第80話 閑話─護衛騎士の矜持




「 止めろ 」

馬車の中から殿下の声がした。


馬車の御者に止まるように指示を出す。

馬車が静かに止まった。




今日は港街の両替商への視察だった。

側近のクラウド様がご一緒だったので、殿下の護衛は部屋の扉の外で待機をする。

クラウド様は元皇宮騎士団の出身なので、殿下の護衛も兼ねているのである。


視察が終わり、出て来られた殿下は大層御立腹で機嫌が悪かった。





馬から下りて要件を伺う。

「 殿下、何かございましたか? 」

「 広場の端に公爵令嬢がいる、白のコートを着ている、連れて来てくれ 」


見渡すと

白のコートを着た令嬢がこっちを向いて立っておられた。

これで殿下も癒される事になるだろう。

一同ホッとした。


「 御意 」





このお二人はよく遭遇される。

運命が絡み合っているのか、魂が惹かれ合っているのか………

強くて不思議な縁を感じずにはいられない。



何より

殿下が令嬢とおられる時は本当に楽しそうで、よくお笑いになられる。



不思議なのはこの公爵令嬢である。

高貴な令嬢らしく、美しく優雅な佇まいなのだが

中身が男らしい………いや、男前なのである。



同僚達も、今や全員が令嬢の虜である。

将来、命を掛けてお仕えする皇太子妃殿下が、このお方であって欲しいと願うばかりである。



一足先に馬で帰城されたクラウド様に、また報告する事になるが………

クラウド様も喜ばれる事であろう。



今や、我々護衛騎士の報告を

皇帝陛下や皇后陛下までが楽しみにしておられると言う。


一層任務に力が入る

皇太子殿下の護衛騎士なのであった。








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