01-006

 だが、まだ低いと判断した大翔は振り抜いた拳をそのまま地面に付け軸とすると、体を回転させ今度は右足を振り回した。


 体全体が微かに浮かんでいた彼女に右足を蹴りつける格好となり、さながらボレーシュートの格好で、華奢な体を再び地面へ叩きつける。


 彼女の体は今度は大きく跳ね、上空五メートルほどの高さまで届いていた。


 体の自由を奪ったことを確認してから、大翔は左手に持った最後の仮面……狼の仮面を起動する。


 狼の面は他の面と同様、形を崩して炎となり――炎はやがて刀の形を成す。


 日本刀に変化したそれを掴むと、炎が刀身に巻き付いた。


「吹っ飛べ!」


 空中に浮かんだ彼女に向け、大翔は力の限りにその刀を振り抜く。


 剣先の軌跡に沿って波状の炎が放たれた。空中に浮いていた彼女が防御姿勢を取れるわけもなく、無防備な状態で炎の威力を全て受けとめるハメとなる。


「ぐうっ……⁉」


 言葉にならない呻き声を溢しながら、体がピンポン玉のように飛んでいく。


 十メートルは飛んだだろうかと言うところで、ようやく失速を始めた。スーパーボールよろしく再び地面に叩きつけられ、最早受け身も取れないその体は大きく弾んで炎の壁に衝突する。


 ぐにゃりと炎の壁が形を変え、包み込むように彼女を優しく受け止めた。


「たっく……手間取らせやがって」


 緊張感と一緒に言葉を吐き出すと「撤収」と力なく言葉を続けた。周囲に散らばっていた炎達はその言葉に反応すると、面ではなくそれぞれを象った動物の形そのものになって大翔の元に駆け寄った。


「ええい、鬱陶しい!」と軽くあしらいながら彼女の元に向かう。


 すっかり動く気配はない。しゃがみ込んで鼻元に手を置いてやると息をしていることは確認できた。


 ――やりすぎたかね。


 若干の心配をしていたが、大事には至らずほっと一息つくと「まあ、自業自得って事で」と、大翔は右手から炎を少し出す。少年の陣羽織とおなじ山吹色をした炎を、ゆっくりと彼女の体に落としていく。


「ま、お詫びに早く楽にしてやるよ」


 大翔はその場で〝処理〟を始めた。

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