第15話

ディオンとリディアは、馬車に揺られていた。

先程から気まずい空気が流れており、リディアは、ひたすらに窓の外を眺めている。


こんな風に二人だけで出掛けるなんて初めてだった……と思う。そもそもリディアは余り外出はしない。勿論、夜会やお茶会などで誰かの屋敷に足を運ぶ事はあるが、今向かっている街に足を向ける事は殆どない。


ふと正面に座っている兄を見遣ると、足を組み目を伏せていた。


こうやって見ると、睫毛長いな……本当、女性みたい。


男なのに、美しいとか綺麗といった言葉がよく似合う。リディアは暫くディオンの顔を凝視している内に、心臓が早くなるのを感じた。心なしか顔も熱い気がする。


風邪でも引いたのかも……帰ったらハンナに言って、薬用意して貰おう……。


「何?言いたい事があるなら口で言いなよ」


「⁉︎」


リディアの視線に気付いていたらしいディオンは、目を開けると訝しげな表情をする。目を瞑っていたのに、気付かれるとは思わなかった。


「べ、別に?……けど、どうして私まで行かなくちゃいけないのよ」


誤魔化す様に投げかける。だが、そもそも何故ディオンと二人で街へ行かなくてはならないのか?とは思ってはいるのは事実だ。

リディアが聞いても、理由も目的も何も教えてくれない。本当に勝手な奴だ。


「何?不満なの?どうせ大してやる事もなくて暇してる癖に、たまにはお兄様孝行しようとか思わない訳?」


「ない」


「全くお前は、薄情な妹だな」


言葉とは裏腹に、ディオンはどこか愉しそうに見えた。何時もの嫌味ったらしい笑みではなく、屈託のない笑みを浮かべる姿に、リディアも思わず頬が緩む。


街に到着するまでの間、暫し二人はたわいない話をして過ごした。











「可愛い」


街中のとある雑貨屋に連れて行かれた。中に入ると外観よりも広く大きい。沢山の雑貨品が所狭しと引き詰められて飾られている。


だが、兄にはまるで似つかわしくない。この空間は、全て可愛らしい物ばかりで構成されている。こんな場所に兄が用事があるとは、意外過ぎる……。まさか意外とこういった可愛らしい趣味がある、とか……お花とか、フリルとか、人形とか……人形を抱っこする兄か……怖すぎる……。


リディアは思いっきりかぶりを振る。


変な想像をしてしまった……。


「お前、今失礼な事を想像しただろう」


まずい、バレている。リディアは笑って誤魔化すも、睨まれた。


「まあ、いいや。……グリエット家の管轄下に、教会と隣接している孤児院がある。毎月、寄付と子供達に贈り物を用意しているんだ。所謂慈善活動でね」


急に始まった、意外な話にリディアは首を傾げた。どうやらディオンの私物を買う訳ではなさそうだ。


安堵すると同時に、些か面白くない……揶揄ってあげようと思ったのに。口を尖らせる。


「これまでは、ハンナに適当に見繕って貰っていたんだが……まあ、お前も嫁の貰い手が無くなった訳だし?実家にいるなら少しは役に立って貰おうかと思ってね」


嫌味を確りと混ぜながら説明をするディオンに、苛つきながらもリディアは関心を寄せる。これまで家の事には全く関わってこなかった。だからこれは役に立ついい機会かも知れない。


「予算はこれくらいだな」


だがディオンが提示した金額を見て、リディアは眉根を寄せる。正直リディアには物の価値や金銭感覚は持ち合わせていない。必要な物は全てハンナやシモン等使用人が用意してくれているし、ドレスなども仕立て屋が屋敷を訪問して作って貰っている。


買い物などは基本的に行かないし、仮に行った所でリディアがお金を払うなどあり得ない。付き添いの従者か、またはグリエットの名前を出せばそれで済む。リディアは欲しい物を指差すだけだった。後で屋敷に請求して貰うのだ。


「それって、どれくらい?」


「さあ?」


困ったリディアが尋ねるも、ディオンは意地悪い笑みを浮かべるだけで教えてくれなかった。本当にいい性格をしている……。

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