第10話
魔王を倒して、ゲームをクリアした後で何かあったのかもしれない。世界を救った『勇者たかひろ』が独身のままなのも違和感があった。
「『勇者たかひろ』に会うことってできないのかな?」
「……フレデリック様であれば、もしかすると……。」
「えっ?フレデリック様?」
フレデリック・ベルトリオ『様』。私も『様』をつけて呼ばなければならない存在だった。この国の王子になるのだから、当然のこと。
ジュリアをイジメようとした時、真っ先にフォローしてきた人物で、優しい顔立ちで物腰も柔らかい。王子でありながら、偉そうな態度を取ることも一切ないので人気は高い。
「あっ、そうか。レイモン様とフレア様のお孫さんだったら、知ってるってことね?」
「ええ、ご本人の口から聞いたことはありませんが、可能性としては一番高いと思います。」
「そうね。きっと、そうだわ!ありがとう、ジュリア。」
「そんな……。ミレーユ様のお役に立てたのでしたら嬉しいです。」
悪役令嬢になるためとは言え、ジュリアをイジメようとしていたことがあるのに、照れながらお礼を言われてしまった。
今にして思えば、全く無駄なことに時間を費やしていたことになる。
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「あのー、フレデリック様?……少々お話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。ミレーユ様、どうされたのです?」
廊下を歩いていたところに突然声をかけたのだが、さわやかな笑顔で応対してくれる。
「あっ、もしお分かりになれば、『勇者たかひろ』のことを教えてほしいのですが……。」
話の内容が『勇者たかひろ』であることが分かると、爽やかな笑顔が消えて、険しい表情になった。
「『勇者たかひろ』様について……、でしょうか?」
「はい。少し調べ物をしておりまして、どうしても知りたいんです。」
フレデリック様は周囲をキョロキョロと見回して、『ミレーユ様、こちらへ』と言って、人気のないところへ私を連れて行った。
先生と同じように、フレデリック様が普段あまり見せることのない態度を取ってしまうので、私の方が慌ててしまった。
「……『勇者たかひろ』は、世界を救った事実と共に、その冒険の中で破廉恥な罪を犯してしまった方なのです。この国では、あまり触れられたくない過去になっているのですよ。」
「破廉恥な罪……、ですか?」
「だから、私も詳しくは聞かされていないのですが、祖父母は過去のことを隠そうとしているようなのです。」
「そうなんですか。」
それにしても、『破廉恥』という単語を会話の中で聞く機会があるとは思っていなかった。
どんな罪かは分からないが、恥ずかしい内容であることは分かる。歴史書に記述が少なかったり、勇者の生家周辺の人たちが教えてくれなかった原因は『それ』なのかもしれない。
「……ですから、あまり深くお調べにならない方が良いかと思うのです。」
「お話は分かりましたが、私の今後の人生を左右するかもしれない問題なんです。何とか、『勇者たかひろ』に会うことは出来ないでしょうか?」
「……ミレーユ様の今後の人生を左右するほどのこと……、ですか?」
少し大袈裟な表現だとは思うが、これくらい大袈裟に言っておけばフレデリック様の良心に訴えかけることができる。
王子として、困った人を見過ごせないタイプであるから、最も効果的な言葉になるだろう。
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