20.胸の痛み
イルハは引き続き、入口から室内を観察する。
その強い視線に怯え、より緊張する役人たちだったが、イルハが目を凝らし見ていたのは彼らの仕事振りではない。
一通りの物質の確認を終えたイルハが見ていたのは、埃の溜まり具合だ。
各所に溜まる埃は分厚い層になっていた。とすれば、シーラはこの部屋には長居していない。
しかしそうだとすれば、この部屋は乱れ過ぎていた。
どう見てもこの有様は、船揺れのせいに出来る限度を超えている。
誰かが日々汚さなければ、こうはならないが、では何故埃は動かず層になるまで留まり続けたか。
それはつまり──。
一瞬イルハの胸に、強い辛みを食べたときのようなつんとした短い痛みが走った。
それはイルハが仕事中どころか、私的な時間にも得たことのない感覚である。
今のは一体──?
しかし流石は若くして法務省副長官の席にある男だ。
仕事中に私情を長く追い掛ける選択はしなかった。
小屋の検分をする役人たちに配慮させる必要を感じなかった件に関しては、実はここに相応の理由が見られていたが、イルハは生じたあらゆる感情を置き去りにして、次の仕事へと移ることにする。
「他に部屋は?」
振り返ったイルハが淡々と尋ねれば、外で待機していた役人たちはほっと胸を撫で下ろした。
さすがに甲板の上を三人で改めるには、余力があり過ぎた。されども小屋には近付きたくない彼らだ。
とはいえ、この船の他の部分もどうあるか、楽な仕事はとても期待出来そうになかったが……。
「甲板の下に貯蔵庫があるよ。こっちに来てくれる?」
貯蔵庫という単語に嫌な予感を覚えながら、残る役人たちはイルハの後に続く。
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