第199話 放牧のものたちとわんちゃん

「「「また何か困ったら来な~」」」


「ありがとうございました皆さん」


「ばいばい」


 草原での人間に対してのファーストコンタクトは終始俺無双状態で終わりをつげ、それに見合う成果を存分に確保する事に成功した。


「普通に良い人達だったね。扱いの差はあれだったけど」


「まぁ・・・そうだな」


「?」


「いや、何でもない。帰ろうか」


「うん」


 だが俺としては少し複雑な気分だった。・・・いや、決してエルフの女性扱いされてちやほやされたのがではなく、『もしゴブリンが来ていたらどうだっただろう』なんて考えてしまったからだ。


(ゴブリンは魔物だしな・・・それに人間つっても人それぞれだし・・・)


 他にも『種族の違いだったり立場の違いだったりで人にも色々あるしな』とか、『結局生物はガワで判断する生き物だよな』とか普段考えない哲学的な問答が頭に浮かんで来たりして、ここへ来る前はごぶ助に『大丈夫か?』なんて言って余裕ぶっていた俺は、すっかりまいってしまっていた。


(マジ鬱だわ・・・。くそう・・・それもこれも全てはあのクソ人間共の・・・)


 しかしだ、気分が落ち込めば落ち込むほど俺は嘗て出会ったあのクソ人間共への思いが再燃し、逆に気分が変な方向へと上がって来ていた。

 そして10分もする頃にはすっかり何時もの状態位にまではテンションが戻って来ていた。


(ま、良い人もいれば悪い人もいる。良い人には笑顔をもって友好を、悪い人には暴力をもって戦争を、だな。うんうん。そもそも俺も色々ヤっちゃったりしてるしな!)


 戻りすぎてなんだかおかしな感じになっていたが、まぁいいだろう。それよりもだ・・・


「サッサとさっきの事を報告しなきゃな。新情報目白押しだわ」


「でももうちょっと歩いた方が無難。まだ目が良い人なら私達の事見えてそう」


「ん?そうか。じゃあもう少し進んでからレモン空間に入るか」


「うん」


『早速戻って報告だ!』と思ったのだが、エペシュがそう助言して来たのでもう少し俺達は草原を進み、誰も見ていない事が確認できたところでレモン空間へと入った。


 ・

 ・

 ・


 そしてその夜、恒例の会議の場にて俺は今日遊牧民から仕入れた情報を皆へと報告した。


 その報告した内容は、簡潔にまとめると・・・


 ○草原に暮らす人々の生活スタイル。


 ○『充足』のエリアの危険性。


 ○『充足』エリアがある方向。


 この3つだった。


「ゴブゴブ・・・ここに暮らす者達は一狼様が仰った、『遊牧』というスタイルで生活していると・・・そしてその遊牧民が暮らすのは『衰退』エリアですかゴブ・・・」


「『充足』エリアは我達がいる『活性中』エリアと『衰退』エリアよりそんなにやばいごぶか」


「がう。『衰退』エリアのバッキャローでも強いのに、それ以上とかヤバそうがう」


 会議場に居る面々は俺達の報告を聞き、それぞれがその内容について話し始めた。そうなると人数は少ないながら会議場は喧々囂々喧々囂々けんけんごうごうとなってしまったので、俺はそれを治めるために声を掛けた。


「はいはい、待っただ皆。トッ散らかるとあれだから、気になった事は手を上げて1人ずつ言いたい事言っていこう」


 言いたいことを挙手性にし、俺達は各自が気になった事を話していった。

 その中で一番盛り上がったのは『充足』エリアの話、次いで遊牧民の話だったのだが、正直『充足』エリアについては遊牧民らも行く事はほぼないみたいで又聞きした『そうらしい』という話ばかりしか聞けていなかった。なので専ら主な話し合いになったのは遊牧民らの事だった。


「ゴブ・・・エペシュ様は例外として、やはり人間には近づかぬことが一番ですゴブ。まぁ彼らの生活スタイルが解ったのは、色々参考になるので良い事でしたゴブ」


「がう。基本的にアイツラ俺達を見ると敵意むき出しがう。逃げるに限るがう」


 だがしかし結局のところ俺達は99%が魔物で構成されている集団なので、結論としては『ここの人間の事は解ったが、近づかない様にしよう』という所で落ち着く事となった。触らぬなんとかにになんとやらだ。


「まぁあれだな、獲物がいる『衰退』エリアには基本人間もいるから気を付けようって感じだな」


「「「ごぶ」」」


「がう」


 大きく結論が出たところで、『なら明日からは気を付けて狩りに励もうな』なんて感じで会議を締めようかと思っていると、何やら言いたいことがあったのか、エペシュが手を上げていた。


「ん?どうしたんだエペシュ」


「遊牧の話を聞いて思いついたことがある」


「ふむ?」


 一体なんだと話を聞いてみると、エペシュの話はとても面白い話であった。

 それというのも・・・


「俺達も遊牧をする?」


「うん。やり方を真似るだけだから遊牧ではないかもだけど」


 彼女が言い出したのはなんと、『俺達もダンジョンで遊牧をしてみてはどうか?』という事だった。それをもう少し詳しく話してもらうと、その中身はとても良いアイディアだった。


「成程・・・ダンジョンという『場』に外から色々持って来るのか」


「うん。すでに一狼がレモン空間でやっている事の拡大バージョン」


 俺達が今いるレモン空間だが、最初は俺が魔の森から土や木を移植して持って来ていた。

 俺的にはそれに満足していて、そこでもうその発想を発展させる事なくストップさせていたのだが、エペシュはそれを発展させ、ダンジョンの一角を放牧エリアにしてしまい、そこで畜産をしてしまえばどうかというものだった。

 これは正直いい考えである。何故ならダンジョンの機能で『場』を整え、そこに住まわす『家畜っぽいもの』を生成する事は確かに出来るが、それをしてしまうと龍脈のリソースを消費するだけとなるからだ。


(ダンジョンで生まれた魔物は繁殖はしないからな・・・)


 その点外から『野性の』魔物を整えただけのダンジョンへと放牧したのなら、少しずつではあるが数は増えていくだろう。

 そうなるとダンジョンは『場』を提供するだけとなるので、龍脈の消費は連れて来た魔物の餌代・・・つまり餌の草、その土台となる大地の栄養分が切れた時補充をするだけになる筈なのでかなり抑えられるはずだ。


「ん~・・・あのマリモも繁殖させられたらなぁ・・・」


 そしてその栄養分の不足も、もしかしたらあのマリモがいたら問題解決なのではと思い呟くのだが、会議場にちょこんと座っているニアがその呟きに答えてくれた。


「あれはここの固有種なので無理なのじゃ」


「む・・・そうなのか」


「うむ。この地より産まれ番う事もなく地に帰るので繁殖自体無理なのじゃ」


「そっか・・・まぁあんなチート生物っぽい奴がそうそう居てたまるかって事か」


 ニア先生がそう仰るのならばそうなのだろう。なのでそれは諦め、土の栄養分は今まで通り現物を補給するかダンジョンの機能で補充するしかないだろう。



【実物を持ち込んで頂ければ可能かもしれません】


「・・・え?」


「・・・む?」



 ・・・と、思っていた時期が俺にもありました。


【私が言うのもなんですが、このダンジョンは普通とは違いますので可能かもしれません】


「そんなんチートやろ・・・。あ、公式にチートスキルになってたんだっけ・・・」


 何時の間にかユニークスキルに格上げされていた『レモンの入れもん』だ、ニア先生の言う事も無視できるチートを発揮してしまってもおかしくはない。


 なので一度試してみるかと、翌日試してみる事にしたのだが・・・


 ・

 ・

 ・


【取り込み解析した結果、全くの同種は不可能。しかし似た種は作れるようです】


「いやいや、でもあの後よくよく考えたんだけど、結局それって龍脈のリソース使うから栄養補充するのと変わらないよね?」


【いえ、この新種の特性上1つ自動生成陣を作るだけで従来の栄養補充の10倍ほどの効率が出せます。それは新種がエーテルの活性だけでなく、死骸が色々な栄養分にもなるからです】


「・・・色々チートやん・・・」


 色々チート性能が重なり問題が解決してしまった。

 つまりだ、外から家畜となる野生の魔物を連れてくれば、狩り過ぎない限り半永久的にそれらを養えることになる。


 其れ即ち永久機関・・・ダンジョン(で)牧場の爆誕である。



 その日から俺達の日課に食べられる魔物の『狩り』だけでなく、『捕獲』が加わった瞬間であった。



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 作者より:読んでいただきありがとうございます。

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 こちらも連載中です。↓『悪役令嬢は嫌なので、魔王になろうと思います。』

 https://kakuyomu.jp/works/16816927860702355532

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