17.いざ船内へ
手を上げて笑顔を振りまくシーラに、役人たちは一時固まった。
娘一人とは聞いていて、各々不審感を持ってこの検分に立ち合うことになったが、まさかこんなに幼く見える娘が現れるとは思っていなかったのである。
若い娘と言っても、二十代半ば、あるいはそれ以上だと。
もしくは気遣いから娘と称した、結構な年齢を重ねた女性が現れるのではないか。
そんな予測も立てていた。
特別な事例であって、こうなのだから。
彼らが普段から書類を読み込んでいないことが露呈して、イルハは一人溜息を吐く。
昨夜からどっと仕事が増えていた。
しかしここで役人らを叱りつけては、仕事が回らない。
イルハは頭の中で今後の計画を立てながら、シーラに近寄ると言った。
「こちらの船で間違いありませんね?」
「うん、そうだよ!素敵な船でしょう!」
「外からではよく分かりませんね。早速改めさせていただいても?」
お世辞も言わないイルハに、シーラは何故か喜んで、笑いながら言った。
「もちろん、どうぞ!よく見ていって!」
そのおどけた声を聞き、我に返った役人の一人が陸側から船へと足場を掛ける。
シーラの案内を受けて最初に船に乗り込んだのはイルハだ。
続いて五人の役人が、それぞれ役職が上の者から順に乗り込んでいった。
そのつもりのなかったリタだが、シーラに声を掛けられて悩んだ末に、一番最後に船内へと足を踏み入れた。
船に乗ったシーラがわざわざ一度降りてきて、リタの手を引いたからである。
このような可愛いらしい誘い方を受けて、断ることが出来るリタではない。
さて、イルハは船上でゆっくりと周囲を見渡した。
甲板の上では青い空がより近く感じられ、船上から見下ろす海面は波に輝きキラキラと美しい。
先まで見ていたときはそう感じなかったのに、こちらから見る岸壁はずっと遠くに感じるから不思議だ。
もう一度空を仰げば、流れる白い雲が、この船が動いているように錯覚させる。これも陸にあっては知らない感覚。
頬を靡く風ひとつ、陸上よりも心地好く和らいだものに感じられた。
陸にあるか、船にあるかでこうも違うとは。
まだ陸に繋がった船にあるというのに。
ひとたび大海原に出たら、何を感じられるのか。
イルハが実は感動していることも知らず、役人たちは早速船の内部を改め始める。
まずは甲板から。
甲板は……なんてことはない。
特別な物は見えず、構造としては普通の帆船と同じように認識出来た。
なんだ、ただの帆船か。
検分は早々に終了するだろう。
若い娘の一人旅とは怪しいが、事実であるならば、監査部門としてそれ以上どうしようもないし、あとは法務省副長官殿に丸投げすればいい。
さっさと自分たちの領分の仕事を終えて退避しよう。
と同行した役人たちが思っていられたのは、ここまでの話だ。
甲板の中央よりも僅かに船尾寄りの位置に、ちょこんと乗った屋根付き小屋。
この部屋に続く扉が開かれた瞬間から、役人たちの認識は変わることになった。
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