第191話 最も緊張するお茶会




婚約が決まってから、初めて両陛下や大臣達と対面する事になった。

要するにお茶会である。

両陛下主催の、最も緊張するお茶会に招かれたのである。


レティと母親のローズは皇宮の一室に通された。

壁には歴代の皇帝の絵姿が飾られ、豪華なソファーには父ルーカスを初め大臣達がズラリと座り、一番奥には両陛下が座り、その横には皇太子殿下が座っていた。


両陛下と皇太子殿下に挨拶を終えると、付き添いの母親とレティは、座る様に促されて着席をした。

進行役のルーカスの秘書が大臣達の紹介をし終えると、お茶やお菓子が運ばれて来てお茶会が始まった。


シルフィード帝国の大臣は、宰相の父、レオナルドの父である外相、エドガーの父である国防相、財務相、文部相、農林水産相、運輸相の7人である。


レティは、レオナルドとエドガーは小さな頃から知っているが、父親達とは初対面であった。



開口一番に運輸相が話す。

「 近くで拝顔すると、誠に見目麗しい……宰相もよく今まで隠しておけたもんだわい…… 」

「 いやいや、これが美しさだけでは無いんじゃよ、頭脳も優秀で、最近医師の資格を取られたのじゃ 」

何故か自慢気に話す文部相の話しに、おお……と、どよめきが起きた。


じろじろと上から下まで見られて、まるで品定めをされてる気分で落ち着かない。

殿下と目を合わせると、小さくウィンクをしてきた。

思わず顔が綻んでしまう。

うん……頑張る!



お茶会は

お喋り好きな文部相が中心になって進んでいく。

学園での定期テストは、毎回500点満点越えをしてるとか、最年少で、それも女性の虎の穴の研究員は初だとか、レティの天才振りを話し、大臣達の関心を大いに掻き立てた。


「 リティエラ嬢、天才の君の学園での抱負は何だい? 」

「 無遅刻無欠席です 」

「 痛い……お母様、何ですの?痛いですわ…… 」

レティはローズから脇腹を小突かれていた。

ローズは、赤くなり俯いてしまい、ルーカスは目が泳いだ。

アルベルトはクックと笑っている。


その答えに、文部相は喜んだ。

素晴らしい! リティエラ嬢は学生の鏡だ! 無遅刻無欠席こそが学生の基本だと力説していた。


それから話しは進み、婚約式の打ち合わせになった。

婚約式を取り仕切るクラウドが淡々と説明をしていく。


「 リティエラ様、何かご質問は無いですか? 」

「 あの……蜂の巣駆除は本当に皇宮でやって貰えるのでしょうか? 」

アルベルトはブッと吹き出し、肩を揺らせて笑い出した。

クラウドもクルリと後ろを向いて笑っている。

両陛下は笑いを堪えていた。


「 痛いわ……お母様…… 」

ローズはレティの横腹を小突き、婚約式の話をしてるのに何ですか!と、小声でレティを叱り付けていた。

「 だって……ずっと気になってたんですもの 」


皆が笑った。

ルーカスは天を仰いだ。


大臣達は可愛らしいレティにメロメロになった。





***




大臣達とのお茶会が終わり、皇后陛下と母親のローズとレティの3人で女子会を開いていた。


「 だから、何故貴方がここにいるのですか? 」

「 レティと一緒にいる時間が少ないんだから、私も出席させて貰います 」

アルベルトはレティの横に座り、レティの手を握っている。


「 まあ、殿下ったら…… 」

コロコロと笑うローズは、あくまでもアルベルト推しである。


皇后陛下はため息をついて、婚約式の話を始めた。

アルベルトとレティの婚約式の衣装の色は、皇后陛下とローズが打ち合わせをしてあらかじめ決めていた。


レティのドレスは勿論、デザイナーリティーシャが注文を受けて制作中である。

これは、名声を上げるチャンスなのである。

皇太子殿下の婚約者の、婚約式の衣装を手掛けるなんて……

しっかり店の名前『 パティオ』を宣伝するつもりであった。



「 レティ、これ食べる? 」

ただただレティに構いたいアルベルトが、デザートのカナッペを、指でつまんでレティの口元に持ってきた。

レティは、条件反射で……パクっと口に入れてしまった。


えっ!?……で……殿下……皇后様の前で……

「 美味しい? 」

コクコクと真っ赤になって頷くレティ……

アルベルトは、嬉しそうにレティの顔を覗き込んでいる。


公爵家で、すっかり見なれた光景であるローズは、ニコニコと笑って見ていたが、皇后陛下は固まった。


「 ローズ……私は何を見せられてるのかしら? 」

「 シルビア様、レティは殿下から、何時もこんなに大切にして頂いているのですよ 」


皇后陛下とレティの母のローズは、昔から交流があり、名前を呼び会う程の仲良しであった。

レティがアルベルトと出会わなかった3度の人生が不思議な位である。

4度目の今の人生でも、あの時、アルベルトが公爵邸に遊びに行かなければ、出会って無かったのかも知れない……



「 次はどれを食べる? 」

「 殿下……無理です、もう…… 」

レティは、真っ赤になって涙目になっている。


アルベルトは、突然席を立ち

「 では、母上、私達はこれで失礼します、母君殿も…レティは私が送って行きますのでご心配なく……母君殿はゆっくりして行って下さい 」

「 はい、レティを頼みますね 」

ローズは、コロコロと笑った。

あくまでもアルベルト推しである。


「 おいで、レティ 」

アルベルトはそう言ってレティを立つように促す。

「 皇后様、ご機嫌よう、お母様……行ってきます 」

レティはドレスを摘まみ、小さくお辞儀をした。



アルベルトはレティの手を取り、ぐんぐんと皇宮の庭園に連れてきて、東屋のソファーにレティを座らせた。


「 はあ……緊張した…… 」

「 レティ…… 」

座ったとたんにレティを抱きしめるアルベルト。

レティの顎を上げ、唇を近付けて来る。


「 なんですかーっ! いきなりーっ!」

レティはアルベルトの唇を両手で塞ぐ……

アルベルトは、何時もの様にレティの掌を舐め、レティがキャアと手を引くのを待って、レティにキスをしようと迫る。


何を………レティがアルベルトの顔を両手で押しやりながら、必死で顔をそむけている……

「 レティが可愛いから悪い……キスしたい…… 」

「 何でよーっ! 」

「 母上の前でキスしそうになったのを我慢したんだ、さあ、キスするぞ! 」

アルベルトはあーんプレイの時に、真っ赤になって涙目になったレティにムラっとしたのだった。


「 護衛騎士さんが見てるーっ! 」

「 大丈夫、彼等は優秀だから、見ていても見ない振りをしてくれるよ 」

「 無理……こっちを向いてる! 」

チッとして、アルベルトが手を払うと、護衛騎士達がクルリと後ろを向いた。


「 さあ、レティ……誰も見てないよ 」

「 そんな問題では無いーっ! 」

グギギとアルベルトの顔に手を突っ張り、抵抗をするレティ……


護衛騎士達は、肩を震わせ笑いを堪えている。

「 殿下が……拒否られてる……」

後ろを向かされていて良かったと思う護衛騎士達だった。


「 分かった、今はもうしない! 全く……婚約者にキスが出来ないって……次はするからな! 」

「 もの凄く緊張してたのに……そんな気分になれないわ! 」

レティはゼェゼェ言っている。


「 お茶でも飲もう 」

アルベルトが指をパチンと鳴らすと、侍女達がお茶を持ってきた。


だから……

この侍女達は何処から湧いてきたの?

うちのマーサは呼んでもこない時もあるのよ!

居眠りしてたり……


それに……

やっぱり側にいたんじゃない!

危なかった……ラブシーンを見られる所だったわ……


皇宮……恐るべし!

レティは

皇宮では絶対にキスをさせないと誓ったのである。








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