第124話 11年前……の記憶



「 レティ 」

殿下が、海を見て呆然としている私の手を握り、心配そうに顔を覗き込んで来た。



「 殿下……… 」

「 大丈夫か? 」


「 何があった? あの男は知り合いか? 」

首を横に振った。



何も聞かないで………



「 ちょっと知り合いに似ていた人だったので……」



もう、大丈夫だと言い、私は殿下の馬車で送ると言う殿下の申し出を断り、公爵家の馬車に乗り込んだ。




何かを思い出しかけていた………


考えろ!考えろ!

思い出せ!思い出せ!



一度目の人生での記憶………

11年前……の記憶を呼び起こす………



未来に起こる事なのに、私の過去の記憶なのがややこしくさせている。


そして

何度もループしているにも関わらず

今までは、自分の死と向き合う事はしなかったのだ。

怖かったのだ………





11年前


私は、20歳になったばかりだった。

前年に学園を卒業し、デザイナーとして自分のブランド店を持ち、店は順調だった。




皇太子殿下とイニエスタ国のアリアドネ王女の御成婚が決まり………



そうだ!

私は、イニエスタ国から、王女の婚礼衣装の製作を依頼されたのだ………


一気に私の名声が上がるチャンスにも関わらず………

私はそれを断わった……


王族の申し出を断るには、それ相応の理由がいる。

外国へ買い付けと勉強に行く予定だから、ウェディングドレスを作れないと言う理由を付けて………



本当は……

皇太子殿下の行く末を見たくないが為に

外国に住む為に、店を持とうと、逃げる様に船に乗ったのだ。

シルフィード帝国から離れる為に………




だから………

そんな理由で船に乗っただけなので

どう考えても

あの時に見た、私に包みを渡した男………

赤い髪に金の瞳の男との接点が思い浮かばない。


ましてや誰かに

海に突き落とされる様な事をした覚えは無いのだ。



もしかして………

たまたまあそこに居た私に、言伝てで包みを渡しただけで、私には何の関係も無かったのかも………



えっ!?

まさか………

私の持ってるその包みを奪う為に、私は襲われ、海に突き落とされたの?



嘘でしょ?

そんな理由で私は殺されたの?



私はあまりにも哀れな自分の死に、一瞬、息が出来なくなった……



2度目の人生での死も、3度目の人生での死も、

私は私の矜持を持って死んで逝ったのだ………



なのに………

あまりにも理不尽な死に、怒りが込み上げて来た。



絶対に許さない!

あの男を取っ捕まえて、皇宮の拷問部屋で拷問してやる!


いや、まてよ………

事件が起こる前には捕まえられないし、

事件が起きて、また、巻き込まれたら私は死んでしまう。



そして、私を襲い、海に突き落とした奴も取っ捕まえなければならない。


確か………

私を殺した奴は何か強い香りがしていたのを覚えている。


それにしても……

なんて哀れな死なのよ………シクシク……


身震いがした。



2度目の人生と3度目の人生では、あの船は爆発して沈んで、大勢の人が死んだと、新聞で読んだ記憶がある。


それが

私の死と関係があるのかは分からないが……

兎に角、私が死んだ日が何時なのかが分からないと話にならないわよね。



私は、何時船に乗ったのか……


過去の事なら資料が残っているが、実は未来の話なのだから

資料がある筈が無いのである。



そして、海に突き落とされる瞬間、皇太子殿下が騎士団を引き連れ、タラップを駆け上って来るのを見た。



皇太子殿下は何をしに来たのか……

もしかして………

あの渡された何かは、皇太子殿下に渡さなければならない物なんだろうか?



うーん………

ここまでだ!




でも、2度目の人生での流行り病や、3度目の人生での魔獣の襲撃よりも、もしかしたら未然に防ぐ事が出来るかも知れない。




先ずは、あの赤い髪に金色の瞳の男を探す必要がある。

彼は誰なのか? 何をしている人なのか?


うーん………

赤い髪に金色の瞳……

何処か見覚えがある気がする。



もう、頭がパンク寸前だった。














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