第8話 借金 5080万8305ゴル
街へ帰ったニクラスは、いつものように路上で夜を明かした。
翌朝、マジックバッグの中身を改めて確認して驚いた。
・旋風刃
・風障の盾
・Dランクの装備数点
・30万ゴル
・食料
・調理道具
・テント
・水筒
・Dランクモンスター数体
「”風障の盾” まで…!
買えば剣と合わせて600万ゴルはするぞ…?
まあ、お店で売ってるような武器じゃないけど…。
それに倒したモンスターまで入ってる。
この容量だと…、バッグは売れば最低4000万ゴルを超えるな…。
買おうと思ったら下手したら1億…。」
アイテムについての知識が頭に詰まってるニクラスは、相場も大体わかる。
冒険者から譲り受けたアイテムは、想像をはるかに超える価値を持っていた。
しかし、ニクラスがマジックバッグからまず取り出したのは、食料。
「冒険者さん…、ありがとうございます…。」
今のニクラスにとっては食料が1番価値がある。
夢中で食料に食いついた。
久しぶりのまともな食事。
思わず涙が溢れてくる。
それぐらいギリギリの日々を送っていたのだ。
「…ふう。」
お腹も涙も落ち着いたところで、改めて考えた。
(これを売れば、借金はかなり減る。
でも、おそらく僕では売れない。
盗難を疑われるか、理不尽に安い金額で引き取られるか、それとも奪い取られるか。
それに売ったとしてもまだ僕にとって大きな借金が残る。
返すためにはこのアイテムは必要だ。)
本音を言えば、こんなアイテムを手放したくない、という気持ちもかなりある。
しかし、その気持ちを考慮しなくても、売るという選択はいい判断ではない。
ニクラスはこの街を離れることにした。
今ならお金もあるが、ニクラスが馬車を使えば絶対に怪しまれる。
この剣と盾、そしてマジックバッグに入っていた食料があれば、隣町まではいけるはず。
そう決めたニクラスは早速ギルドへ向かった。
バルドゥルたちに見つからないように、気をつけるニクラス。
夢の通りであれば、冒険者がいた湖の方になんらかの依頼で向かうはず。
ギルドをそ〜っと覗くと、案の定<不吉な狂人>の面々がいた。
ニクラスはギルドの外に隠れ、<不吉な狂人>が依頼に出発するのをじ〜っと待った。
そしてギルドから出てきて街の外の方へ歩いて行くのを見届けると、自分もギルドの中へ入った。
空いているカウンターへ向かう。
登録した時の受付嬢ではないが、誰でも同じような対応だ。
「はぁ、冒険者の死体がね。
わかった、手続きしときます。
まだ何か用事あるの?」
明らかに面倒くさそうな態度。
ニクラスは隣町へ拠点を移すことを告げる。
「え?
あんたがどうやって隣町まで行くつもりなの?」
「お金はないので、歩いて行きます。」
「急に?
冒険者の死体からなんか盗みでも働いたんじゃないでしょうね?」
失礼な言い草だ。
確かにアイテムをもらったが、冒険者から譲ってもらったと言っても信じないだろう。
マジックバッグは今まで持っていたバッグに入れており、見た目は今までと変わらない。
「ん〜、でもお金を盗ったなら歩いては行かないし、武器も持ってない…わね。
まあ勝手にすればいいし、死んでも構わないけど、借金はちゃんと返しなさいよね。
私たちの税金なんだから。」
「…わかりました。」
「隣町に着いたらちゃんとそこのギルドにも報告に行くようにね。
借金がある奴は居場所の報告が義務付けられてるんだから。」
「はい。」
ニクラスは手続きを終え、ギルドをでた。
この街では人と話すたびに嫌な思いをさせられる。
でも隣の町に行ってもギルドに行かなければいけない。
そうすると【予知者】であることがバレて、同じような対応をされるだろう。
それでも、バルドゥルたち<不吉な狂人>から離れることができる。
今回は回避できたが、いずれは殺されてしまうだろう。
奴らから離れられるだけで、安心感が違う。
ニクラスは<不吉な狂人>が向かった方と逆の方向へ歩き出した。
出口には門番がいたが、ニクラスの小汚い格好をちらりと見て、それきりまるでニクラスがそこにいないかのように話しかけても来なかった。
ニクラスにとってそんな対応はいつものことなので、気にもならない。
むしろ、危害を加えてこないだけありがたい。
もし何か難癖をつけてこられたらどうしようと心配していたのだ。
門を出て、ニクラスは新しい人生への一歩を踏み出した。
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