(4)自分の売り時
これからどうするんだ。
周囲の人はそう言ったが、あまり考えられなかった。
家族が、皆死んだ。流行病だった。
何故か、自分だけが生き残ってしまった。
財産は僅かに残っていたが、一三歳の子供にとってはどうしようもなく、同時に竜人という自分の寿命故に、これから先のことを考えると途方に暮れるしかなかった。
その日の食事は、隣にいた家族ぐるみでつきあいのあった人に作ってもらっていたが、都度金を渡していた。そうしないと失礼に当たると思ったからだ。
そんな生活を一ヶ月もしていたら、財産はほぼなくなっていた。
どうすればいいのか、更に途方に暮れた。
そんな時に、商人がやってきた。
背丈は普通の大人のそれとさして変わらなかったが、自分で見えた気の量が、かなりのものだった。
この人は何なのだろうと、子供心に疑問に感じた。
「商人殿、あなたは、何故それほどの気をお持ちなのですか」
商人からは、怪訝な顔をされた。
「ああ、お前竜人か。俺の気はそんなにでかく見えるか?」
「はい。父や母よりも、大きく見えます」
「そうかそうか。だがよ、父母のことをそういうもんじゃねぇぞ。年を取ったらもっと気がでかくなるかもしれねぇじゃねぇか」
それに対し、首を振った。
「もう、気が大きくなることはありません。皆、一ヶ月前に亡くなりました」
そう言うと、目の前の商人は気まずそうな眼をして、そして頭を下げた。
「悪いこと言っちまったな。すまねぇ」
「いえ、気にすることはありません」
そして、一つだけ拱手した。
「商人殿、私を買いませんか?」
「人の売り買いはしねぇぞ、俺は」
だが、そう言われても不適に自分が笑っていることに気付くのには、そんなに時間はかからなかった。
「もちろん、それは存じております。しかし、私の目は、あなたにとっては必要になるときがくるでしょう。私は竜人です。人の気を見られる。そう、寿命ですら、ね。即ち、どの人物に売れば良いか、見極めることの手助けが出来る。それは即ち、あなたの販路を大きくしていくことも可能となる、ということです」
商人が、不敵に笑った。その商人の気が、大きくなったのが分かった。
「商人ならば商機は大事だ。お前、今自分が商機だと思ったな?」
こちらも笑い返して、頷いた。
「然り。あなたとしてみれば、販路の拡大は商人として望むことでしょう? ならば、私を買うのは面白いのではありませんか?」
「なるほどな。で、お前は俺に目をくれるという。ならば、お前に俺は何をくれればいい?」
「それに見合う儲けがあれば」
一つ、商人が手を叩いた。
「いいだろう。交渉成立だ。お前は俺が買う。俺がお前を商人にしてやろう」
そう言われて、安堵した。
正直賭けだった。自分で強く言っておきながら、実際には自分自身でどうすればいいのか分からなかったから、とっさに出た。
だが、不思議と言葉が紡げた。だからいけるのだろうと、そう感じた。
その賭けに、自分は勝った。ならば、十分だろう。
「自己紹介がまだだったな。俺は蘇双。で、竜人のお前さんはなんて言うんだ?」
「私は、張世平と申します」
より強く、拱手した。
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