第146話 天才レティの処方箋
学期末試験で、レティは500点満点なのに700点を付けられていた。
ジラルド学園では、テストの答案は返さない方式である。
今度は何なの?
……と教員室に乗り込んで行った。
「 モーリス先生! 冗談も休み休みにして下さい 」
「 いや、私は200点だよ、安心しなさい 」
いや………そもそもそれも可笑しいだろうが!
じゃあ、もう一人のふざけている先生は誰なの?
………と、聞いたら
「 ワシじゃ 」
………と、出てきたのは、歴史のポッサム先生だった。
歴史で、倍の点数なんて可笑しいでしょ?
「 いやいや、君の帝国史は最高だ。ワシの知らない事まで知っていた……… 」
皇立図書館で調べに調べた事を書いちゃったからか………
………て、言うか、先生のくせに知らんのかい!
「 じゃあ、+1点でも良いと思います、100点も要らんでしょ? 」
「 いやいやいや、+100点に相応しい答えだったんだよ…… 」
ポッサム先生が遠い目をした………
遠い目は戻って来なかった………
モーリス先生がニヤニヤしていた。
「 その気持ちは分かるよ………それが天才に出会った喜びなんだよ………」
はあ………
溜め息を残し、レティは教員室を出ていった。
そんな頃
皇宮病院から公爵邸に呼び出し状が届いた。
今度は何?
医療行為はしてないし………
呼び出される事が思いあたらなかった。
レティはもう16歳になっていたので、付き添いや保護者も要らないので、1人で皇宮病院まで出向いた。
「 やあ、天才君……来てくれたね、学園の試験は700点だったんだって? 」
病院長が、にこやかに言った。
院長と副院長の他に何故だかユーリ先輩も居た。
ユーリ先輩は、私の2度目の人生で医師だった時の先輩医師だった人だ。
「 どの様なご用件ですか? 」
「 これを書いたのは君だね? 」
小さな紙のメモ用紙程度の紙を見せられた。
あっ………
『売り店』の店主の為に書いた処方箋だった………
「 私じゃ………」ありませんと言おうとしたが、最後にきちんと私のサインが書いてあった。
これは、私が医師の時に、処方箋には必ずサインをしなきゃならなかったので、つい癖で書いたのだった………
マズイ………非常にマズイ………
私は生汗が出てきた。
「 この処方箋は、まだ世に出ていない処方箋なんだよね 」
副院長が言うと
「 庶民病院から報告を受けたんだよ 」
ユーリ先輩が話を続ける……
「 君が処方した薬を飲んだ老人が、かなり良くなったとね 」
うん………知ってる。
そして、副院長が言う。
「 君の居る虎の穴の薬学研究所に依頼をし、分析して貰って、今は治験に入っている所だ、もう、かなりの効果が出ている 」
あっ、最近、薬師達が忙しくしていたのは、この依頼を受けたからなんだわ………
私が、4年後に発見される薬の処方箋を書いた事は完全なミスだった。
言い訳を考える………
「 あの老人は知り合いで……薬学書を読んで独学で処方をしてしまいました、申し訳ありませんでした、如何なる処罰も受けます 」
私は深々と頭を下げた。
「 ああ、分かったよ、君が天才なんだって事は…… 」
医院長が話を続ける……
「 君、医者になる試験を受けてみないか? 」
「 えっ!? 試験はもう終わったんじゃ? それに、私はまだ学園を卒業してませんわ 」
「 だから、特別なんだよね、天才には、早くからそれなりの特別を与えなければ………でないと宝の持ち腐れになるからね 」
ああ………
私は天才じゃ無いのに。
2度目の人生で医師をしていただけなのに……
医師会としては、なんとしてでも天才レティを医師にしたくて、今のうちに手の内に置いておきたかったのである。
「 でも、私はまだ学生で、医学の勉強も助手も出来ません
」
「 大丈夫、今は時々手伝ってくれるだけで良いんだ 」
ユーリ先輩が、一緒に学ぼうと言ってくれた……
考えさせて欲しいと言って、皇宮病院を出た。
………医者か………
確かに、ノア君の治療をし終えた時の達成感、店の店主が元気になった事で、医師としての思いが溢れて来たのは事実である。
外国に行って暮らすとして………
医師の資格があれば食っていけるわよね。
一度目の人生では、この国では自分のブランド店を持つことに成功したが、他国に店を出そうとした時に死んでしまったので、他国で店が成功するかどうかは未知の世界だったのだ。
手持ちカードは多い方が良いわよね………
レティは、医師会の思惑とは違う事を考えているが………
試験だけでも受けてみようかな……と思った。
レティは
アルベルトの願う、皇太子妃になると言う選択肢は全く無かったのである。
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