第6話 知らないテント
ぼんやりと
「寝違えたたたっ!!」
涙目になりながらも、痛みで思考が落ち着いてくる。
「そっか、私、家出したんだ……」
「勝手に出ちゃダメだったよね」
日はとうに
確か、トイレのときは大声で呼べと言っていたが――なんて、意識し始めると、だんだん、行きたくなってきた。
「ちょっと、我慢してようかな」
それから、十数分が経ったが、クレイアが帰ってくる気配はなかった。
「おーい! クレイアさーん!」
大声で呼んでみるが、返事がない。その後も呼び続けたが、一向に、返事がない。
「トイレ探さなきゃだし……もう我慢できない!」
フラグよ、折れていてくれ、と願いつつ、テントの外に出ると――足に何かがつっかえて、危うく、転びそうになる。
足下に視線を落とすと、そこに、白髪の少女、否、クレイアが倒れていた。
「ちょ、ちょっと、クレイアさん!? 大丈夫ですか!?」
軽く揺すると、かすかな
「生きてる――」
ほっと、胸を
横をすり抜け、その影から離れながら、振り返って正体を観察する。白いローブを
「あの背中の紋章――間違いない、革命教だ」
女の心臓に杖が突き刺さっている、悪趣味な
十分に距離をとって、敵の一挙一動に目を配る。
風にローブが
――くる。
火の球が
「……遅い」
避けることはできるが、私の後ろには
だから、受け止める。
燃え盛る火炎は、私とクレイアを焼き尽くさんと迫り――当たった直後、消滅した。
「なっ!?」
驚いた声を合図に、一直線に駆けて、その首を手で打ち、確実に意識を
「ふぅ……」
今更ながら、初の実戦だったことに気づき、遅れて
だが、気持ちを落ち着けなければ。冷静さを失えば、大事なことを見落とすかもしれない。
呼吸を整えながら、足下を見やる。確実に、意識を失っているようだ。
「今まで、襲われたことなんて、なかったのに……」
なぜ、バレたのだろうか。もしかして、クレイアが――。
「ん……」
かすかな
「クレイアさん、起きてください!」
その体を必死に
「死なないで! お願いだから!」
「や、やめ、ちょっ、ちょっと! やめなさい!」
「うべっ」
ベチン! と
「あんた、馬鹿力なんだから、少しは考えなさいよ! それに、そんなに揺すらなくても、ちゃんと起きてるから」
「だってぇ……!」
半べそをかきながら、抱えているクレイアの赤い瞳をのぞきこむと、彼女は半分
「ごめんなさい。つい、テントにたどり着く直前で寝ちゃって」
「いや、寝てたんかいっ! てか、なんでこんな
「寝たばかりだったから、起きないわよね」
「開き直るな!」
あはは、と笑う彼女に
「……汚いから、早く下ろして?」
「汚いって言うな!」
ティッシュをもらって、鼻をかみ、ゴミ箱を探すと、ちょうど、一キロ先に見つけたので、ひゅっと投げる。
「よし、入ったっ」
「……あはっ。すごい勢いで、ティッシュが、飛んでっ、あはっ、あはははは!」
「なんでそんなに笑ってるんですか?」
ふと、それまで大笑いしていたクレイアの表情が、一変した。
「このにおい……」
「クレイアさん?」
「アイネ、息しないで!」
「それって、死ねってこと――」
急速に意識が遠のき、目の前が真っ暗になった。
***
うっすらと目を開け、少しずつ、意識を
「いたたたた反対側も寝違えたっ!」
「ふふっ」
隣から聞こえる失笑に、首を押さえながら目だけ動かすと、そこには、白髪に赤い目をした少女――否、クレイアがいた。
「あんた、寝起きはいいのね」
「どういう意味ですか?」
「いいえ、こっちの話よ。――それより、大変なことになったわね」
首が回せないため、立ち上がってその場で回りながら、辺りを確認する。人がたくさんいて、
「私、そんなに寝顔
「別に、誰もあんたに
クレイアの指差す方には、確かに、鉄格子があった。
「これがどうしたんですか?」
「……あんた、
「馬鹿じゃないですっ!」
「じゃあ、状況は分かるわね?」
「おお、おお、やってやりますよ」
怯えた顔の人たち。よく見ると、私とクレイア以外の人の腕には、魔力封じの腕輪がつけられている。
それから、石の壁に、石の天井、鍵のかけられた、唯一の出入口である鉄格子。この鉄格子を壊してはいけないルールだとすれば、導き出される答えは一つ――。
「脱出ゲームですか?」
「
「
「ええ、ここにいる全員ね。あんたが倒した相手は多分、
誘拐、ということは、つまり。
「めちゃくちゃヤバいじゃないですか!」
「そうね。あんたの寝顔よりずっとヤバいわよ」
と言うわりに、クレイアに大きな動揺の色は見られない。――ていうか、今、ディスられなかった? いや、今は、それどころじゃないか。
「どうしよう……!」
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