第110話 閑話─魔道具とオペラデート
虎の穴では、白の魔女の私は、新たな薬草作りに挑戦していた。
出来上がった薬草が冷めるのを待っている間に、私は錬金術師のシエルさんを訪ねて、錬金術の部屋に行った。
シエルさんは、炎の魔力でのオーブンの研究をしてると言っていたのだ。
2学年になると、料理クラブではお菓子作りをするので、私の気になる魔道具だったのだ。
シエルさんは鉄の箱の扉を開け、オーブンを見せてくれた。
火の魔力を融合させるのには成功したが
「 火加減がね 」
料理が真っ黒焦げになったり、生焼けになったりで、そこに苦労してるらしい。
そうか………実用にはまだまだね………
私はクリスマスパーティーの夜の灯りを思い出した。
「 もしかして、街の灯りも魔道具ですか? 」
「 そうだよ 」
シエルさんは嬉しそうに笑った。
眼鏡の奥の優しい瞳にドキリとした。
「そうだ!新しい灯りを見てみるかい? 」
そう言って、シエルさんは更に研究中だと言う、スポットライトたる物の魔道具を見せてくれた。
中心に大量の灯りを照らし、そこだけを輝かせる道具だと言う。
劇場からの注文らしい………
あの、ニヤケた支配人からだわ………
確かに………
舞台の中心で歌を歌ってた人に、強い灯りを当てたら素敵に違いない。
そうだ、そうすれば、スパンコールを付けたドレスが更に映えるじゃないの……………
デザイナーとしての創作意欲が掻き立てられる。
「 是非とも完成させましょう 」
………と、シエルさんの手を握った。
そうだわ………
「 このライトに使っている導線みたいなのを、オーブンに利用してみては? 」
「 …………君は…………」
ちょっと顔が赤くなっていたシエルさんが、いけるかも知れないと、オーブンの方に駆けていった。
有り難うと、右手を上げた後ろ姿が頼もしかった。
閃いたんだわ………
もしかしたら、そう遠くない未来に、簡単にお菓子作りが出来る様になるかも知れない…………
私はワクワクした。
そして、私の頭の中はスポットライトが当たるドレスのデザインでいっぱいになった。
殿下………
前に見たオペラなのに………
私の為にチケットを取り、手配をしてくれたのに………
糞みたいなオペラデートだったと思ってご免なさい。
その後の食事は美味しかったけど………
殿下有り難う………
………と心の中で感謝し、錬金術の部屋を後にした。
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