答える。


「自信過剰で対抗心が強く、また一度敵対した相手には徹底的に応戦する……しっぽ巻いて逃げるような手合いじゃないと思うよ」


「俺もそう思う。だが万が一という事もあるからな……お前も経験あるだろ」


「まぁそっか。だとするとそうだねぇ……今から急行する?」


「あー、そうしたいのはやまやまなんですけどねぇ」


 二人の会話にルルイエが割って入る。

 その表情は苦々しさを交えた笑みである。


「どしたの?」


「これ、届けなきゃいけないんですよねぇ」


「あぁ報酬の……」


「こういうのは後回しにすると面倒なんで、チャチャっと行ってきますわ」


 そう言って金庫を開け、中に収められていた封筒を取り出したルルイエはアバーラインに預けていたスマホを受け取ると窓から飛び出して行った。


「じゃ、俺らも行くか」


 そして残る三人も、アバーラインの言葉に無言で頷いて事務所を後にするのだった。

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