第169話 王立図書館と魔獣の話



話は遡り

アルベルトがレティにプロポーズをした次の日の、学園での朝の事である。



昨夜は寝れなかった……

殿下がここに来てくれた事にも驚いたけど

まさか……まさかプロポーズされるとは……


やっと殿下に好きだと言えたと思ったら、お父様からはこの恋は諦める様に言われ、次に殿下に会った時にプロポーズされるって……

色んな事が起こり過ぎて、頭が混乱状態。


殿下のプロポーズにオッケーしちゃったけれども…

本当に良いのかな?

私にはまだまだ覚悟が足りないと思うのに……


でも……

嬉しかった。


だから……

少しずつ二人で前に進んで行けば良いよね。

まだ、お付き合いも始まったばかりだもの……

今日はデートだし……



「 リティエラ君!」

「 えっ!? 」

顔を上げると、ぼやけた顔が………

いや、ウィリアム王子がいた。


「 君……俺に言うことがあるんじゃないかな? 」

「 ? 何も……」

「 昨日はずっと待ってたんだけど…… 」

「 ………あっ!………」

そうだった。

ウィリアム王子と王立図書館に行く約束をしていたんだわ。


「 ご免なさい…… 」

「 俺、今まで生きてきて、すっぽかされたのって始めてだ! 」

「ご免なさい……あの……退っ引きならない用事が……」

「 いいよもう……で?どうするの? 今週にする? 」


「 いえ……また雑巾を絞った後の臭いバケツの水を掛けられたら嫌なので……」

「 もうそんな事はさせないよ、だから、行こうよ 」


王立図書館には行きたい!

自国には無い書物がある筈なんだから……


「 行きたいです! 今週の日曜日にお願いします 」





********





そして、週末の日曜日。



馬車が2台到着した。

2台?

ウィリアム王子は、王立図書館のロビーの窓から覗いていた。


馬車のドアが開いて、赤の塊がわらわらと出て来た。

もう1台の馬車の扉が開くと、白が赤から手を取られ下りて来て、その後も、赤の塊がわらわらと出て来た。


「 リティエラ君? 」

王子が玄関まで行くと、白のローブは赤のローブに囲まれていた。


「 王子殿下、今日は有り難うございます 」

「 いや……これはどうなってるの? 」

「 ?、王立図書館に入館する許可を頂きましたよね? 」

「 この赤い人達は……誰? 」

「 あら? ご存じ無いのですか? シルフィード帝国からの特使として派遣されてる、虎の穴の研究員ですのよ 」

「 ? 虎の穴? 」

「 あっ、別名皇立特別総合研究所とも言いますわ(←違う!逆だよ逆) 」


「 申し遅れました、ワタクシは虎の穴の薬師学研究員でございます 」

ウィリアム王子は驚きのあまり絶句していた。



「 本日は、王立図書館への入館許可を有り難うございます 」

そう言って、レティと赤のローブの塊は頭を垂れた。


「 着飾っておるぞ 」

「 さては、妃様とデエトのつもりじゃったのじゃな 」

「 阿呆じゃ……」

「 爺ちゃん達!不敬罪で捕まるわよ 」

「 大丈夫じゃ、阿呆にはシルフィード語が分かるわけ無いじゃろ 」

レティと赤のローブの爺達は、ひそひそと話をしている。


「 君が研究員? 本当に? 」

はい、と言ってニッコリと笑った白のローブのレティは美しかった。


「 ささ、時間が勿体無い 」

「 こやつは妃様に見惚れているぞ 」

「 阿呆じゃ…… 」

「 駄目だってば! 」

ひそひそと話すレティを取り囲む様にして、赤と白の塊はそそくさと図書館に入って行った。


残された、着飾った王子様。

爺達の言う通りで、ウィリアム王子はレティと図書館デートのつもりであり、その後、お茶をしようと、お洒落なカフェの貸し切り予約までしていたのだった。

先週は……

アルベルトが現れた事によりすっぽかされたが……




「 小さい王子じゃ…… 」

「 我が国の皇子とは大違いじゃ……」

「 あれも小さそうじゃ……」

「 我が国の皇子と大違いじゃ……」


赤のローブの爺達は悪口を論ずるのを止めない。

勿論、悪口はシルフィード語である。


「 俺は、少しはシルフィード語も理解出来るんだけどね! 」

「 死にかけの爺を咎めるとは、性根まで小さい 」

「 何もかも小さいのう…… 」

「 我が国の皇子と大違いじゃ…… 」

着飾ったウィリアム王子は、爺達と睨み合っていた。

レティには、爺達のガードが固くて近付け無かった。



そんな周りの雑音の中でも、レティは凄い集中力で貪欲に本を読み漁っていた。

医学書、薬草書………



「 妃様、魔獣の事が記されております 」

「 えっ!? 」

殆んどの爺は、王子の悪口と我が国の皇子の自慢に命を掛けていたが、中にはちゃんと調べる爺もいた。



魔獣

どの様に発生するのかは、未だに不明だが

発生条件に月の満ち欠けが関係してると思われる。

月が隠れる時に、何らかの条件が重なると発生すると思われる。

どの魔獣にも銃は通用しない。

空飛ぶ魔獣には矢が効果的であり、剣で頭を切り落とすと絶命する。




空を飛ぶ魔獣


ドラゴン

最大の空飛ぶ魔獣である。

単独で発生するが発生率は稀である。

赤、青、黒の種類があり、赤のドラゴンは火を吹き、どのドラゴンよりも狂暴である。

矢で弱らせ、頭を切り落とせば絶命するが、巨大なのでかなりの消耗戦になる。

ドラゴンの血は、万能薬にもなる。



ガーゴイル

群れる事は無く発生率は稀である。

嘴は鋭く、身体は中位で小回りがきくので厄介である。

聖なる矢でしか絶命させる事が出来ない特殊な魔獣である。



「 何ですって!? 聖なる矢でしか殺せないなら………」

3度目の人生での戦いは何だったの?


シルフィード帝国のガーゴイルの知識は、群れる事は無い空飛ぶ魔獣で、弓矢でしか殺せないと言う事だけであった。

群れる事はないのに、あれだけの大群が突如現れた事に、レティは最大の謎を感じていたのである。




この書物にはまだまだ、他の魔獣の特性が記されてあった。


魔獣に関する知識は、シルフィード帝国よりは、ローランド国の方が優れている。

それは、ローランド国の方が魔獣の発生が多いから。

何故、ローランド国の方が発生が多いのかしら?



レティは、軍事式典の時に、暫く皇都に滞在していた国境警備隊の弓兵部隊から我が国の魔獣の話を聞いていた。


シルフィード帝国に現れる魔獣は国境付近に現れ、空飛ぶ魔獣は近年には発見されていないし、群れで出てくる事もあまり無く、弓矢と剣で十分対処出来ていたのである。


ローランド国とシルフィード帝国の差は何だろう?




医学書を読む限りでは、医療関係は、ローランド国よりシルフィード帝国の方が優れている。

これは、皇室の直属の管理下で薬草を栽培し、魔道具の研究をしてるからよね。

やはり、消毒薬と麻痺薬の発明が大きいわ。


しかし……

他国の者には王立図書館に入館させないとか……あり得ないわ。

それもこれも、お互いの情報の開示を必要としないからよね。

同盟国ならある程度の情報交換はやるべきよ。


レティはウィリアム王子に、何の為の留学交換で、何の為に特使として爺ちゃん達が来ているのかを考えて欲しい……と、説教をした。


レティとデートするつもりでお洒落をしてきたウィリアム王子は、爺達にとことん邪魔をされ、失礼な悪口を言われ、レティには説教をされると言う、散々な目にあったのだった。







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