第224話 缶けり大会と初雪

 



 生徒会行事も缶けり大会と卒業式のパーティーのみとなり、全員参加が出来る行事はこの缶けり大会が最後となった。


 グランドに箱や台などの沢山の障害物を置いて、隠れる場所を作った。

 秘密だが……

 今年の生徒会にはこの5人だけでなく、影で動く何者かが存在すると言う噂がある。

 そしてその影達はとても優秀であるらしい。

 多分今頃は落ち葉を集めている事だろう。




 男女ペアで行動し、貴族棟VS庶民棟でオニとオニじゃない者に分かれて勝負をする。

 オニからタッチされたペアは捕まり、じゃない方が真ん中に置いてある缶を蹴れば、捕まったペア達は逃げる事が出来る。

 制限時間内でどちらの人数が多く残っているかで勝敗が決まる事にした。


 ペアは、恋人、兄妹、クラスメート、男女なら何でもありで、この日の為に告白してカップルになった生徒達が多くいたりして、ドキドキの缶けり大会となった。

 どうしてもペアになれなかった者は、ただの傍観者になる事から、参加したい者は勇気を振り絞り申し込むしか無かった。



「 さあ!生き残るのはどっち? 缶けり大会スタート! 」


 ラウルが司会をする。

 エドガーは審判で実況中継はレオナルドである。


 因みに、このモテモテの3人は女生徒達からかなり申し込まれたが、特定の女性を作らない主義であるので断っていた。

 諦めてくれない女生徒達には、生徒会の仕事を誇りを持ってやり遂げるのが使命だと言った。

 しかし、生徒会の会長と書記兼会計兼雑用係りのカップルは、誇りのほの字も無く張り切って参加をしていたのだった。




「 私、缶けりは得意ですわ 」

「 確かに……皇宮病院の前でバケツを蹴ってたね 」

 アルベルトはケラケラ笑った。

 また、憎たらしい事を……

 むぅ~っと膨れたレティはアルベルトに頬っぺをつつかれていた。


 2人は箱の影に隠れている。

「 次はあっちの箱の影に移動よ! 」

 張り切っているレティが可愛らしい。


「 あっ!また、捕まったわ 」

 缶のある近くの箱の影に走って行き、隠れる。

 2人は座って隠れている。

 アルベルトはレティの髪をくるくると指で触っていた。


「 何? 」

 レティがくるりとアルベルトに向き直る。

「 髪……少し伸びたね 」

「 はあ? 髪の話をしてる場合じゃ無いでしょ!もう!真面目にやってよ! どんどん捕まっちゃってるじゃ無いの! 」

 レティはアルベルトの制服の襟を掴みガクガクさせた。

 皇太子殿下にこんな事をするのはレティだけである。


「 分かった、分かった 」

 アルベルトは両手を胸の前で上げて参ったのポーズを取った。


「 じゃあ、作戦Aを行くよ! 」

「 ラジャー! 」

 作戦Aは、皇子様が合図をすると全員で突撃してどさくさに紛れて缶を蹴ると言うシンプルな作戦だった。

 因みに作戦BもCも無い。



 皇子様は指をパチンと鳴らし天に向けて稲妻を放つ……

 その合図でワーッと四方八方から皆で突撃をする。

 しかし、オニは突撃してきたペアをどんどん捕まえる。


「 レティ!缶を蹴れ! 」

 皇子様と手を繋ぎ走ってきた公爵令嬢が、思いっきり缶を蹴りあげた。

 カーーン…………………何処まで飛ぶねん……

 捕まったペア達がワッと逃げる。


「 キャーッ!缶けり気持ちいいー! 」

 レティがガッツポーズを取ると貴族棟の生徒が一気に盛り上がった。



 しかし……

 魔力を使うとは卑怯なやり方だった。

 それに……皇子様と公爵令嬢が走って来たら、庶民棟の生徒達は誰も彼等にタッチする事は出来ないのだ。


 しかし、何回レティが缶を蹴っても、他のペアは直ぐに捕まってしまっていた。



 さあ、交代の時間が来た。

 今度は貴族棟生徒達がオニである。


 皇子様と公爵令嬢が頑張って捕まえたが、缶の見張り番が弱くて直ぐに缶を蹴られてしまう。


 たまらなくなり、レティは缶に片足を掛け、腕を組み悪役令嬢になった。

「 オーホホホ……ワタクシから缶を奪うなんて100万年早くてよ 」


 強そうだった。


 皇子様やラウル達から可愛い可愛いと頭を撫でられたが、

 庶民棟の生徒達からは、缶を踏んづけられていたら蹴れないとモノイイが付き、審判のエドガーに反則の注意を受けた。



 ノアと騎士クラブの庶民棟の生徒達がペアの女子生徒を連れて、2人の前に挑発する様に出てきた。

 逃げるノア達に追い掛ける皇子様とレティ……


 女子生徒達は皇子様に捕まりたくて、わざとキャアキャア言って逃げ様としない。

 そんなの全然面白くないと思ったレティが、片っ端から女子生徒をワシャワシャと捕まえた。

 皇子様はニヤニヤとして何だか嬉しそうだ。


 公爵令嬢は強かった。



 しかし、オニを交代しても結果は庶民棟の勝ちだった。

 何故なら、貴族棟の生徒で走れる女子はレティと同じ騎士クラブの先輩だけだったのだ。

 基本は、貴族の女性は走る事がはしたないとされている事から、レティみたいに走って飛んでが出来る高位貴族の令嬢は稀なのである。


 それでも、男の子に手を引かれてキャアキャアと楽しそうにはしゃぐ女の子達は可愛らしく、ずっと手を繋いでる事で、この缶けり大会で愛が芽生えた生徒達もいたのだった。




「 ウフフ……皇子様は初めて負けましたわね 」

 レティは、手を口にやり嬉しそうにニヤリと悪い顔をした。

 ホホホホ……笑いが止まりませんわ……


「 何で嬉しそうなんだよ? 」

 今までさんざん皇子様に負け続けて来たレティは、同じチームであろうとも皇子様の負けが何だか嬉しかった。


 悪い婚約者である。




 そして……

 缶けり大会が終ると、校庭にいつの間にかあちこちに落ち葉の山が作られ、焼き芋の美味しい匂いがしてきた。

 どうやら優秀な影が動いたらしい……


 寒い校庭で焚き火をしながら焼き芋大会を開いた。

 皆で分け合って熱々の焼き芋を食べた事は忘れられない思い出の1つになった。



 アルベルトは熱々の焼き芋を半分こにしてレティに渡した。

 レティは焼き芋を両手で持ち、フーフーしながら食べて「 美味しいね 」と、寒さで鼻先が赤くなった彼女が嬉しそうに言った。


 ああ……

 俺の婚約者はなんて可愛らしいんだろう……

 胸がキュンとなる。


 すると……

 空からチラチラと雪が降ってきた。

 初雪だ。


 皆はキャアキャア言いながら空を見上げて掌をかざしている。


『恋人同士が初雪の中でキスをすると永遠に結ばれる』


 前にレティが本で読んだのだと話していた、『魔法使いと拷問部屋 3』に書いてあった記述である。

 この本はラウル経由でアルベルトも読んでいた。


「 永遠に結ばれると言うなら……キスをしなきゃね 」

 アルベルトはそう言うとレティにそっとキスをした。

 そして唇を離すと嬉しそうに彼女を覗き込んだ。


 アルベルトはレティと一緒にいた昨年の初雪の日から、1年越しで彼女にキスをする事に成功したのだった。



 永遠に結ばれる?

 私の永遠は20歳までかも知れないのに……


 嬉しそうに永遠を語る殿下を見ながら……

 未来や永遠なんて少しも信じていない自分に悲しくなった。





 

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