第236話 婚約の余波
入学式も終わり新入生がやって来た事で、4年生が卒業して寂しかった学園もにわかに活気が出てきた。
ジラルド学園はクラス替えが無いので新学年に進級しても気楽なもんである。
しかし……レティは頭を抱えていた。
「 学園には王子は2人いらないだろ? だから俺はアルベルト皇子が卒業するまで待ったんだからね 」
ローランド国の第1王子のウィリアム・レスタ・セイ・ローランド王子がお供を連れてジラルド学園に留学して来たのである。
「 王子殿下、留学期間は終わりましたよね? 2年生の時に交換留学を行うのが両国の決まりでは? 」
「 君んとこの皇子も、1年間我が国に留学して面倒をみてあげたのだから、今度は俺を1年間面倒をみるのは当然だろ? 」
そう言ってレティの席の前の椅子に座り、頬杖を付いてレティを見ている。
「 久し振りだね、寂しかったか? 」
「 何故? わたくしが寂しがるのよ? 」
「 もう、泣いてない? 」
「 殿下とは上手くいっております 」
ああ、もう、やだわ……この王子の前で泣いてしまったのは一生の不覚だったわ………
「 あっ!チャイムが鳴りましたよ、早くクラスにお戻り下さい。」
「 俺達をB組にする様に学園長に言ったんだけどなぁ…… 」
「 昨年A組だったのでしたら当然A組ですわ! さあ、早くお戻り下さい」
そんなつれない事を言わないでくれよな……と言うと、うちのクラスの女子達に手を振りながらウィリアム王子はA組にお供を連れて戻っていったのだった。
お供は当然、バケツ君とじゃない君だった。
クラスの女子達はキャアキャアと手を振っていた。
やはり、王子様は王子様な様で、この王子もかなり人気がある。
ただ、チャラチャラしてる所はレオナルドに近いかも知れない。
「 リティエラ君が王子と試合をした時に、恥ずかしくて来れないくらいに叩きのめしたら良かったのに 」
ケイン君が恐ろしいことを言う。
ケイン君は王子達が来るとさりげなく私の側に来てくれる。
このバケツ君とじゃない君達から守ってくれてるのよね。
あの時、ケイン君の目の前でバケツの汚水を掛けられたのだから……
もうバケツ君達とも仲良しだから大丈夫なんだけどね……
それよりも……
ローランド国に特使として行ってる爺ちゃん達はどうなったんだろう?
***
昼休みになり食堂へ行くと、ついつい殿下や兄達が座って食べていたテーブルに目がいってしまう……
こんなに混雑をしてるのにそこには誰も座ってはいなかった。
皆が皇子様のテーブルを大切にしてる様である。
そして……
王子は私の前の席で食事をしている。
王子だけでなく、昨年の文化祭では打倒4年A組『皇子様のご奉仕喫茶』で、2年生総出で悪役令嬢をやったもんだから、今、3年生はどのクラスの生徒達同士も非常に仲が良くて皆が入り乱れて食事をしていると言う……
「 王子殿下、爺ちゃん達は元気にしていましたか? 」
「 ああ、爺達は隣の国へ行ったぞ! 」
ローランド国の隣国と言うと……イニエスタ王国とナレアニア王国とがある。
「 イニエスタ王国だよ、どう? また泣きたくなった? 」
この王子は本当にムカつく!
周りがイニエスタ王国と聞いてシーンとなったでは無いか!
誰もが触れない傷を……
「 関係ありませんわ!雨降って地固まるで、今は殿下とは仲良しですわ 」
─仲良し……仲良しなんだわ。
─皇子様と公爵令嬢は仲良し……
─いや~ん可愛い………
キャアキャアと、周りがピンク色に染まった
くそーっ!こんな恥ずかしい事を何故言わねばならんのじゃ!
ジロリと王子を睨み付けた。
「 ……まあ、良かったじゃん、泣きたくなったら俺の所へおいで、慰めてあげるから…… 」
この王子絶対にぶっ飛ばす!
何時か試合を挑んでやるわ!
拳を握り締めふるふるしていたら、横でケイン君が笑いこけていた。
***
爺ちゃん達がイニエスタ王国に行った理由は父から聞いた。
やはり、殿下と王女の婚姻の問題は両国の関係が微妙な空気になっているらしい。
そりゃあそうだろう!
王国の王女との婚姻を断り、直ぐ様自国の公爵令嬢と婚約をしたのだから……
「 御仁達が丁度ローランド国に滞在していてくれて助かったよ 」
わざわざ我が国から特使を送るには今はまだ早急過ぎるし、かといってこのまま関係が拗れてしまうのは防ぎたいと言うのが我が国の持論らしい。
他国への視察の途中で立ち寄ると言う形にしていたらイニエスタ王国に行きやすいし、それに偶然にも婚姻騒動が起こる前に爺達はイニエスタ王国への入国を希望していて、既に了解が出ていたそうな……
しかし……
あの口の悪い爺達が上手くやるとは思えない……
寧ろ、関係が悪くなったりしないのかしら?
「 大丈夫、御仁達がなんとかしてくれるだろう 」
彼等は帝国の重鎮だった人達だ。
兎に角シルフィード帝国の特使が、今、イニエスタ王国にいると言う事が大事な事だからと父は言った。
私のせいで国と国の関係が悪くなるかも知れない……
「 お父様……本当にこれで良かったのでしょうか? 」
泣きそうになってしまった私の頭を撫でながら
「 大丈夫、殿下を信じなさい 」
父は優しく言うのであった。
私は3度のどの人生も違う人生を生きた。
だけど……
皇太子殿下はどの人生でも王女を選んでいたのである。
だから……
本当は私を選んだ今回が間違いじゃ無いのかと不安になる。
この間違いがとんでも無い未来になるとしたら?
私の存在が歴史を変えてしまった。
やがてシルフィード帝国の皇帝となる殿下は世界をも動かす程の存在である。
好きや嫌いで片付けられる人物(ひと)では無いのだ。
事の重大さに押し潰されそうになる。
私は今、三つの出来事を回避する為に生きている。
ガーゴイルを討伐した後に……
戦争なんかが起きたらどうしよう……
「 レティ、お前を選んだ殿下を信じなさい 」
父が抱き締めて来た。
「 お前は殿下を信じて信じて信じ抜けばいい 」
国の事は私達の仕事だからレティは何の心配もする必要は無いよ……
父はそう言って私の涙を拭った。
私はいつの間にか大粒の涙を溢していた。
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