第25話 決別ッ!
ウィズの家が圧倒的闘気で揺れているッ! さながら地震ッ!
棚、テーブル、はたまたベッドまで。ありとあらゆる家具が揺れていた。
ウィズは思わず手で顔を覆った。
(知らなかったこととは言え、悪手が過ぎるぞフレン)
シエル絶対主義のヴァールシアの前で、シエルを侮る言葉は“自殺をしたいです”と言っているのと同じ。
既にヴァールシアは怒りを封じ込めた無表情で、双剣に手をかけていた。
「ちょ、ちょっと待てよ!? ウィズ、お前からも何か言ってやれ!」
「馬鹿なやつ、としか。大丈夫だフレン、君の死体はちゃんと灰にして、仲間に引き渡すよ」
「ふざけるなよ! 俺たち、元仲間だろう!?」
「都合で仲間を使い分けるなよ。……ヴァールシア、二択の選択肢を与えてもいいか?」
「斬首で死ぬか、微塵切りで死ぬかを選ばせるのですか?」
いつの間にか、フレンの背後を取っていたヴァールシア。すでに双剣を首筋に当てていた。
「近いものはあるな」
そう言いながら、ウィズはフレンに近づく。
「フレン、選んでくれ。君がヴァールシアに殺された後に、僕らがヘヴンズウォールへ赴くか、それとも、ここは何とか生き延びて、あとは君一人で全部頑張るかをね」
「て、テメェ! 俺を裏切るのか!? テメェみたいなのを一瞬でも仲間に入れてやった俺が、今! こんなに困っているんだぞ!? 恩返しをしようと思うのが、筋じゃねぇのか!?」
「すごいな君は、どこまでも都合が良いんだ……」
「都合が良いのはテメェだろうが! 恩を仇で返す。これがいけないことだっていう道徳を修めてないのかよ!? アアァン!?」
もはや怒りで我を忘れているのだろうか、フレンは狂ったように叫んだ。
「お前は黙って、俺の言うことを聞いてれば良いんだよ!」
「ここまで来ると……哀れですね」
ヴァールシアは呆れ返っていた。そして、人間という存在をまた一つ下に見ることにした。
本能だけで生きている野蛮な存在。本来なら、この類の人間はさっさと始末すれば良いのだが、シエルの前で人間の汚れた血など見せる気はなかった。
「ヒューマン、私は既に興が削がれました。あとはもうそちらでやってください」
「あぁ」
ウィズは改めてフレンに向き直る。
「フレン、はっきり言おう。もう遅いよ。君の気持ちを、正確に知ってしまった僕は、二度と君に協力しようと思わないし、関わりたくない」
そう言ったあと、ウィズはテーブルに座り、天井を仰いだ。
「ヘヴンズウォールだったよね? 辛い戦いになるだろうが、頑張ってくれ」
話は決裂した。
フレンは背中の剣を抜いた。
「俺の言うことを聞かない役立たずはいらねぇッ! 協力しないなら死ねッ!」
ウィズはフレンを一切見ずに、人差し指を向けた。
「〈エアロ〉」
指先から突風が起きるッ!
風はフレンに直撃、そのまま家の壁を突き破り、姿が見えなくなるほど遠くまで、彼を吹き飛ばしたッ!
「……さよならだ、フレン。今度こそ、本当に」
「ヒューマン、貴方もヌルいですね。腕の一本でももらっておけば良かったでしょうに」
「腕を取って達成感に浸れるような感覚は僕に無い。さて、と」
ウィズは立ち上がり、外行きのコートを羽織った。
その一連の動作を眺めていたヴァールシアはつまらなさそうに聞いた。
「行くのですね」
「フレンのためじゃないよ。というか、君も気になっているんだろ?」
「そうですね。白い翼を持った斧使い。特に白い翼などというキーワード、合致する存在が一つしか思い当たりませんからね」
「同族で確定か?」
「九割方。かなり低い確率で未知の存在という線もあるとは思いますがね」
ヴァールシアは無言でウィズに近づいた。既に出る準備は完了しているというサインである。
同様に、シエルもウィズの側に来ていた。
「ウィズ、私も行きます」
「シエルもか……?」
思わずウィズはヴァールシアを見た。いつものパターンなら、ここでヴァールシアがキレている。そう思っていたが、彼女は特に反応する素振りを見せなかった。
「何も言わないということは、許可ということでいいのか?」
「無論です。むしろ、私の方からお願いしようと思っていたくらいです」
「戦いに巻き込まれる可能性があるぞ」
「それなら私と、あと貴方が守ればいいだけの話です。すぐ近くにいなければ、そういう判断すら出来ないですからね」
「ふーん。案外考えているんだな」
「シエル様の事を第一に考えるのは当たり前ですからね。ヒューマン、貴方も少しは勉強しなさい」
棘のある言葉を無視し、ウィズは施錠を確認し、水を出しっぱなしにしていないか等、家の確認をしていた。先程フレンを追い出すときに開けてしまった穴は、ひとまず魔法で石壁を作ることで、応急処置とした。
帰ってきたら、しっかりと修繕をする。
「よし、確認終了。行くぞ二人共」
「分かりました。ここからヘヴンズウォールまでどれくらいかかるのですか?」
「馬車を乗り継いで半日。値は張るけど、転送魔法を専門とする業者に頼めば、すぐに到着。どっちがいい?」
「なら、前者で行きたいです」
シエルが即答した。時間を考えるなら、後者一択だが、シエルには理由があった。
「この世界を色々と見てみたかったので、ちょうど良かったです」
微笑を浮かべるシエルは、どこかワクワクしているように見えた。ウィズはもう一度、ヴァールシアを見る。
彼女は口をパクパクさせ、こう言った。
――選択肢はありません。
変に口を返しても、めんどくさいことになるので、ウィズは黙って頷いた。
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