2・1親友
翌日の午後、親友に会うために王宮へ向かった。
彼女、ルクレツィア・シュヴァインナーズは第三王女で一つ年上。王宮の西翼に住んでいる。
西翼には他に双子の兄妹、第二王子のクリズウィッドと出戻りの第二王女クラウディアいる。
ついでに。東翼にはユリウス国王陛下と愛妾、オズワルド皇太子一家。その妃は私の姉だ。
実は西翼の三人の母君様は陛下の側室で、ゆえに少しばかり不憫な処遇だ。しかも母君様は昨年、修道院に入られてしまった。
ルクレツィアと友達になったのは12のとき。皇太子妃になった姉の元へ行く母について行ったときのことだ。王宮に興味があって駄々をこねて同行させてもらった私は、母と姉の話が盛り上がっているのをいいことにこっそりと抜け出して探検に出た。で、ルクレツィアと出会った。
すっかり意気投合して仲良くなった私たち。
両親はラムゼトゥールの人間が西翼の住人と付き合うことを良く思っていなかった。ただ末っ子の私には甘い、というか、適当というか、扱いが雑なところがあったので、黙認された。
ルクレツィアとはその出会いから今まで、ずっと親友。
公爵家の令嬢で父親が宰相なんて、人も羨むハイスペックだけど、それ目当てで近づいてくる人間がわんさかいる。
というか、ほぼそう。
そんな中でルクレツィアは真の、そして唯一の友達だ。
私はそんな彼女と、たかが一人の男を巡って仲違いをしたくない。
◇◇
侍従に案内されたのは西翼そばの庭の一角。
すっかり春めいてきたので、庭でティータイムらしい。優美なパラソルの下に、素晴らしいお菓子がいっぱいの円卓。そして可愛いルクレツィア。
「アンヌ!」
彼女は私を見つけると可愛らしく声をあげて立ち上がった。
ルクレツィアはブラウンの波打つ髪と鳶色の瞳をした綺麗系美少女だ。
普段は髪の美しいウェーブをいかすため、後ろでひとつに結っているだけだ。そのシンプルさが彼女にとても似合っている。
ちなみに私もいつもひとつ結びだけど、単純に派手な髪型が嫌いだからだ。
「あなたが来ると聞いて、張り切ってしまったわ」
「ほんと、沢山のお菓子ね」
ふふっと笑うルクレツィアとその侍女。
「約束の日ではないのに、ごめんなさい」
私の言葉にルクレツィアは
「あら、嬉しいわ」
と微笑んだ。
どうしてこんな素敵な彼女が悪役令嬢その2になるのだろう。理解できない。
私たちはとるに足りない話と美味しいお菓子を楽しんだ。
しばらくして、ルクレツィアは
「そうそう、聞いたかしら? フェルグラートの新当主のこと」
と言った。
そう! それこそが今日の本題だ。
「聞いたわ、舞踏会の招待状が届いたの。彼を呼ぶのですってね」
「陛下も思いきったわね」
とルクレツィア。西翼の三兄妹は父親のことを陛下と呼ぶ。その辺り、察するに余りある。
だけど。
「思いきったってどういうこと?」
私の質問に、彼女はしまったという表情をして手を口で押さえた。
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