第62話 呪い

ここはオーストラリア首都キャンベラ。仲の悪い2人が降り立っていた。


彼らが討伐を任されたのは『ヨルムンガルド』。世界を飲み込むと伝えられている大蛇だ。


「はぁ、聞いてた通りでかいね。どこまで続いてるんだろう」


その全長は見渡すことができないほどだ。一般人には見えないわけだが、見えないことが逆に気持ち悪くなるような大きさだった。


何が一番気持ち悪いかというと、同じ蛇でもケツァルコアトルとは違い地に根を張っているのだ。


「知るかよ。ただ地面に居座っているこの蛇の方が飛んでる蛇より人間に対しての影響力は強いぞ。ヨルムンガンドの範囲に住んでる連中の寿命は少なくとも20年位は一律で持ってかれてるぞ」


「だから僕らは来たんだよ」


「言われなくてもわかってるよ!」


「とにかく人命がかかっているだ。気を抜いてはいけないよ」


「俺に指図するな、クソ野郎!先にお前を殺すぞ!」


「そういう野蛮なことを言うのはあまりよくないよ。まあ君にあまりやる気がないのであれば、僕一人でアレを消し去るまでだけど」


ミナトは謙虚な物言いをする方だが、自分の力に自信がないわけではない。むしろ全部一人で片付けられると思っている。神殺しさえも一人で。


「おい!誰がやらないっていった!?横取りしようとしてんじゃねーよ!」


ミツキはミナトのこの傲慢さが嫌いだった。


「それなら二人でやろうよ!昔みたいに」


そして反対すればすぐに自分の意見を変える傲慢さもだ。


「昔だぁ!?そんなもんとっくに忘れた!!!」


ミナトの言葉にミツキが声を荒げる。正確には忘れたのではない。ただ思い出したくなかったのだ。




孤児院時代、ユキト、ミナト、ミツキはいつも三人で遊んでいた。


各々の性格は今と大して変わらなかったが、三人はとても仲がよかった。


だが親代わりであったノリムネ・イシガミの死をきっかけにして、三人は完全に仲違いをすることになる。


ユキトとミツキはイシガミの姓を捨て、ミナトだけがイシガミを受け継いだ。このイシガミという姓こそがユキトとミツキにとっての置き土産のようなものだった。



それから1か月、ヨルムンガンドに傷をつけることさえできずにただただ過ぎていった。二人の力なら少なくとも傷ぐらいはつけられるはずだ。でもそれができない。答えは単純。二人が一切協力しなかったからだ。


「ミツキ!やっぱり二人でやらないとこの神獣には勝てないよ」


「けっ!お前みたいなファザコンと組めるかよ。いつまでジジイにしがみついてる気だ!」


「じゃあ君たちは父さんのことを忘れられたとでもいうのかい?」


ミナトの声に怒気がこもりだす。


「忘れはしないが過去のことだ」


「そうだね。君たちはイシガミの名を捨てたんだもんね」


「俺とユキトにはもういらなかったからな。ジジイの意思を一番蔑ろにしてるのはてめぇだ。それはてめぇが一番よくわかってんだろーが」


「もう黙ってくれ。僕は君を殺したくない」


ミナトが俯き震えながら声を絞り出す。


「やっとそのイラつく笑顔が消えたじゃねーか。殺してみろよ」


トグロを巻いているとんでもなく巨大な蛇を足元に置きながら、2人が睨み合う。まるで一般人と同じようにこの巨大な蛇が見えていないかのように。


二人は悪魔を降ろす。まさに一触即発だ。



「おぎゃーーー!!!」



そんな二人の動きを止めたのはリュウの泣き声だった。元上人である赤ん坊は二人の間に泣きながら浮かんでいた。だがただ浮いているわけではない。彼は中にいただけ。山よりも大きな巨人の中に。巨人は半透明で幽霊みたいなもの。何にも触れられず干渉することもできない。ただそこにあるだけの映像のような何もできない巨人。


だがミナトとミツキの頭を冷やさせるのには十分だった。


本来ならダイダラボッチが力を取り戻すまであと数十年かかる。でもリュウは無理やり形だけ顕現させて見せたのだ。


ダイダラボッチの残像はすぐに消え、無理をしたリュウも気を失って落ちてくる。それをミナトは抱きとめる。


「ミツキ、赤ん坊に怒られるようなことをしている場合じゃない。ここはリュウの思いに免じて少しだけ協力しようか?」


「赤ん坊と言っても元上人だが、確かにウンリュウのじいさんには世話になった。いいぜ、手を組んでやる。15分でどうだ?」


「うん、十分だろう」


「じゃあやるか」


「ああ」


色々めんどくさい回り道をしたがここでやっと鼠と蛇が協力することになった。




完全にルシファーと一体化したミナトと完全にリヴァイアサンを支配下に置いたミツキがヨルムンガンドへと向かっていく。


気怠そうに地に伏せていたヨルムンガンドだったが、向かってくる二つの強者の存在を感じて起き上がる。



―傲慢の罪―


―嫉妬の罪―



ミナトとミツキの二人のオーラが絡み合っていく。



―大罪―



そして二人の力が混ざり合った光がヨルムンガンドを貫く。


『ぐがああ!!!』


今回の戦いで初めてヨルムンガンドにダメージらしいダメージを与えられた。


だがそれでもヨルムンガンドを倒すには至らない。


「もう一発行くよ、ミツキ」


「いちいち言われなくてもわかってる。あと残り12分。その間は共闘してやる」


もちろん一撃でヨルムンガンドを倒せるとは二人とも思ってはいなかった。あとは時間との勝負。この2人が共闘できるのは15分が限界だからだ。


と言っても別にそう言った縛りがあるわけじゃない。ただ単純に仲が悪いだけ。我慢出来るのが15分までということ。



―大罪―


二人は時間いっぱいまで容赦なくヨルムンガンドに攻撃を降らせ続けた。


そして14分43秒したところで、ヨルムンガンドは力尽きる。



「はぁ、吐き気がする。気分が悪いぜ。お前と一緒に攻撃するなんて」


「そんな寂しいこと言わないでくれよ、ミツキ。まあ僕も気分が悪くて倒れそうだけども」


「お前だって嫌だったんじゃねーかよ」


「違うんだ、ミツキ。僕は君を嫌っているわけじゃないんだ。ただ体が受け付けないだけなんだ」


「いや、だからそれが嫌いってことだろうが」


「そんなことあるわけない!僕が孤児院の皆を嫌うなんて!そんなことあるわけ、、、おえぇ!」


ミツキに駆け寄ろうとしたミナトは突然その場で膝をついて嘔吐する。


「思いっきり吐いてんじゃねーかよ。無理してんじゃねーよ。お前は俺を恨んでる。俺もそうだ。おいつも同じだ。俺たちは互いを許すことなんてできないんだよ。俺たち三人はもう笑い合うことはできない」


ミツキはそう言ってミナトに背を向ける。


「、、、そんなことは許されない。父さんは最後にみんな仲良くと言ったんだ!僕は絶対に諦めないぞ!」


「ちっ!お前が一番無理だろ―が!お前はいつまでジジイの言葉に呪われているつもりだ」


「黙れ!いくらミツキでも許さないぞ!父さんの言葉は呪いなんかじゃない!訂正しろ!」


「お前を見ていて呪いじゃないなんて思えるほうがイカレてる」


「ミツキーーー!!!」


ミナトはミツキに飛び掛かろうとするがミツキの前までたどり着く前に途中で嘔吐して倒れこむ。


「ほら見ろ。これが呪いじゃなくて何なんだよ」


ミツキは辛そうな顔でミナトを見てそのままその場から去っていく。

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