第200話 エリア進出をするわんちゃん

「お、羊発見」


「がう!?ボス!捕まえようがう!」


 ダンジョン(で)牧場計画が始まって以来、俺達は『狩り』の合間に『捕獲』もするようになっていた。

 どれくらいの種類をどれくらい捕獲したらいいか解らなかったので、適当な時に良さそうな獲物を見つけたら捕獲する事にしていたのだが、それは順調に進んでいる様に思えた。


「がう!大人しく入るがう!」


「怖くない怖くなーい。だから新しい住処に大人しく入ろうなー?」


 因みにだが、ダンジョンには新しく階層を追加し、そこの階層を丸々牧場エリアに設定させてもらった。(監修・監督ごぶ蔵)

 このエリアは最悪ダンジョンへの侵入者対策にも使えるんじゃないかという事で、贅沢にも相当広い面積を使う事となった。その為食料生産にまで龍脈のリソースが回らなくなってしまったが、最悪ポンコの方のリソースが残っているし、何より今は食料となる獲物が結構獲れているからまぁいいだろう。


「がう。完了がう」


「お疲れいニコパパ。今日もそこそこ獲った事だし、帰るか」


「がう」


 こうして毎日充実した日々を送っていたのだが、俺には少しだけ不満もあった。


 それは・・・


 ・

 ・

 ・


「明日は『充足』エリアに行ってみようと思う」


「「「!?」」」


「いやな、最近食料も順調に取れてるし、牧場という非常食というか食料生産エリアも出来た訳だが・・・いかんせん経験値稼ぎが出来ていないと思ってな・・・」


 そう、俺が不満に思っていたのはレベルアップについてだった。

 色々順調にいっているのは良いのだが、ここで満足して強さに磨きを掛ける事を止めてしまうと、また災難が降りかかってきた時に対処できないかもしれないのだ。


「皆には言ってなかったかもしれないけど、俺には『最強になる』って目標があってな。『何時までに~』とか『なるべく早く!RTAなんだ!』とかではないんだけれど、立ち止まるのも良くないと思ってるんだ」


 俺が何故経験値稼ぎをしたいかという理由を話すと、皆うんうんと頷いていた。・・・どうやらごぶ助から聞いていたらしい。


「・・・まぁそんな訳で、だ・・・『充足』エリアに行ってみようかと思っている」


「ゴブ?あの強いと遊牧民から聞いた『充足』エリアですゴブ?」


「ああ。其処なら経験値稼げるかと思ってな」


 遊牧民達曰く、『強い・やばい・近づいては駄目』らしいが、そんな奴らならがっぽりと俺の経験値になるだろうと俺は踏んでいた。


「まぁヤバ過ぎる場合は大人しく帰って来るけどな。強くなりたいけど、『命を大事に』だし」


「ゴブ・・・」


 あくまで安全に行くと聞いて長老は納得している感じを出していた。他にもエペシュやニコパパ、ごぶ蔵なんかも『まぁそれなら・・・』的な感じを出していたので、『これなら武者修行へ行けるかな・・・』と思っていると・・・


「ごぶ」


 なにやらごぶ助が手を上げ始めた。


 そして・・・


「我も行くごぶ」


 何故か同行すると言い始めた。


「我も昔強くなると約束したごぶ。だから修行しに行くごぶ」


「・・・そうか、そうだな。うん、一緒に行くか!」


 ごぶ助は昔俺が最強になると言った時、ともに言った事を覚えていた様だ。俺はそれを嬉しく思い、つい感極まって泣きかけてしまった。


 が


「ごぶ。それに『充足』エリアにもっと美味しいお肉がいるかもしれないごぶ。捕まえるごぶ!」


「・・・うん、そうね」


 ごぶ助が涎をジュルリとすすりながら言った言葉に涙は引っ込み、俺はスンッと真顔になってしまった。・・・『強くて・やばくて・美味い』じゃないんだよキミィ?


 と、そんな事はあったが、『まぁ、ごぶ助だし、食料も大事だし』と自分を納得させ真顔から普通の顔へと戻した俺は、会議を締めにかかった。


「・・・まぁ、明日から『充足』エリアへと向かってみる。つっても大分遠そうだから、それまではごぶ助」


「ごぶ?」


「ニコパパと組んで引き続き狩りをしていてくれ。『充足』エリアに着いたら言うわ」


「解ったごぶ」


「んで他の皆は今まで通りでよろしく」


 俺が皆へと明日からの動きを説明すると、皆も了承してくれたのでそれで終わろうとした。

 しかし、最後に何かあるかなと一応皆へと尋ねてみた。


 すると・・・


「ごぶ」


 なにやらまたごぶ助が手を・・・いや、視線を向けてみるとごぶ蔵だった。


「紛らわしいんよ君達ぃ!?・・・ってまぁいいや、何だごぶ蔵?」


 ・・・とまぁ、何かある様なのでごぶ蔵へと水を向けてみるが、まさかごぶ蔵まで『ごぶは最強のコックを目指しているので付いて行くごぶ!』とか言い出さないだろうな?


「ごぶ?・・・ごぶ。ごぶは1つ凄く気になる事があるごぶ・・・」


「ん?」


 俺が考えていた事とは全然違ったみたいで、ごぶ蔵は何か気になる事があった様子だった。しかも深刻な顔をしているので、よっぽどのことかもしれない。

 俺は何か不味い事にでも気づいたのかと思い、少し緊張しながらごぶ蔵へと尋ねた。


「な・・・なんだ?やばい事か?」


「かもしれないごぶ・・・」


「なっ・・・は・・・話してくれ・・・」


 不味い事かと緊張してごぶ蔵の言葉を待つ。


「実は・・・ごぶ・・・」


「・・・ゴクリ」


 そしてごぶ蔵の口から出た言葉は・・・



「RTAって何ごぶ?気になるごぶ。RMTの親戚ごぶ?違法ごぶ?」



「・・・はい解散。明日から頑張ろう皆」


 超絶どうでもいい事だったので解散することにしました まる


 ※因みにRTAは『リアルタイムアタック』・・・ゲームの完全手動タイムアタックの事で、RMTは『リアルマネートレード』・・・ゲーム内通貨やアイテムを現実のお金で買う事です。RMTの方は大体の場合違法行為扱いになるので、気を付けましょう。


 ・

 ・

 ・


 という様な茶番を最後にした日の翌日から、俺は『充足』エリアに向かって進み始めた。

 ポンコのダンジョンの入口がある『活性中』エリアから遊牧民達がいる『衰退』エリアまでかなり遠かった様に、『充足』エリアも、それはもう遠かった。


 しかもだ・・・


「あぁ~・・・いい天気だなぁ・・・ってあれはなんだ!?」


「鳥か!?飛行魚か!?ドラゴンか!?」


 遊牧民に全力ダッシュしている所を見られるとそんな感じで騒がれるモノだから、結構気を使って走らなければならなかったので少し時間がかかってしまった。


 ・

 ・

 ・


 しかしだ、10日もすると無事『充足』エリアへと到達する事が出来たので、俺はその翌日にごぶ助を伴って『充足』エリアへと再び足を踏み入れた。


「ニアによるとここからが『充足』エリアなんだってさ」


「ごぶ。・・・確かに今までの場所とは何かが違う気がするごぶ」


『充足』エリアに入るかどうかの場所に作った中間地点ダンジョンから出て来たごぶ助は、その持ち前の何かからエーテルの濃さ?の様なモノを感じ取った様だった。


「・・・そうか?」


 だが正直俺にはさっぱりだったので、俺は俺に解る方法でそれを感じ取ることにした。其れ即ち・・・『鑑定』である。


「丁度何かいるみたいだからっと・・・『鑑定』」



 名前:ザック・モーブリス

 種族:ヒューマン

 年齢:35

 レベル:28

 str:312

 vit:286

 agi:239

 dex:305

 int:74

 luk:31

 スキル:礼節術 剣術 盾術 生活魔術 スラッシュ シールドバッシュ

 ユニークスキル:

 称号:ダンジョン1階層突破



「・・・んん?人間?他のもか?」



 名前:カミュー・イーノルズ

 種族:ヒューマン

 年齢:28

 レベル:31

 str:166

 vit:235

 agi:183

 dex:275

 int:338

 luk:43

 スキル:礼節術 生活魔術 治癒魔術 聖魔術

 ユニークスキル:

 称号:ダンジョン1階層突破 アリエス教司祭



「あっちも人間か。・・・あれ?」


 このエリアに居る魔物の力量を調べようと適当に『鑑定』を掛けた結果、何故かそれは人間だった。

 しかし俺はここで気づく、『遊牧民はここに近づかないと言っていたのではないか?』と。


「いやでもあれだけ強いならそうでも無いのか・・・?」


「ごぶ?」


「いやな・・・・」


 遠くを見て何やら変な顔をしていた俺を不思議に思ったのかごぶ助が不思議そうな顔をしてきたので、俺は人間がいた事を報告する。

 だがごぶ助、人間にはあまり興味がわかなかったようで・・・


「ごぶ。食べられないし戦う気もあまり無いごぶ。放って置いて食べられる強い奴を探すごぶ」


 素っ気なくそんな事を言ってきた。


「ま、それもそうか」


 言われてみればどうでもいいかという気に俺もなっていたので、そいつらは放置し、大人しく新たな獲物を探そうとその場を後にしようとした。が、その前に中間ダンジョンを放置しておくとあの人間達が入って来るかなと思い、それだけは崩しておこうとした。


「む?あぁ一々崩さんでも、それ位ならば長老に隠蔽する為の魔法をかけてもらえばよいのではないかや?」


「え?長老そんな事出来るの?」


「うむ。出来るとか言っておったのじゃ」


 しかしニアからそんな情報がもたらされた為、俺は急いで長老を連れに戻った。


「うわ・・・マジでできるのか・・・長老すごいな」


「ゴブ。これ位お任せですゴブ」


「ありがとな」


「ゴブゴブ。それでは儂は帰りますゴブ。お気を付けくださいゴブ」


 そして長老は本当に隠蔽魔法が使えたらしく、それをさらりと使うとクールに去っていった。それを見て『長老カッコイイワンー』となってしまったが・・・仕方ないよな?


「ごぶ・・・長老かっこいいごぶー」


「だな・・・っていつまでも痺れて憧れてる場合じゃないな。ごぶ助!」


「ごぶ?」


 ごぶ助も長老に尊敬の眼差しを送っていたが、それを声を掛けこちらへと引き戻す。そして俺は改めてごぶ助へとこれから行う事を宣言した。


「レベルアップの為の戦い・・・始めるぞ!」


「・・・ごぶ!」


 どれくらいの敵が生息しているかは解らなかったが、ごぶ助とならばきっと越えられるだろう。


「さぁ・・・俺達の戦いは・・・これからだっ!」


「ごぶっ!」



 俺達は強敵を求めて、『充足』エリアの奥へと歩を進めた。



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 作者より:当作品もこれで200話。そして更に何時の間にか4万PVまでいっていました!これも読んでくださっている皆様のお陰です!ありがとうございます!

 ・・・因みに一応言っておきますが、打ち切りではございませんので、これからもお楽しみいただけると幸いです。

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