第242話 閑話─皇子様のいない学園

 



「 お兄様、どうぞ。お父様もお飲みになって下さい 」

「 ああ、頂こう 」

「 これ、苦いけどよく効く。レオナルドにも飲ませたいわ 」

 ラウルと同じ文官養成所に通っているレオナルドも課題の多さにかなり疲れているらしい。


 朝から3人でレティの作った疲労回復薬を飲んでいる。

 ルーカスは年度始まりの仕事で、ラウルは文官の勉強で、レティは毎夜医学書や資料を徹夜で読みあさっているので、3人共疲労はピークであった。


 駄目だわ……徹夜なんて……

 ローランド国の医療の資料を見たら面白く止められなくて夜通し読んでいたのである。



 ルーカスとラウルが同じ馬車に乗り皇宮に通っている。

 文官の勉強が始まって以来、ルーカスとラウルはよく話している。


「 行ってらっしゃいませ、お父様、お兄様 」

 レティはラウルと馬車通学出来ない生活にも慣れようとしていた。





 ***





 この日は料理クラブの日だった。


 3年生のクラブの内容はメイン料理である。

 シチューやローストビーフなど本格的に習い、この料理クラブを終えればシェフにもなれるかも知れないと言う噂がある。



 料理クラブの並木道にあるドアを開ける……



「 おかえり 」



 皇子様のベンチは誰もいなかった。



「 ただいまです……殿下…… 」


 殿下の声が聞こえた様な気がしてポツリと呟いてみた……

 皇子様の居ない学園はこんなにも寂しい。





 ***





 今日は生徒会行事の大魚釣り大会。

 大好きな魚釣りが出来ると張り切っていた。


 レティは今年の生徒会役員をしていない。

 勿論打診はあったが丁重に断りをいれたのであった。

 今年はもっと忙しくなる気がしていたが、それが正解であった。

 もうすぐお妃教育が始まるのであるから……



 今年の生徒会も昨年の生徒会を真似て頑張っていた。

 あの、平凡な生徒会室で頑張っているのである。


 今年度の生徒会行事の最初は昨年レティが考えた魚釣り大会で、レティは皇子様がいない今年度の大会では優勝する気満々だった。


 レティは昨年と同じく、弓兵(予定)部隊と個人戦でエントリーをした。


 しかし……

 今年は王子様がいたのである。


 神様は皇子や王子に何か特別なご加護を与えているのだろうか……

 今年は王子様が優勝した。


「 魚釣りなんか初めてしたけど、簡単過ぎて笑っちゃうよ 」

 キャッチ&リリースである魚釣り大会の魚は、またもや王子様を好んだのである。


 ちっ!

 餌も付けれなくて護衛騎士にやらせてた奴が偉そうに……


 王子もアルベルトの留学時同様に、祖国から護衛騎士を連れて来ていた。

 我が儘王子の護衛騎士はうちの皇子と違って、あらゆる面で呼びつけられてサポートをさせられているのであった。



「 君は昨年もアルベルト皇子に負けたんだってな! 」

 アルベルトと言う名前が出て来てドキリとする。


 アルベルトはいるだけでオーラの激しい美丈夫皇子様だが、ウィリアム王子はパフォーマンスが派手であった。


 表彰式にトロフィーを持ってきた生徒会役員の女生徒の頬にキスをして、周りの女生徒達はキャアキャアと黄色い声を上げ喜んでいた。



「 リティエラ君、妬かないでくれよ 」


 阿呆め!

 思いっきりふんをしてレティはすたすたと片付けをしていた。


 そう、昨年は影がいたが今年はいないので、昨年に楽をさせて貰った分レティは片付けの手伝いを率先してやらして貰っている。


 レティが手伝っているからか……

 レティの弓兵(予定)部隊も手伝いを始めた。

 昨年のB4に比べて、地味過ぎて存在感さえない生徒会役員達が泣いて喜んでいた。




 こんな風に……

 皇子様のいない学園生活も皆は少しずつ慣れていった。




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本日は2話更新予定です。

読んで頂き有り難うございます。

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