第44話 総力戦2

「ガブリエル、お前はここで殺すぞ!」


「ははは!おもしろそう!やってみてー」



―無差別爆撃―


―風の道―



空からミツキが雨のような爆撃を行い、同じく空にいるユメが風を操ってその爆撃の行き先を一か所に集める。


「へえ」


ガブリエルだけを目がけて大量の爆撃が降り注ぐ。


だがこれで倒せたとは誰も思っていない。ミツキとユメだってこれは目くらまし程度のつもりで打ち込んだだけだ。


まあ景気の良い始まりの合図と言ったところだろう。この合図で俺たちは一斉に動き出す。だが誰よりも早くガブリエルに斬りかかって行ったのはヘイシのおっさんだ。


それに続いて俺、猿、ユウカ、ヒロコさんも飛び掛かる。


ミナトは後方に構えて、力の及ぶ領域を広げて俺たちのサポートに徹する。ミナトが疲れやダメージを巻き戻してくれるおかげで俺たちはひたすらに攻め続けることができる。


「やっぱりかわいいなぁ、人間たちは。やっぱりボクがちゃんと殺してあげなきゃ」


だがガブリエルは楽しそうな顔で全ての攻撃を捌く。


「というかボクと一緒に生まれた原初の十三天使のうちルシファー、ベルゼビュート、リヴァイアサンの三人までいるじゃないか!お久しぶりだよ~」


『ガブリエル、お前は頭が悪いから嫌いだったんだ。さっさと死ね』


ユウカと同化しているベルゼビュートがガブリエルごと喰ってしまおうと周囲の空間を丸呑みする。


「ベル君は変わらないね。ボクにいっつも厳しい」


ベルゼビュートが喰らった空間から逃げ切ったガブリエルが笑顔で話しかける。


『厳しいんじゃない。嫌いだってさっき言ったろ』


ベルゼビュートはガブリエルのいる空間を次々と喰らっていくが、ガブリエルは飛び回ってその全てを避けていく。


「避けるのがうまいな。それなら逃げ場のない攻撃をくれてやるよ」


ミツキは空からおびただしい数のミサイルを降らし、それらを全方位からガブリエルにぶつける。間違いなく一切の逃げ場のない攻撃だ。


「リヴァイ、君まで人間の言いなりなの?ボクちょっとショックなんだけど~」


『何とでも言いなさい。私はミツキ様に全てを捧げると誓ったのだ。私の忠義はミツキ様にある』


「神を裏切って人間に忠誠を誓うなんて相当頭がやられてるみたいだね」


ミツキの爆撃を食らったガブリエルだが、土煙がはれるころには傷一つない姿で立っていた。そして彼女は満面の笑みを浮かべていた。人間ごときが自分に歯向かってくるなんて、こんな面白いことがあるのかと。


「それでルシファーは何か話しかけてくれないんですか?」


ガブリエルは後方にいるミナトの方を見ながら大声を出す。



・・・



「バカとは話したくないらしいよ」


ルシファーの言葉をミナトはそのまま伝える。


「バカはそっちじゃないの~?神に逆らって勝てるわけないじゃーん。それで今は人間に憑りつくことでしか現世に干渉できない悪魔風情でしょ~。ボクからしたらあなた達の方が大バカに見えるんだけど~」


「、、、だからお前はバカなんだってさ」


「ルシファー!言いたいことがあるなら自分の言葉でいいなさいよ!さすがのガブちゃんもイラっと来ちゃったよ!いつまでも上司面してんじゃねーよ!」


ガブリエルはミナトに向かって突っ込んでいくが、そう簡単にそれを許すわけがない。


―斬神―


ヘイシのおっさんがミナトに向かって一直線に突っ込んでいっていたガブリエルを真上から叩き切る。


「うがぁぁぁ!あ、あ、あ、あ。ヘイ!」


頭から真っ二つに斬られたがガブリエルはすぐに元の姿に戻った。何もなかったかのように。


「相変わらず気持ち悪い連中だな」


ヘイシのおっさんは呆れながらもう一本の刀も抜いて二刀流となる。


「さすがのボクも気持ち悪いなんて言われたら傷つくなぁ」


「どこに傷がつくんだよ?まさか心とか言わねぇだろーな。お前らは傷がつかないから気持ち悪いんだよ。お前らには痛みも苦しみもわからないんだろ?吐き気がするぜ」


ヘイシのおっさんはさっきまでの倍以上の速度でひたすらガブリエルを斬りつける。目にも止まらぬ速さで止まることなく永遠に。


ミナトがヘイシのおっさんを巻き戻し続けてるから可能な終わらない攻撃だ。


「いくらボクを傷つけようが意味なんてないことにどうして気付かないの?そろそろムカついてきたんだけど」


ガブリエルはヘイシのおっさんを殴り飛ばす。


「君たちはわかっていないようだから教えてあげるけど、結局悪魔憑きごときが天使に勝てるわけないんだよ。悪魔になった皆は人間に憑かないと力を発揮できない。でもそれは天使だったころの何分の一の力?悪魔に堕とされた時点で君たちは終わってしまったんだよ」


「だってさ、ルシファー」


ミナトに言われてルシファーは溜息を吐きながらやっと口を開く。


『おい、ガブリエル。じゃあ逆に聞くがお前らは俺の何分の一だ?』


黒い翼を羽ばたかせながらミナトは空に昇り、ガブリエルを見下ろす。


「さっきも言ったけど、いつまでも上司面しないでもらえるかな」


『上司?神ごときが決めた役割を今も俺に押し付けるな。見ればわかるだろう?俺は神よりもそしてお前なんかよりも上位の存在だ。悪魔に堕とされて力を失った?そんなもの俺からしたら微々たるものだ。この世界における最強はいまだに俺だ』


ミナトとが腕を振るうとガブリエルが吹き飛ばされる。


ルシファーとは神の後継とさえ言われた原初の天使である。始まりの13天使の中でも頭一つ抜け出た規格外の天使だった。


これは神にとって嬉しい誤算と悲しい誤算となる。


自分に匹敵する力を持ったルシファーを生み出せたことに神は歓喜した。もしかしたら自分を超える存在になるかもしれないと神はルシファーを愛し、育てた。だがそのルシファーは自分に反抗して戦争を起こした。そして神は自分に歯向かった天使たちを悪魔として地獄に堕としたのだ。


ルシファーも悪魔となったが、ルシファーにとって天使も悪魔も違いなどなかった。彼が思っていたのは一つだけ。神という地位への不信感。神とは何か。そんなものは存在しないのではないか。なぜならルシファーだけはわかっていたから。神は全知全能ではないことを。


それなら神とは人間たちの間の王と何も変わらないただの役職だ。そうであるならば別に自分が神になっても構わない。神なんて所詮そんなものでしかないのだから。


『ガブリエル、俺たちがいない天界は楽しいか?どうだ?四大天使とか言われてるらしいが、13天使の中で一番弱かった四人だったのに』


「ちっ!、、、確かにね。皆ボクたちと違って強かったよね。でもそのせいで神に歯向かったんでしょ?自分たちの力を過信して。それで結局悪魔じゃない。悪魔になった君たち相手ならきっとボクの方が強いよ」


『確かにな。でも一人で相手できる数か?』


「ルシファーうるさい。さっさとやるよ」


『ちっ、相変わらずせっかちな奴だ』


ルシファーと同化したミナトがガブリエルに向かって行く。


「いいね。久しぶりに命の取り合いをしたかったんだ」


突っ込んでくるミナトを見ながらガブリエルは再び楽しそうに笑う。



「おい、女天使。上をとられてること忘れてんじゃねーぞ」


巨大な龍と化したミツキがミナトの攻撃と合わせるために待ち構えていた。


「そういえばリヴァイちゃんもいたんだっけ」


『ガブリエル、我は神もお前らもどうでもいい。ただ我が主に従うだけ』


「リヴァイちゃんが一番変わったね。あんなに見下していた人間に懐くなんて」


『なんとでも言え。そして死ね』



―死の雨―



無数の爆撃が無慈悲に地上へと降り注ぐ。

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