第57話 ロンドンと東京
再び時は戻ってここはロンドン、ヒースロー空港。
「やっと着いたな。ここがイギリスか」
「どうだ。いい国だろ」
「いや空港内の時点でいい国も悪い国もまだないだろーが」
ベロベロのユキトとヘイシは空港に降り立ち、フラフラしながらピカデリー線のホームを目指す。
「ていうかおっさん。エディンバラにも空港あるらしいじゃん。なんで直接行かなかったんだよ」
「せっかくの旅行なんだからいきなり仕事なんてつまんねーだろ。だからそこそこ遊んでから退治に行くぞ」
「おい、急いで強くならないといけないんじゃねーのかよ」
「悪魔憑きが強くなるのに時間なんて関係ねぇよ。どれだけやっても強くならなかっったり、逆にきっかけ一つで一気に強くなることもある」
「そんなもんかねぇ」
そんなことを話してるとユキトの影からアンリとシンが飛び出してくる。
「ユキト!背と鼻の高い人間がいっぱいなのだ!」
「ユキト、お腹空いた」
飛行機代を浮かすため、二人はユキトに頼まれて影に入っていた。飛行機代だけでなく入国審査とかもかなり面倒であったのも理由だ。という訳で20時間ぶりの再会であった。
「まあせっかく皆で海外に来たんだし楽しむか」
「お前相変わらずアンリ・マンユには甘いな」
ヘイシはわかっていながらもアンリに対するユキトの甘さに呆れている。
「あ、シン!あそこにケバブ売ってるから買って来てやるよ」
「ユキト、好き!」
「あ、このお嬢ちゃんにも甘いんだな」
あ、もう一人増えたんだという感じでヘイシは呟く。と同時に一人ってかこれ人じゃねーなともすぐに気付いた。だけどややこしそうなので完全にスルーする。
実際、三原則にはシンの存在についての詳しい情報がファイルとして送られている。だがまあこのおっさんがそんなものを確認してるわけない。ちなみにもう半年ほど確認していない。
「ユキト!我も我も!」
「わかってるよ」
まあヘイシのルーズさは置いといて、空港で適当に飯を買った一行はロンドン中心部へと向かう。
*
俺たちはロンドンを満喫していた。俺とおっさんは迎え酒というか追い酒というか、そんな感じでパブを飲み歩き、アンリとシンは片っ端から料理を食べまくった。
魚揚げたり芋揚げたり、他にも何か揚げたりみたいな雑な料理ばかりだったがアンリとシンはうまいうまいと食っていた。そう、こいつらは質より量なのだ。そう考えると二人にとっては海外の方が向いてるのかもしれない。
そんなこんなでゆっくりと旅を楽しみながら俺たちは一週間かけてエディンバラに入った。
そしてその瞬間に確信した。ここは人が住めるような場所じゃないと。
「おい、おっさん。ここは本当に地球か?」
「位置的にはな。だが空間自体は異界と言ったほうがいいだろーな」
「で、ここを自分の物にしてんのがアレ?」
「そうだな。見えてないやつらが羨ましいだろ?こんな気色悪いもの」
見上げた先では果てしなく長い巨大な蛇が悠々と空を泳いでいた。
「これをどうやって殺せばいいんだ?」
「どうやって?そんな作戦とか立てて倒しても意味ねーだろーが。今回は修行のために来てんだぞ?真っ向勝負の単純な力で上回って勝てよ。意識とか失ってもいいからよ。その時は俺がなんとかしてやる。だから腸が裏返ってもいいぐらいに踏ん張ってみろ!」
「すげぇ汚い例えなのに何となくしっくり来たわ。そしてしっくり来たことにがっかりしたわ」
「とりあえず生半可な成長なんていらないってことよ。突然変異でもしろってことだ」
「簡単に言いやがる。でもまあそれぐらいはするつもりで来てる。なぁ、アンリ」
「もちろんなのだ!お腹いっぱいの我ならとつぜんへんい??ぐらい余裕なのだ!!!」
「ユキト、私もそのトツゼンヘンイやってみる」
「じゃあ皆で化け物になってやるか」
「「おお!!!」」
*
鼠、蛇、猪、猫が海外に向かっているころ、東京は東京でそれなりに動いていた。
上人コウイチロウはロンギヌス全体の力の底上げを目指していた。
という訳で一般隊員の前に教官として呼ばれたのが二人の副隊長だ。
「はぁ、なんで俺が部屋から出なきゃいけないんだ」
「そうだね、わかるよ。でもここは僕たちのリアルではないけど、次のアップデートでの課金アイテムを買うためにはしょうがないことだよ」
「はぁ、俺たちはこっちの世界なんかを守ってる場合じゃないってのに」
十三槍の一般隊員たちを鍛えるために呼ばれたのは、猫と鼠の副隊長。
十三槍きっての引きこもり二人。だがその実力は隊長たちにも引けを取らない。副隊長たちの中では頭一つ二つ抜きんでた存在だ。ただ引きこもっているだけ。
という訳で、この緊急事態、この二人にネトゲをさせておくわけにはいかないということで、コウイチロウが呼んだのだ。
「コウイチロウさん、課金アイテムを買ってくれるって言うから来たけど、基本的に俺たちは夕方には帰るから。今日も狩りに行かなきゃいけないんで」
ザノザはダルそうにコウイチロウに言う。
「う、うん。よくわかんないけど、まあなんかそういう譲れないものがあるってのは猫から聞いてる。時間になったら帰っていいぞ」
「ユキトもたまにはいい仕事してるじゃねーか」
「はいはい。というわけでお前らは適当に一般隊員たちと戦って強くしてやって」
「いや戦うのはいいんですけど、兄と違って僕は人に教えることなんてできないですよ?」
カナタは不安そうにコウイチロウに言う。
「、、、まあ大丈夫大丈夫」
コウイチロウはそんな弱音をさらっと流してどこかへ消えていった。
人を鍛えたことなどなく、自信もやる気もなかった二人だが彼らは効率よく隊員たちを鍛えた。
リアルは別として、彼らはネトゲの中でレベリングを腐るほどやってきたからノウハウはわかっていたのだ。
「ザノザさん!ちわーっす!」
「カナタさん!お疲れ様です!」
そんな優秀な教官二人は隊員たちからすぐさま尊敬される存在となった。そしてそうなってくると黙ってないのがこの2人である。向いていそうな隊員を勧誘してネトゲに引きずり込み、彼らが最近立ち上げたギルドはぐんぐん勢力を伸ばして行った。
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