第24話 地雷ッ!

「確認したい、フレン。君は、僕に、助けるのを手伝って欲しい……そう言ったのか?」


「あぁ……。今はお前の手でも借りなきゃやってられないんだ」


 ウィズはあまりの出来事に、つい呼吸を忘れそうになってしまった。

 だが、彼は唇を噛み、拳を握りしめることで、意識を保ち続けた。


「どういう訳か……聞かせてくれないか?」


 頷いたフレンは、語りだす。

 フレン率いるパーティーが、北にある塔『ヘヴンズウォール』へ向かうところから、惨劇は始まった。


「俺たちは、ある宝を手に入れたくて、ヘヴンズウォールへ挑んだ」


 塔の最上階にあるとされる秘宝には、使っても使っても減ることのない無限の魔力をもたらすとされる。しかし、簡単な道のりではない。塔の中には宝を守る番人やトラップがひしめいている。幾多もの冒険者が挑んでは、その塔に没していった。

 フレンたちも最強のパーティーを目指し、塔へ挑んだ。


「僕もその宝についての知識がある。だが、ヘヴンズウォールと言えば、“前向きな自殺の名所”とすら呼ばれている最悪のダンジョンじゃないか。いくらフレンたちでも、危険なことには変わりない」


「それでも俺たちはイケると思ったんだ。何せ俺たちは辺境一のパーティーだからな。お前に心配される筋合いはない。……そう思ったんだけどな」


「……続けてくれ」


「道中、魔物や罠が襲ってきたよ。だけど、俺たちは連携をして、何とか切り抜ける事ができたんだ。あのときは、最高にクールだった」


 そこで、フレンの表情がだんだん暗くなっていく。


「そんなとき、ヤツが現れたんだ……」


「もったいぶるなよ。早く教えてくれ」


「……背中に白い翼を持った斧使い」


 瞬間、ウィズとヴァールシアは互いを見合った。

 そのキーワードは、馴染み深いものである。何ならつい命がけの戦いを繰り広げたばかりである。


「そいつが俺らパーティーを蹂躙したんだ。イカれた強さだったよ。俺たちが今まで戦ってた相手は何だったんだってくらいに、おかしなヤツだった」


「ヴァールシア……」


「えぇ、間違いありませんね。そう簡単に下界に現れないものかと思っていましたが、案外湧くものなのですね」


「そいつは俺の仲間を捕まえて、こう言ったんだ」


 フレンは続ける。


「暇つぶしだとさ。哀れなヒューマンが頑張る姿を見たいっていう話だ」


「そうか」


「なぁ頼むよ! お前みたいなやつでも頭数を足すには丁度いいんだ! ついでにそこの女剣士さんも来てくれたらなお心強い! 俺の仲間を助けるために、手伝ってくれよ!」


 今の今まで黙って話を聞いていたウィズ。

 そこまで聞いて、改めて聞くことが出来た。それも清々しい気持ちで。


「その仲間ってやつには、俺も入っているのか?」


 フレンは笑顔で首を横に振った。



「入っているわけないだろ。お前、もうこの間のこと忘れたのかよ」



「そうか、そうだよな。分かっているさ」


 あえて聞いただけだ。フレンは心の底からそう思っているのだろう。だから、ノータイムでそんな言葉が出る。

 本当に、わかりやすくて助かる。

 相手は本音。ならば、こちらも本音で返すのが筋だろう。



「君も落ちぶれたな。僕に頼ってくる時点で、終わってるよ」



 フレンは掴みかかっていた。大義は我にあり――そんな顔だった。


「ふざけるなよ! お前にやった退職金を忘れたのか!? 俺の言うことを聞かないなら、今すぐ返してもらうぞ!」


「良いぞ」


「は?」


 フレンの手を払ったウィズは、私室へ向かった。そこの物入れからとある宝石を取り出した。


「ほら」


「……これは?」


「僕が作った魔力を蓄積させた宝石だ。ちゃんとまともな業者が見れば、お前からもらった退職金にお釣りがつく」


 馬鹿な――そう言いたかったが、フレンは嫌でも分からされた。


(はぁぁ!? んだよこの魔力ッ!? イーシアのウン千倍の魔力だぁッ!? ありえねぇッ!?)


 フレンは思考の整理が追いつかなかった。辺境一の女魔術士とされるイーシアが一瞬で霞んで消えた。

 魔力、というものを知っていれば、刹那で判断がつくこの圧倒的な差。だが、ここでうろたえれば、追い出したウィズに舐められる。

 そう思ったフレンはできるだけ言葉を選んだ。


「へぇ……お前も少しは成長したんじゃないか? はした金にはなるかな」


 ヴァールシアがぽそりと言った。


「……そうですか。この辺境のレベルはどうやら低いようですね」


「おいッ! 今、何て言った!?」


 明らかに下に見た発言。それには流石のフレンも我慢できなかった。

 一触即発の空気。

 その中で動いたのは、ヴァールシアの主である。


「ヴァールシア、駄目」


「し、シエル様。しかし……」


「我慢」


「……シエル様が言うなら、私は従います」


 フレンはそこにチャンスを見出した。

 どうやらヴァールシアという女は、シエルという少女に頭が上がらないようだ。言い返せると見た彼は、半笑いでこう言った。言って、しまった。


「ははっ。そんな子どもにたしなめられるぐらいなら、最初から言うな――」



「ヒューマン。貴方は今、シエル様を愚弄しましたか?」



「――よ?」


 数瞬後、フレンは酸素を求め、喘いだ。その時点で、彼は呼吸を忘れていた。

 おかしさがおかしさを呼ぶ。

 今、自分は何に巻き込まれているのか。それすらも、彼は理解できていなかった。

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