19.まだ彼は知らない
残る三名の役人たちは甲板の上から動こうとしなかった。
すでに見たマストを囲むように立ち、やたらと念入りに建付け具合などを確認している。
イルハもまたしばし扉の外から小屋の内部を窺っていたが、そこには彼ら三人と共通した思惑は存在していなかった。
ただ単に、広くない小屋の床がこの惨状では、大の男が何人も入ることが憚れたのだ。
さすれば、小屋内にいた若手二人は見張られている気分となるもので。
無駄口を一切叩かず、二人は黙々と小屋内部の検分を進めていく。
あるところで、一番若手の役人が、部屋の最奥にベッドらしきハンモックがつり下がっていることに気が付いた。
しかしこちらは着古した服がバサバサと積んであって、とてもベッドとして機能していないように見受けられる。
航海中は、どこで眠っているのだろう。
そもそも一人きりでの航海中に、ぐっすりと眠る暇などあるのだろうか。
と考え始めた彼は、ハタと気付く。
これでも一応女性の部屋だ。それも若い娘の部屋である。
このまま検分を続けても良いのだろうか?
一瞬、振り返った彼は、固く引き締まったイルハの表情を見て、すぐに体ごとイルハから顔を背けることにした。
指示を仰ぐ勇気なく、事態に気付かれぬよう徹底する方を選択したのだ。
しかしこの件に関してはイルハも配慮が足りなかったと言えよう。
だが、タークォンにおいては、これは仕方のないことでもある。
何せタークォンには、女性の役人が一人もいなかったのだ。
ここでシーラが、少しでも不安の色や不快感を示していたら。
イルハは気付くことが出来たかもしれないし、いずれはタークォンの監査体制にも変化が生じていたかもしれない。
しかしその娘が小屋を放って、外で高々と手を伸ばし、呑気に空を仰いでいるようでは……。
扉側から俯瞰していたことで、実はいち早くハンモックの存在に気付いていたイルハは、女性に対する気が回ることもなかったし、ハンモック周りの検分を始めた役人を止めることもしなかった。
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