第二章 惚れたけど距離が遠すぎる
現代文のときの縦書きも、数学のときの数式を書くところも
「よし、じゃあこの問題がわかるやつ……と見せかけて、
「ふぁぃぇお!?」
自分でも聞いたことのない声をあげ、必要もないのに立ち上がってしまった。昼休み直後の
「どうした
英語のグラマーの先生がにこにこしている。いつも
「うぐ……す、すみません……っ」
「謝らなくていいさ。この問題を答えさえすれば何も問題はない。答えられない場合は何かしらひどい仕打ちをするぞ」
「後半でキラキラ
教室がさらに笑いに包まれた。
「せんせー。このご時世にひどい仕打ちをする、とか言わないほうがいいと思いまーす」
最前列の男子が手を挙げ、笑いながら言う。先生はあごに親指を
「じゃあ、体育の時間だけ常に右ひざに
「思春期男子がのびのびと遊ぶ場を
(よし、これなら……って、うーわ……)
いつも以上の手応え。これならば
(どうしたもんかなぁ……)
心の中で
「いや、笑いをとったことでお役目終了みたいな顔をするなよ?」
「あ、マジですみません」
もうひと笑いを起こし、案の定答えもわからなかった。
授業のあと、英語の先生は
「教室の空気をよくしてくれるのはありがたいが、もう少し真面目に授業を聞くように」
「す、すみません……」
× × ×
「なあ、
「ん~? なに?」
昼休み。
「なるほどね~、好きで好きでしょうがない
「なあ、なんでいっちばん俺が
「
「
こほん、と
「
「そうだね、だからこの場合はゆっくり……」
「だから、
「ん?」
「いっそ、勇気を出して
「ん?」
「いや、だから。この気まずい
「
糸みたいな目が開いた。
「真面目だっての。こういうのは早いに
「
目がさらに開く。
「み、
「
画面を開く。
『TA☆WA☆GО☆TО☆』
ものすごく手短で、なおかつ
「昼休みももう終わりそうだから、歩きながら話そうか」
「お、おう、わかった」
にこにこ
「
「なあ、そいつもはや人間じゃないよな?」
「まずは
「そうそう。
「
「転生経験はないかなー。耳年増なだけだよ」
教室に
「ねえねえ
「グラウンドでご飯を食べてたんだよ」
ちらりと
ものすごい勢いで顔をそむけられた。磁石の同じ極を全力で近づけたのかと思うほどに。
毛先があごの辺りまである銀の
「…………」
前を見る。
格差という言葉は、経済格差などの大きな
× × ×
とある日の夜。
「うーん、お兄の料理はこの
「毎回言うけど、それ
肉と野菜を
両親ともに仕事で
「お兄。お休みの日でいいからさ、新しいお料理作ってよ。あたしも作るから」
ひよりとは見ているチャンネルの
「はいよ。んじゃあ買い出しに行かないとな」
「やたっ。楽しみー♪」
にぱっ、とひまわりが
再生リストに入れた動画でまだチェックしていないものがあったので、今度はその動画を参考にして料理を作ろうか……と思っているときに、ふと。
(
(パンを買ってるのは見たことあるけど)
「お兄、さっきからぽーっとしたり絶望したり、
「……そんなこたあない」
お茶を口に
「
全力でむせた。
「お前な……」
げほげほと
「でも、そっかそっかー、お兄もそんなお
ひよりがテーブルに両ひじをつき、手のひらにあごを乗せる。シュシュでまとめたポニーテールをぴっこぴっこと楽しげに
「年上なんだけどなぁ……」
「え!? 先生なの!?」
「そこはまず『
「知ってるけど」
「ボケといて自分から引くのやめて?」
立ち上がり、楽しげに笑う妹の頭をくしゃくしゃと
「お兄、知ってる? 女子の精神年齢は実年齢のふたつ上で、男子は実年齢のふたつ下なんだって」
「ふーん?」
視線で続きを
「すなわち……あたしの精神年齢はお兄よりみっつ上なのです! どやぁ!」
「ふーん、すごく
「ちょっと棒読みすぎない? 泣きそうなんだけど」
お
「ふみゃー」
洗い物を終えて手を
「コタロー、どうした?」
マンチカンのコタローがちょこちょことやってきて、つぶらな
「みゃー」
気持ち良さそうに目を細めたコタローがひょいと立ち上がり
「お水だね~? 待っててね~?」
コタローは昨年
「コタローは
しっぽの付け根をぽんぽんと
あのとき
(本当は好きなのかな……ん?)
「コタロー、お水だよはぁぁんかわいい!」
ちっちゃく丸まったコタローを見るなり、ひよりが口を手で押さえて「ふぐぅ……っ」と変なうめき声を
× × ×
「
とある日の放課後。
「うんうん」
「わかるわかる」
他の男子も次々と
(みんなは
パパラッチと呼ばれたことも、現在進行形で塩どころではない対応を受けていることもいったん忘れて
「なんかさ、あまりにも目立ちすぎるから話しかけづらいっていうか」
(……ん?)
「わかるわかる。あの見た目でほとんど
「……そうか?」
「
「クラスの
「その
「やっぱさ、
「うんうん、めちゃくちゃ
「大学に入って留学生を見るようになったらもうちょっと慣れそうだけど、公立の小中学校に通っていきなりあんな人を見たらビビるビビる」
「……なるほどなぁ」
男子たちの発言には
「
「ものすごい勢いでシカトされてるみたいだけど」
「なんで知ってんだよ!?」
「「「みんな知ってるけど」」」
「
男子たちの口をそろえての言葉に
「
「う~ん……」
「……うちさ、両親の教育方針が自由気まますぎるんだよな。放任、ってわけじゃないんだけど、デバイスにアプリをありったけ入れて、家にある本もいつでも読んでいいって言って、『あとはお好きにどうぞ』って感じなんだよ」
「なんだそれ、すげぇ
「それで、小さい
「「「……………………」」」
男子たちが目を見開いて
「すばらしい」
「うむ、すばらしい」
「急にどうしたんだよ!?」
なぜか
「いや、すげぇな
「人類がみんなお前みたいだったら戦争も起こらねえよな……」
「まあ、
「それじゃあまた明日」
「「「待てや」」」
× × ×
「はぁ、はぁぁ……あいつら、今日は体育がなかったからって全力で追いかけやがって……っ」
男子たちは結局、一階を三周したところでようやくまくことができた。さんざん
開け放たれた窓からは、野球部や陸上部、グラウンドホッケー部が活動している声が聞こえてくる。吹き込む風が温かく、思わず目を細めた。
(俺の考え方って、みんなとちがうのか)
先ほどの会話を思い出す。
見た目がちがえば「そういう人もいるよなぁ」と思い、考えがちがっても同じく「そういう人もいるよなぁ」と思う。それくらいフラットなほうが、色々な物事に興味を持ち、
現に
「……だめだ、急に
今日は用事もないし、さっさと帰るか……と思っていると。
「あれ、
屋上に続く階段に
「ぐおぉぉ……ご、ごめん……っ」
「……ドウシタノ?」
一応心配していますが、というスタンスをとっているが、「何してんのお前(
「
「ええっと、
「
「ちょっと待ってちょっと待って!?」
ぽつぽつとつぶやく言葉が
立ち上がってひざを
どうしたものか……と思っていると、
「
「あ、ああ。わかった、ありがとう……?」
曲がり角を曲がるまで、
Interlude
「
入学式の日の通学路、それと
他のクラスメイトが……それどころか
「……べつに、許してないわけじゃないから……」
「あの態度で許してるんだったら、許してないときはいったいどうしてんのさ……」
「……
「思ったより
けらけらと笑う。
「ていうか……
「呼び方……。まあね~……」
気を許したごく一部の人──それこそ、家族や自分にしか見せない
それから、無防備にじゃれつく姿。
そのどれもが、同性でなおかつ
こほん、と
「それにしてもさ、もうちょっと反応してあげてもよくない?
「え……っ。ほ、ほんとに……っ?」
どうやら気付いていなかったらしい。こうやって
「
「ちょ、やめ、わしゃわしゃしないで……っ」
「……
「……なんか、私がいじめてるみたいなんだけど……」
「なるほどなるほど? ええと、『冷たい目で
「や、やめて、そこだけ切り取るとほんといじめみたいだから……っ」
「ふぶぶぶぶ……っ!? ちょ、顔を
「まあ、今のは
「う、うん……実際やってたことだし……」
「あ、ちょ、そんな
予想以上に落ち込む様子に
──人を傷つけ慣れている人などそうそういないだろうが、
「まあまあ、明日
「え……難易度高い……休もうかな」
「おうこらええ度胸しとるやないかわれぇ」
「ふぶぶぶ……ちょ、顔
両手で
今日も親友が
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