第231話 閑話─レディ・リティーシャ

 



 若干20歳のデザイナー、レディ・リティーシャ。

 彼女の評判は悪くない。


 彼女の店『パティオ』は、学生向きのドレスを多く取り扱い、平民でも購入する事が出来る値段である。

 その割にはデザインは可愛らしく、学生達から人気である。


 貴族からのオーダーメイドでの注文は、デザイン画を提供する事で、そのセンスの良さにドレスの注文はかなり順番待ちが続いている。

 何より、皇太子殿下の婚約者の婚約式のドレスがレディ・リティーシャのデザインしたドレスだと言う事が人気を博しているのであった。



「 これからは大人の女性のドレスを手がけて行かなければ…… 」

 ご婦人達のドレスもお母様の活躍で、少しずつ上向きで注文されてるんだけれども………


 一番流行に敏感な大人の女性の心を掴む必要があった。

 まだ、ここが未開発地帯なのである。


 流行か……



 皇帝陛下主催の舞踏会は年に4回である。

 しかし、この舞踏会はデビュタントも兼ねている為に、親達も参加すると言う品行方正な舞踏会であり、それ故に無難なドレスを選ばれる傾向にある。


 しかし……

 貴族社会には各貴族邸で開かれる『夜会』と言うパーティーが頻繁に行われているのである。


 中には仮面舞踏会みたいに、客もスタッフも仮面を付けて男も女も、妻帯者も人妻も、気軽にアバンチュールを楽しむと言う大人の世界のパーティーがある。


 当然ドレスは相手を誘惑させる様なドレスを好まれるので、このドレスの注文を取りたいのがレディ・リティーシャ若干20歳なのである。


 ……が……レディ・リティーシャは実際はリティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢でまだ16歳の学生である。

 学生はやはり出入り禁止なのであるから、勿論招待状は来ない。

 招待状無しでは行けないのである。



 1度目の人生の時には学園を卒業した19歳の時に店を持った。

 19歳のレディ・リティーシャはこの夜会ドレスで一躍モード界のトップデザイナーに躍り出た。

 だから当時の彼女は頻繁に夜会に行ってドレスをリサーチしていたのである。



 うーん………

 夜会に出入りするのはまだまだ先か……






 ***





「 殿下……ローランド国から凄い金額の請求書が届いておりますが……… 」

「 ああ……爺達だな? いくらでも送金してやってくれ 」


 爺達には感謝してもしきれない程の恩がある。


「 殿下の渾身の一撃の名台詞の子種発言を引き出したんですからね 」

 プププとクラウドが口に手をやり笑いだした。


「 笑うな! 」

 恥ずかしい発言だったが、あれでレティとの結婚を認められたのだからあれで良かったんだと思う……あの時はその位に切羽詰まっていたのだった。

 しかし、レティだけには絶対に知られたくない発言であるのである。


 アルベルトは眉をしかめながらクラウドから請求書を受け取り……絶句した。

「 ………どれだけ飲み食いしたらこんな金額になるんだ? 」



 あのクソ爺………


「 爺達には世話になったからね 」

「 そうじゃ! 殿下は我々に、一生ご馳走をしても良いくらいじゃ 」

「 良いよ、何時でもご馳走するよ 」


 ローランド国でレティにプロポーズする日に爺達とこんな会話をしたのだった。



 爺達は容赦無かった。




「 あっ!それから……」

「 まだ他にも請求されてるのか? 」

 大体爺達は何時帰国して来るのか?

 もう直ぐ1年になるぞ………


「 リティーシャと言う名で殿下の牧場宛に送金があるのですが…… この方をご存知で? 」


 リティーシャ……?

「 いや……知らない 」


 ふむ……

 怪しい金は受け取らないが……

 牧場は経営者が俺だと言う事は知られていない筈……

 単なる馬好きによる牧場への寄付金として受け取っても良いが……


「 どうしますか? 」

「 まあ、牧場宛なら問題は無いだろう……有り難く頂戴しよう 」


「 私はこのリティーシャと言う人がどの様な人物か調べてみます 」

「 ああ、頼む 」


 初めて目にする名前には特に気を付けなければならない。

 何処に政治的な思惑が隠れているのかも知れないのだから……



 レティが弓騎兵を作るには馬が必要だった為に、アルベルトを利用して牧場を改築させた負い目がある。

 多大なお金を使わせてしまった罪滅ぼしにレティは牧場へ送金したのである。



 これからも送金する為には

 レディ・リティーシャは稼がなければならなかった。








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