16.馬なし馬車に揺られて

は、二度目だなぁ」


 馬なし馬車とは、通常、を示す。

 しかしここタークォン王国における馬なし馬車からは、蒸気機関特有の忙しない音は聞かれなかった。

 回る車輪の金属音が繰り返し響き、石畳の道と車輪が擦れるガタガタカタカタとした雑音が常にあってはとても静かとは言えるものではないけれど、通常の馬なし馬車を考えれば大分静かな音だった。



 その荷台の客席にて。


「馬がいないと緊張するね」


「大丈夫よ、シーラちゃん。普通の馬車よりもずっと安全だと思っていいわ。馬が暴れる心配も要らないでしょう?」


「そっかぁ。それもそうだね!わ、リタ。動き出したよ!」


 興奮するシーラに、リタは微笑みながら、時折優しい言葉を掛け続けた。

 窓から見える景色に合わせて、観光案内も同時に行う。

 シーラは興味深く耳を傾け、物珍しそうに外を眺めては、昨夜イルハにしたように、リタにあれこれと質問していた。




 そう長い時間を掛けずに馬車はふ頭へと着く。


 ふ頭では、すでにイルハの他、五名もの役人が、岸壁側から船の検査を行っているところだった。


 小柄な船であるから、それほど改めるところもなく、役人たちはすぐにこの異例な仕事から解放されると信じていた。

 いや、終わって欲しいと願い、わざとらしく張り詰めた空気を醸し出して、いつもより細かく丁寧に検分しているのである。


 見えるマストは一本。

 そのマストを横切るヤードはやたらと細かく入っていて、横帆が五本は並ぶと推定された。

 この小さな船にしては帆が多過ぎると言えるが、この辺りは船主の好みの問題もあって、役人として指摘するほどのことではない。


 疑わしきは、どうも下に蒸気船で使われているスクリューが備えてあるようなのだ。

 完全な帆船として申請を受けたからには、これはどういうことかと問い詰めなければならない。




「待たせてごめんね、みんな!イルハも来てくれてありがとう!」


 馬車から颯爽と降りて来たシーラの声は、波音はおろか、ふ頭に並ぶその他の蒸気船の騒がしい音にも負けない、よく通るものだった。



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