第159話 公爵令嬢が箒を持った時



「 先日は悪かった…… 」

ウィリアム王子が項垂れながらレティに謝罪した。


「 君の気持ちも考えずに、酷い事を言った…… 」

「 気にしておりませんので、お気遣い無く…… 」


「 いや、お詫びをさせてくれ、でないと……俺の気が済まない 」

「 ……じゃあ、王立図書館への入館許可をお願いしたいのですが…… 」

「 えっ!?、そんな事で良いの? じゃあ、次の休日に一緒に行こう 」


よし!

こんな王子の前で泣いてしまったのは不本意だったけど、王立図書館へ行けるのは凄い収穫だわ。





********





バシャッ

「 つっ………!? 」


昼休みに、庭にいたレティはいきなり頭から水を掛けられた。

「 えっ……何?…… 」


「 うちの王子様を誘惑するんじゃないわよ! 」

2階の窓から、女子生徒2人と男子生徒の3人がレティを見て、指を指しながら、ゲラゲラと笑っていた。


「 リティエラ様、大丈夫ですか? 」

リンダ達が青ざめた顔でオロオロしている。


うう……臭い………

この水は、雑巾を洗った後の汚い水……

彼等は、空のバケツをガンガン叩いてギャハギャハと騒いでいた。



「 リティエラ君、大丈夫か? 」

「 ケイン君………臭くてごめん 」

彼は、同じクラスで語学クラブも一緒、騎士クラブでも一緒の弓兵(予定)仲間の仲良しの男子生徒だ。


「 あいつら、C組のニール達を苛めてるらしいぞ 」

「 何ですってぇ!? ……許さ…ない…… 」

レティ達留学生は、女子3人が同じクラスで、男子は2人と3人のクラスに分かれているのであった。



「 行くわよ! 奴等を追い詰めるわよ! 」

「 ラジャー! 」


レティは、庭の端に立て掛けてある箒を持ち、ブンと一振りし、ケインと二手に分かれて走り出した。

ジラルド学園騎士クラブの私達を嘗めるんじゃないわよ!



一気に二階に駆け上がり、ケインと挟み撃ちにすると、男子生徒達は、卑怯にもレティに襲い掛かった。


レティは箒の柄で男子生徒の腹を突き、続け様にもう1人の男子生徒の横っ腹をぶっ叩いた。

悲鳴をあげ、うずくまる男子生徒達………


もう1人がバケツを投げて来たので、箒の柄で叩き落とし、彼の鼻先に箒の柄の先をピシリと突き付けた。

ニヤリと笑うレティ。


「 何だこの女ーっ! 強いぞーっ!! 」

バケツを投げた男は逃げていった。


ケインが倒れてる二人を踏みつけている間に、レティはバケツを拾いあげ、逃げたバケツ男を追い掛けた。

女子生徒の二人もバケツ男の後を追い、逃げていく……



彼等は大勢いる食堂に逃げ込んだ。


柱の陰に隠れているバケツ男に

「 み~つけた 」

レティはニヤリと笑い、持っていたバケツを頭に被らせ、箒

の柄でバケツをガンガン叩いた。


「 うわーっ止めてくれ!参った…助けてくれー! 」




そこに、騒ぎを聞き付けた王子がやって来た。

「 止めろ! これは、何の騒ぎだ!? 」


食堂が静まり返った。



ケインが二人を引きずって来て、バケツ男と一緒にした。


「 王子様に説明しなさい! 」

レティが冷たく言う。


「 そこの女子達も来なさい! 」

隅で震えている、女子生徒をチョイチョイと指で手招きをする。


彼女達は王子に向かって走って行った。

「 私達は何も…… 」

レティがひと睨みすると彼女達は黙って下を向いた。



「 さあ、王子様に説明しなさい! 」

彼等は渋々、王子に、自分達がした事を話した。



「お前ら、ちゃんと謝罪しろ! 」

「 はい、スミマセンでした 」


皆がレティに謝罪した。


レティは女子生徒達の方を向いた。

「 私がいつ王子様を誘惑した? 説明しなさい! 」

「 あの……ごめんなさい……王子様と図書館に行くって聞いて……だから…… 」


王子様はため息をフゥっと吐き

「 お前達、困ったもんだ……もうこんな事をしちゃいけないよ 」

「 はい…… 」



ふん! 随分甘い事……

「 ケイン君、行きましょ! 」

レティは踵を返し、歩き出した。


「 あっ、それから2年C組の留学生達を苛めたら、次は頭を叩き割るわよ!! 」

振り返ったレティは、箒の柄の先をバケツ生徒達に突き付け叫んだ。


その姿に皆が見惚れていた……



あ~どうしょう……

制服がこんなになっちゃった……

替えが無いのよ……替えが……

レティはケインにぶつぶつ言いながら、心配して見に来ていた留学生達と出ていった。



格好良い……

食堂がキャアキャアと騒ぎ出した。


レティを見送る王子様の耳が赤くなっていたのだった。





********





レティは保健室に行き、事情を話してシャワーをさせて貰い、アントニオ学園の制服を借りた。


「 まだ臭うわ………」

レティは自分の臭いをクンクン嗅ぎながら、クラスに戻って行った。


周りにいる皆に、ちょっと臭うから先に謝っとくわね。

そう言ってニコッと笑ったレティが、あまりにも愛らしくて………

皆は、この少女が箒を持って戦闘したのだと言う事が信じられなかった。



レティは、隣国でもレティだった。

汚ない水をぶっ掛けられても、自分が我慢すれば良いとスルーしようと思ったが、友達が苛められていると聞いたとたんに、爆発する心優しい少女だった。


そして強い………

彼女は騎士クラブに入って、確実に強くなっていた。

相手がかなり弱っちかった事もあるが、階段を難なく駆け上がった事も、体力がついた証である。


もっと強くなりたい……

レティは騎士だった自分を忘れてはいなかった。







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