第55話 中国組とオーストラリア組
こちらは中国行きの飛行機。乗っているのはもちろんユウカとカエデだ。
「ユウカ、あまり緊張しない方がいいわよ~。どうせ死ぬときは死ぬんだから~」
「全然励まされてないんですけど、それに飲み過ぎですよ。カエデさんこそほんの少しぐらい緊張感をもってもバチは当たりませんよ」
「なに言ってんの~。せっかくの海外なんだから楽しまなきゃ損よ~」
「他の二組はきっと真剣にやってますよ!」
割とそうでもなかった。
「鼠と蛇はどうかわからないけど、ヘイシ君はきっと酒飲みながらヘラヘラやってるよ~」
「もう、そんなわけないじゃないですか!」
完全に当たっていた。
「とりあえず着くまでは気を張っててもしょうがないんだから、ユウカちゃんも飲みな~」
「私まだ未成年ですよ?」
「硬いなぁ。きっとユキト君も飲んでるって~」
「そんなわけないでしょ。ユキトの名前を出して飲ませようとしないでください!」
そんなわけあった。全然飲んでた。
「じゃあ料理とか頼みなよ~」
「もうとっくに頼んでますよ!今待ってるんです!」
ユウカは料理の方はガンガン頼んでいた。全メニュー頼んでいた。
「あ、そうなの」
「料理が来るまでの間、今から倒しに行く神獣について教えてくださいよ」
「料理が来るまででいいんだ」
「充分です!料理が来るまでの暇つぶしなので」
「あ、言いきっちゃうんだ。まあいいけどね~」
酔っぱらいながらもカエデはこれから討伐に向かう神獣『麒麟』についての説明を始める。
神獣『麒麟』。麒麟は空を飛び回り天候を操る。というか神獣はみな大体天候ぐらい操る。
麒麟はどのステータスにしても規格外だ。だがそれはまあいい。麒麟だけが持っている力が一番厄介だ。麒麟だけが持っている能力それは『幸運』。
麒麟と相対した時、どれだけ確率が低くても可能性があるなら全てが麒麟に有利な状況になる。麒麟は神に愛された存在だからだ。
「え!?そんなのにどうやって勝つんですか!?」
「簡単よ。要するに麒麟が勝つ可能性を完全にゼロにすればいいだけだから」
そう言ってカエデはワインを一気に飲み干す。
「いや、それのどこが簡単なんですか!?相手は神獣なんですよね!」
「・・・」
「ちょっとカエデさん!」
「ぐー、ぐー、ぐー」
「嘘でしょ。このタイミングで寝るの!?」
そうこのタイミングで寝るのが三原則のカエデ・ニイナである。というか三原則はヒイロ以外大体こんな感じだ。
こうしてカエデに振り回されながらユウカもまた麒麟の元へと向かってゆく。
*
オーストラリア行きの飛行機に乗ってるのはミナトとミツキ、そして、、、
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「うるせえぞ!その赤ん坊!置いて来いよ」
「リュウは僕から離れたがらないんだよ」
元上人ウンリュウがリセットされた赤ん坊も一緒だった。この赤ん坊はミナトによってリュウと名付けられていた。『ダイダラボッチ』が憑いているが、まだ赤ん坊のためダイダラボッチを顕現させることはできない。故に戦闘とかは無理だが、ダイダラボッチの能力『不滅』は生きている。だから基本的に死ぬことはない。消し炭にされても蘇る。
「元はあのジジイだろ?そんなのに懐かれて気持ち悪くねーのか?」
「ウンリュウ元上人のことは言わないでくれるかな。さすがの僕もそれを思い出すと気持ちが悪くなる。でもまあこの子は別物として生まれなおしてるから」
「まあ赤ん坊まで戻っちまえば、上人もクソもねーか」
「君ってそういうのはさっぱりしてていいよね」
「あ?面倒なことは考えないようにしてるんだよ」
「あ、面倒なことだけ考えないようにしてたんだ。何も考えないようにしてるんだと思った」
「おい、ケンカ売ってんのか?」
「何で僕が?君も僕と同じノリムネ先生の子。つまり兄弟だ。兄弟に僕は喧嘩なんか売らないよ」
ミナトはとてもいい笑顔で答える。
「はぁ、お前は全部本気で言ってるから気持ち悪いんだよ。ったくユキトはイラつくし、お前は気持ち悪い。ほんと碌な奴がいない」
ミツキは諦めたように溜息をつく。
「ビーフ or チキン?」
いまいち噛み合わない会話を繰り広げ、これからもっと噛み合わなくなっていきそうなミナトとミツキの元に助け舟のようにスチュワーデスがやってくる。
「ポーク」
「フィッシュ」
そんなスチュワーデスに対して最悪の答えをする二人。
「おい、ミナト。ビーフかチキンか聞かれてるんだからせめて肉にしとけよ」
「僕は肉は食べないんだ。というか逆に肉でいいならビーフかチキンにしなよ」
「俺は豚肉が好きなんだよ!」
「本当に昔から我儘なところは変わらないね」
「お前こそなんかアレだ。めんどくさそうな感じは変わんねーな」
「変わらないよ。そもそも変わる意味がない。君こそ変わりなよ。君には変わる理由が山ほどある」
「知るかよ。理由だのなんだのは興味ない。俺が変わりたかったら変わるし、変わりたくないなら変わらない。てかお前こそ変われよ。今のままじゃ俺が不快だから」
「君は昔から本当に我儘だね」
「お前は昔からイラつくしゃべり方をするな。ジジイのマネのつもりか?」
「マネじゃないよ。誰よりも父様を尊敬していた僕には父様のしゃべり方がおのずと染みついただけだよ」
「はぁ、そうかよ。まあいいや、俺は着くまで寝る」
「着いたら起こそうか?」
「さすがに飛行機がついたら起きるわ。余計なことしなくていい」
「そう。まあそれでも起きてなかったら起こすよ」
「はぁ、勝手にしろ」
「うん、勝手にするよ」
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
「うるせーよ!」
「大きい声出さないでよ。ほら、リョウ。よしよし」
ミナトが赤ん坊をあやしているのを尻目に席を後ろに倒してミツキは目を瞑る。目を閉じると出発前のナルとの会話を思い出してしまった。
―私は行けないけど気を付けてね。ミっくん、すぐ無茶するから、、、―
―大丈夫だから心配すんな。すぐ帰ってくるよ―
―でも、、、―
―でもじゃねーよ。俺はお前が見てない所では死なない。絶対にだ―
―うん、そうだよね。わかった。行ってらっしゃい―
今回の海外遠征ももちろん祓魔師の同行は禁止されている。
ナルは同行させてくれと頼みこんだが却下された。ちなみにスズネも頼み込んでいたが、自分の担当する猫ではなく猪について行こうとしたため一瞬で却下された。
基本悪魔憑きと祓魔師はビジネスライクな付き合いでしかなく、親交を深めているようなコンビはいない。唯一仕事以外でも仲良くしてるのはナルとミツキぐらいなものだ。と言ってもナルが一方的に絡んでいるのだが。まあそれでもミツキはそれを嫌がることはなかった。これはミツキを知っている者たちからすると信じられないことだった。基本的にミツキは馴れ馴れしくされるのを嫌う。本来ならそうだが、ミツキはナルに対してだけは普段と違う態度をとる。
まあそれもある出来事がきっかけだったのだが、別に派手な出来事でもないのでここは飛ばします。まあナルがいい感じなことをして、それでミツキがいい感じだなと思ったってぐらいのこと。
とりあえずここからオーストラリアに着くまでミナトとミツキが会話することはなかった。だからオーストラリア到着まで飛ばそう。
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