(2)南から来た男
夜になった。
陣の配置を見て、朱儁はただため息を吐くしかなかった。
思ったより、敵の城が堅牢なのだ。
皇甫嵩と離れ、南陽に来て既に一月。そこで挙兵した太平道の幹部である
その後、どういう訳か噂が流れた。自分の更迭論だった。
太平道が流したのか、それとも宦官の連中が流したのかは定かではないが、どちらにせよそんな不名誉なことで更迭されるのも嫌だったから攻め立て、新しく変わった太平道の指揮官を斬った。
そこまではなんとかなった。
しかし、その後敵は籠城している。だが、どうもその城攻めの時に、部下が口々に言い出した。
見たこともない機刃がいる、と。
身の丈二四尺とかなりの大型機だ。電源自体は、電力発生機の出力が追いつかないのか、線で外部式の電力発生機と繋がれている上、そこら中から冷却用の機材が露出している。
そのため行動範囲自体は狭い。しかし、その能力が強すぎる。
たった三機しか導入されていないにも関わらず、自分の麾下の軍二万のうち、一〇〇〇の機刃が、その三機で蹂躙された。しかも、相手はまだ無事と来ている。
図体がでかく、力比べはこちらが完全に負けた。相手の武装は槍だけだが、それにしたって、その槍も大型化されているため、当然のことながら攻撃範囲も広い。
機動性もかなりのもので、弾丸は簡単によける。となると、接近戦で片を付けるしかないが、それだとさっきの展開になるのがオチだ。
あれさえ突破出来れば、この城は落ちるのは間違いない。実際、あの三機以外はそこまで強くないからだ。
だが、その三機の出現で一気に相手の士気は上がっている。既に四度、城攻めを決行し、悉くやられた。
「このままじゃマジで更迭されるな……」
はぁと、大きくため息を吐いた後、部下が報告に来た。増援が来たというのだ。
「増援? 俺にか?」
「数は二千。ですが、歩兵です。機刃は一機もありません」
部下からの報告を聞いて、心底ガッカリした。
二千の増援はまだありがたいが、歩兵ばかり二千よこされても、自分からすれば機刃が欲しい。
どうしてここまで中央と現場とで差異が生じるのだと、本当に呆れ果てた。
「歩兵かぁ。機刃相手だと……」
「ただの歩兵や思うたら、大間違いでっせ」
訛りのある、聞いたことのある声がした。
男が一人、中に入ってきた。この戦場のど真ん中にも関わらず、甲冑すら着込んでいない男だった。
「お前だったのか。
孫堅、字は
自分とは、少し腐れ縁だったし、更に同郷と言う事で何度か会っている仲だった。
「ご無沙汰しとりましたなぁ、朱儁の旦那。えろぉ情勢悪いみたいですやん」
「お前だって知ってるだろ。あの城にいる機刃三機」
「わーとっりますさかい。せやけど、あないなもん黄巾の連中に量産できるとは思えまへんわ。どう考えても別の奴が流したと考えるのが妥当でっせ」
「だろうな。俺がにらむに、涼州か」
孫堅が、目を細める。
「せやろな。せやけど、恐らくあれ不完全なもんですわ」
「不完全とはいえ、性能は十分に化け物じみている。そんなのだが、お前達は勝てるか?」
孫堅の眼が、ギラギラと輝く。
闘争本能が、むき出しになっているのがよく分かった。
「勝てるに決まってますわ。あの程度ならワイらだけで十分やで。明日城攻めするさかいなぁ」
「明日か? もういけるのか?」
「当たり前ですわ。ワイらは遅めの参戦なんや。ここまで力貯めてきたさかい。いつでもいけまっせ」
それで、城攻めは明日になった。
軍議を開いて、孫堅の傲岸不遜ぶりに呆然としたのかは分からないが、結局城攻めは孫堅一軍が中心になり、自分達はその支援、という形になった。
確かに、この男達の麾下なら勝てるだろう。
機刃をも圧倒するだけの力が、歩兵にも関わらず備わっているのだから。
そして、この男達に甲冑なぞ邪魔になるだけだ。
何せ、『獣』なのだから。
獣と機械。どちらが強いか、ある意味において見物な戦になるなと、自分が指揮をするのに何処か嬉しそうに朱儁は思っていた。
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