第189話 閑話─羨ましい皇太子宮



何時もは静かな皇宮が、ザワザワと騒がしい。

皇宮のある宮殿の奥は、両陛下の住居である皇宮と皇太子殿下の住居である皇太子宮に分かれている。

趣味である刺繍をしながら、皇后陛下が顔をあげた。


「 何の騒ぎです? 」

「 確かめて来させます 」

皇后陛下の侍女長が、若い侍女を呼び、騒ぎが何なのかを調べさせに行かせた。


暫くすると、侍女が頬を紅潮させながら、皇后の部屋のドアを開けた。

「 何です!ノックもしないで! 」

侍女長は、若い侍女を嗜める。

「 あっ……申し訳ありません……あの……騒ぎは皇太子宮です! 」

「 皇太子宮? 何時もは静かなのに、何があったのです?」

「 はい、皇子様と婚約者様がおられて…… 」


「 リティエラ嬢が? 」

婚約はしたものの、レティはまだ留学から帰国したばかりで、両陛下と対面する日程はまだ決まってはいなかった。

そこは、クラウドとルーカスが調整しているらしいが、何しろ、アルベルトもレティもまだ学生であると言う事から、学業を最優先にする事を前提にして、全ての話を進めているのである。


「 はい、それが…… 」

若い侍女は、言いにくそうに益々顔を赤らめ、焦れた侍女長が嗜める。

「 早く言いなさい 」

「 皇子様が……婚約者様を……その……ご自分のお部屋に連れ込もうとして…… 」

若い侍女は、赤くなった両頬に両手を充てた。

周りで話を聞いていた他の侍女達が、キャアっと声をあげた。


「 ………… 」

皇后は刺繍をしてた手が止まり絶句していた。

侍女長が続きを話すように促した。


「 それで? 」

「 はい、婚約者様は嫌がって……それでも婚約者様の手を引っ張り、お部屋に入られ様とした皇子様が……その……婚約者様から……しつこい!……と、叱りつけられてました 」


─しつこい?


「 それを見ていた周りにいる皇太子宮の使用人達が……キャアキャアと騒いでおりました 」


皇后は開いた口が塞がらなかった。

それよりも、あのアルベルトが……

あの、何時もすかしたアルベルトが……

しつこいと叱りつけられる?

あの子が?

これは……面白い……

是非ともリティエラ嬢に会ってみたい……



基本、皇太子宮の侍女やメイド達は、皇子の身の安全を考えて、既婚者か年配の女性を多く仕えさせていたが、皇宮は比較的若い侍女やメイド達が多かった。

だから、ここの若い使用人達は、少なからず皇太子宮の使用人達を羨ましいと思っていたのである。


それが……

皇子様の婚約者が訪ねて来て、あんなにキャアキャアと華やいでいたのである。

こちらにも、婚約者様が遊びに来ないかなぁ……

勿論皇子様とご一緒に……と思うのであった。



「 今度、リティエラ嬢が皇太子宮に来たら、皇宮にも寄るようにとアルベルトに言いなさい 」

皇后陛下がクラウドに言った。


しかし……

アルベルトの返事は

「 私との時間が減るからお断りします 」だった。


この日から

皇子様VS皇后陛下のレティ攻防戦が始まったのである。




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