第173話 皇太子殿下の婚約者
皇太子殿下の帰国を経て
皇室から正式に、アルベルト皇太子殿下からリティエラ公爵令嬢への婚姻の申し込みが使者により伝達され、ウォリウォール公爵家はそれを承諾した。
その頃レティは、残り僅かな留学生活を満喫していた。
レティは、アルベルトに言っていた通りに、留学生達とお土産を買いに、ジャック・ハルビンの店に行った。
勿論、身バレをしたら大変なので、レティは店には入らなかったのだが……
ドレスを買ったり、美味しい店に行ったりしながら、クラスの生徒達や、ウィリアム王子と名残を惜しんだ。
帰国の日には
港に見送りに来てくれていた爺ちゃん達と、涙とハグのお別れをし、船に乗った。
それと同時に
シルフィード帝国では、皇室から、皇太子殿下と公爵令嬢の婚約が成立した事を正式に発表された。
レティの乗った船が港に着く頃には、港には一目皇太子殿下の婚約者を見ようという人達でごった返していた。
そこへ、皇宮騎士団が到着して人波の整理をし、皇室の馬車が待機した。
出迎えにはクラウドが正装をして来ていた。
まだ何も知らない公爵令嬢に事情説明をする為であった。
船が到着し、タラップが掛けられると、クラウドは船に乗り込んだ。
公爵令嬢の顔を隠す為に、ベールを持ち公爵令嬢を探した。
探した……
探した……が何処にも居ない。
学生服を着てる留学生達もどんどんタラップを下りていく……
しかし、公爵令嬢は居なかった。
あわてふためくクラウド……
実は
公爵令嬢とはすれ違っていたのだ。
公爵令嬢は仕入れ業者だった。
レティが髪の毛を切っていた事もあってか、大量の荷物を抱えて運ぶレティを公爵令嬢だとは思わず、見逃してしまったのだっだ。
***
私は、マーサかカイルを探した。
あれ~? 誰もお迎えに来てくれてない……
時間に遅れてるのかしら?
ここに居ては邪魔なので、取りあえずは、馬車の待機してる場所まで行く事にした。
あら? 皇室の馬車だわ……
誰をお迎えに来たのかしら?
私は、以前に出くわしてしまった、殿下と王女が楽しげにタラップから降りてくる光景を思い出し、胸が痛んだ。
もう、これはトラウマだわ……
紐で結わえたトランク3個を足と腹で押し、大袋2袋を抱えて、皇室の馬車の横を通り過ぎた。
よいしょよいしょと歩いていると、警備の為に来ていたであろうグレイ班長と目があった。
グレイ班長は笑いながら
「 リティエラ嬢…… お帰りなさいませ 」
「 …… 」
私は……
グレイ班長を見たとたんに泣きそうになった……
悲しくて、切なくて……
だけど……その思いをぐっと飲み込んだ。
「 グレイ様……今日は誰かのお迎えですか? 」
まさか……まさか……大どんでん返しで王女とか……
私の居ない間に……ありうる……
「 リティエラ嬢、貴女ですよ 」
「 へっ? 」
そう言うと、私はグレイ班長に隠すようにされて皇室の馬車に乗せられた。
「 顔を見られたら不味いので…… 」
「 私の荷物……… 」
「 大丈夫です、ちゃんと届けますよ……だれか! クラウド様を呼んで来てくれ!! 」
「 あの……私は何故…… 」
「 髪を切られたのですね…… 」
「 はい……で……私は何故馬車に乗せられたのですか? 」
「リティエラ嬢は殿下の婚約者ですから 」
「 ……… 」
いや、そうだけど……そうじゃない……
何故殿下と結婚の約束をした事を知ってるの?
私は頭がパニックになった。
そこへ、クラウド様が汗をかきながらやって来た。
「 リティエラ様……居なくて心配しましたよ」
「 あの……これは一体どう言う事ですか?」
「 帰りながら説明を致します 」
クラウド様は馬車に乗り込み、私の頭にベールを被せ、続いて女の人が乗ってきた。
「 改めまして……リティエラ様、お帰りなさいませ 」
「 ただいまです 」
ベールは窓から顔が見えない様に被っていて下さいと言われ、ゆっくりと走り出した馬車の窓から外を見ると、好奇の目で馬車の窓を覗き込もうとする人達が沢山いて、皇宮騎士団の人達が、人々を馬車に近寄らせない様にする為に四苦八苦していた。
何これ!?……怖い……
「 彼女は、女官のジルです 」
「 ジルでございます、宜しくお願いします 」
「 ……? 宜しくお願いします 」
あれ?……何を宜しくするのかしら?
私は状況が全く分からなかった。
馬車に揺られながら、クラウド様からこの様になった経緯を丁寧に説明された。
「 リティエラ様には、了解も取らずにこの様にした事をお詫びいたします 」
いや、もう何が何だか分からない。
婚約って……
殿下のプロポーズは
私と殿下の二人だけの約束じゃ無かったんだ……
まだ、お付き合いも始まったばかりで……
いきなり帝国民に発表するなんて……
「 はい、婚約式も近々行われます 」
「 婚約式!? 、近々!? 」
クラウド様は思わず出たすっとんきょうな私の声に、クックッと肩を揺らしながら
「 はい、アルベルト皇太子殿下とリティエラ公爵令嬢のご婚約を、諸外国に知らせる為にも盛大に行わさせて頂きます 」
「 盛大!?」
皇族恐るべし!
クラウド様はとうとう笑い出していたが……
私は自分の立ち位置にクラクラした。
「 取りあえずは、私の顔は発表をされてはいないのですよね? 」
「 はい、リティエラ様はまだ学生でありますから、絵姿は公表しない事にしました 」
取りあえずは良かった。
顔が公開されてたら、自由に街に出れなくなる所だったわ。
店もオープンするのに……
それより荷物をどうしよう……
マーサが迎えに来たら、店に寄って荷物を下ろしてから帰宅する筈だったのに。
はあ……お母様にこの荷物の言い訳をどう言おうかしら?
困った……
私は自分の店の事を考える様にして、現実逃避をした。
皇都に入ると……
馬車の窓から外を眺めた。
行く時にあった『 皇太子殿下と王女、ご婚約間近! 』そんな横断幕は綺麗に取り外されていた。
私は不思議な気分だった。
ローランド国に行く時には
帰国して、学園生活が始まると、殿下とどう接すれば良いのかと思案していたのだ。
やはり、こんなに殿下に近付くんでは無かったと凄く後悔をした。
それが……
私が皇太子殿下の婚約者になってるなんて……
色んな事を考えてたら……
「 殿下が公爵邸でお待ちですよ 」
クラウド様がニコニコしながら言った。
私はドキリとした。
もうすぐ殿下に会える……
そう思うと、グレイ班長に感じた悲しみと苦しさが痛い程になった。
私は
毎夜悪夢に魘され、眠れない夜を過ごしていた。
寝ると、夢に出てくる悲惨な光景……
泣きながら起きる朝……
馬車が静かに止まり、ドアが開かれた。
馬車から降りると、髪がキラキラと光り、青い瞳の背の高い人が立っていた。
殿下がいる……
殿下がいる……
殿下は破顔しながら両手を広げた……
私は駆けて行き、殿下の胸に飛び込んだ。
「 お帰り、レティ 」
「 ただいま 」
殿下に抱きしめられ
私は殿下の背に両手を回し、その広い胸に顔を埋めた。
ああ……
ここはなんて安心できる場所なんだろうか……
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