#24 ~ ハンターとの再会
古都ヴィスキネルは、大きく三つの街区に分けられている。
古都の南側、再開発によって美しく整備された繁華街や、様々な最先端ビルの立ち並ぶオフィス街によって構成される新街区。
東側、かつての古都の装いを残し、王城跡といった多くの観光資源を残す伝統区。
西側、古都の産業を古くから支え、新旧問わず様々な工房が立ち並ぶ産業区。
それは古都の持つ多面性の顕れでもあり。
それゆえに、古都は地区によってその性格が大きく異なるともいわれている。
その日、ユキトが訪れたのは古都の東。つまり伝統区と呼ばれる場所であった。
オーランド伯爵邸がある地区でもあるが、実のところ、いつもバスに乗って通り過ぎるだけで、伝統区には詳しくない。
ユキトが珍しく足を運んだのは、言うまでもなく、用事があったからである。
伝統区の一角にある、雰囲気の良い喫茶店。もしも日本にあったらモダンとでも呼ばれていただろうか。
扉を開くと、取り付けられた鈴がカランコロンと軽やかな音を立てた。
店内を見回すと、その一角でコーヒーと新聞を嗜んでいた銀髪の青年が、にこやかに笑って手を挙げた。
「ユキトさん、お久しぶりです」
そう、かつてハンターギルドで俺を対応してくれた青年、シルトさんだ。
「お忙しいところをすみません」
俺が頭を下げると、彼は「いえいえ」と微笑した。
「まあとりあえず座って。――マスター、コーヒーをお願いします」
シルトさんに視線を向けられ、なごやかな老紳士といった感じのマスターが、コップを拭きながらにこりと笑った。
「感じのいい店ですね」
「はは、そうですね。前からお世話になっている店です」
この店はハンター御用達の店の一つなんですよ、とシルトさんは言った。
その後、学院の様子など軽い情報交換をしつつコーヒーが出てくるのを待ってから、俺は本題を切り出した。
「それで……受付の方には話したんですが」
「ええ、話は聞きました。学院での槍の技術指南――ですね。受付が説明した通り、ハンターは学院の生徒に指南をすることはしていません」
いわく、士官学院は軍の領分。
ハンターギルドが学院に介入するのは、彼らの領分を侵すことになる。
「……ハンターは結局のところ、魔物退治をする掃除屋に過ぎないんです。魔物被害が減った今となっては、都合がいいから存続しているだけ……実際のところ、それぐらいに立場が弱いんです、我々は」
――やはりか。
先日事情を聴いたアイーゼ・リリエスを強くするには、やはり槍を教えられる人間が必要不可欠。
そこで最初に頼ったのがハンターギルドである。ハンターは戦いが本分であるということなら、良い講師が見つかるのではと思ったが。
しかし、最初からある程度それを想定していた俺は、ギルドの受付にある代案を出した。
シルトさんは「ただし」と口元に指を立てる。
ここから先はオフレコ、ということか。
「ユキトさんに個人的に槍を教える分には、確かに問題はありません」
そう、俺だ。
俺は確かに学院の剣技教官ではあるが、あくまで外部から招聘された形である。
講師の試験を受けていないし、資格を持っているわけでもない。
学院の関係者、という立ち位置ではいわばグレーな立場にあるといえる。
なら、俺が槍を会得してアイーゼさんを教える。
槍の技術そのものを教えられる段階にならなくとも、戦術や立ち回りであれば教えられる程度になれれば、やりようはある。
そのためには――。
「ただ、三日では十分な訓練とは言えませんが……」
「見せていただくだけでも、それか戦って頂くだけでもいいんです」
アイーゼさんから盗んでもいいが、彼女以上の槍の技術を見ておく必要がある。
「……まぁ、そう仰られるなら。いいでしょう。僕もあまり長期間拘束されるわけにはいかないので……」
「ありがとうございます」
「ただ、条件があります」
条件? と俺が首をひねると、彼はにっこりと笑って、言った。
――僕の仕事を手伝ってもらえませんか? と。
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