#37 ~ 電光石火

『――戦技大会、総合の部も三組目! 選手入場です――!』


 最高潮に盛り上がる歓声が、試合会場に降り注ぐ。

 その歓声の嵐の中、会場へと足を進める。


『さあ東コーナー! 世にも珍しい鞭剣を扱う選手、ドルト・サーヴァン選手です! その変幻自在の技を見切れるか!?』


『鞭剣はかなり難しい武器よ。速度は早く、リーチも長い。どうやって間合いに踏み込むかが、勝負のポイントでしょうね』


『今年で四度目の出場! B級ハンターとして知る人ぞ知る戦士ですね!』


『今ノリにノッてるハンターよ。優勝候補の一人と言えるんじゃないかしら』


 おお、すげーな。何かプロレスみたいな実況だぞ。

 控室でも聞こえてたけど、実況席のマイク越しに二人の女性がいる。

 一人は普通の女性だが、もう一人は……多分強いな。


『さて対するは! 初出場、ユキト選手です! オーランド伯爵推薦の出場者ですが、何と、事前情報がほぼありません! エミリーさんはご存知ですか?』


『ええ……知ってるというか』


『おお。というか?』


『ちょっと人づてに、噂だけね。……思ってたよりずいぶん若いわね』


『はい! なんと今年最年少の十八歳です! 学徒戦に出ててもおかしくない年齢ですね。武器は剣でしょうか?』


『刀ね。こっちじゃかなり珍しい武器だけど、東方ではかなりメジャーな武器よ。剣に近いけれど、より軽量で、斬ることに特化した武器だわ』


『となると、リーチの差がかなりある試合になりそうですね』


『そうなるわ。事前の下馬評だとドルト選手のほうが圧倒的に優勢だけど……』


『謎に包まれた少年剣士! その実力を見せることが出来るのか!? 間もなく試合開始! 双方準備をお願いします!』


 ぼーっと実況を聞いていたら、目の前まで来ていた対戦相手が、じろりと睨みつけてくる。

 筋骨隆々とした赤髪の男で、年齢は一回り以上は上だろうか。歴戦の戦士といった雰囲気がある。


「……悪いが手加減はせん。兎を狩るにも、虎は全力を出すものだ」


「はあ、よろしく」


 彼が虎で、俺が兎ってわけかな?

 開幕からの煽りに、俺が返せたのは生返事だけだった。いきなりプロレス的なのを期待されても困るんだ……。


 彼の得物――鞭剣というのは、どうやら鞭にいくつもの刃を取り付けたものみたいだ。

 いわゆるガリアンソードと違い、鞭にナイフの刃がたくさんぶら下がっている感じである。結構重そうだが、負担に感じている風はない。その動きを気でコントロールしているわけか。


 うーん、変わった武器だ。ただなあ。


 三秒前からのカウントダウン。カンッ、というゴングの音と同時。

 俺は一足で、その懐に飛び込んだ。


 この武器の弱点。言うまでもない、懐だ。

 自分を傷つけないよう、鞭の手前半分には武器がない。つまり重心が先端に偏り、振るにも大きな隙がある。

 上から振る分にはスピードが出るだろうが、返しも遅い。鞭の重要な武器である旋回に難が出る。どう考えても、対人向きの武器ではない。


 ……そして内側にこうして踏み込まれてしまえばどうしようもない。


「っ」


 ドルトと呼ばれた選手は鞭ではなく蹴りによって反撃しようとしたが――もう遅い。


「スマン、痛いぞ」


 鞘に納めたままの刀の柄で顎を打ち上げ、さらに回し蹴りが水月に突き刺さる。

 あっけなく吹き飛んで、ダメージを意味する彼のブレスレットが真っ赤に染まった。つまり、試合終了KOを意味する。


『お、終わったーーーーーー!!!』


 頭上の電光掲示板――電気が動かしてるのかは知らない――でドルト選手の敗北と俺の勝利が表示されると、女性実況者が叫びをあげた。


『電光石火の瞬殺劇! まったく何が起こったかも見えなかった! 今のはどうなったんですかエミリーさん!』


『これはまた……。一瞬で踏み込んで柄で顎を打ち上げ、回し蹴りでノックダウンね。ユキト選手は武器すら抜いてないわ』


『これは凄い!! とんでもないことが起きました! 誰がこの結果を予想したでしょうか!? まさかのジャイアントキリング! 突然のダークホースの登場に、会場全体がざわめいております!』


『……グラフィオス、覚えてなさいよアイツ……ブツブツ』


 ざわめく観客席。

 不意に視線を感じ、イリアさんや生徒たちが観戦しているのを見つけた。その隣に座る伯爵の姿も。


 伯爵さま、約束は守りますよ?

 全員瞬殺ですよね?


 俺の視線に、伯爵さまは引き攣った笑いを浮かべた。

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