第76話 お願い好きと言わないで




公爵家の門を入り、馬車から下りると玄関前で

父と母が出迎えに立っていた。


今日は父も休業日だった。


「 ルーカス、休みの所をすまない、奥方殿、邪魔をする 」

殿下が挨拶をする。


父と母が殿下に一礼をする。

「 殿下、我が家にようこそ 」


そして

「 お前達が家に来るのは久しぶりだな 」

父が嬉しそうに、エドガーとレオナルドに笑った。


「 おじさん、おばさん、お久しぶりです 」

「 まあ、エドガーもレオナルドもずいぶん久しぶりだわ 」

母は嬉しそうだった。



応接間のソファーで、皆が菓子を食べながらワイワイ楽しそうに話し込んでいる。


そう言えば、この4人がこうしてお喋りしてるのを見るのは初めてかも知れない。


学園の食堂で見掛けたりするが、会話までは知らない。

この4人、実によく喋る。

よっぽど気が合うのか、話が途切れる事が無い。



こんな陽気で楽しくて、カッコいい人達が同じクラスだなんて、ちょっぴり3年A組の人達が羨ましくなる。

学園はクラス替えが無いので、4年間も同じクラスなのだから………

去年はこの4人が留学で居なくて寂しかっただろうね。


父も母もお茶を飲みながら楽しげに聞いている。




ふいに母が

「 レティ、殿下にお庭を案内して差し上げて……… 」

「 あっ、そうね! そうだわ 殿下、ちょっと来て! 」


殿下の腕をとり、手を引っ張り連れていく。


早く早く、日が暮れたら見せられない。

「殿下、こっちです 」



アルベルトはレティから手を繋がれたのは初めてで、レティにされるがままに付いていき、その嬉しさを噛み締めていた。




良く手入れをされた小路を抜けると、広い東屋に出た。

大きな棚には薔薇の鉢植えが沢山あった。


「 この薔薇はね、母が皇后様から頂いた薔薇でね、株分けしてここまで増えたのよ 」


「 皇后様とのお茶会の時に頂いたんですって…… 」



「 へえ………母上が……… 」

色んな所で繋がりがあるのだな………

そう言えば皇宮にも庭園があったっけ。


アルベルトは、今は皇太子宮にいるので、用がある時以外は滅多に皇宮には行かないし、花に興味が無い事もあり、庭園には幼い頃に行ったっきりだ。




「 殿下、こっちに座って 」

………とベンチに座る様に促される。


アルベルトはレティの手を離したく無かったので、レティの手を握ったまま、レティも座る様に促す。


レティは

手を繋いだままな事に気付いて、ちょっと恥ずかしそうにしていた。



「 薔薇って春から初夏に咲くイメージでしょ? 丁寧に剪定したら、秋にも咲くのよ」


「 綺麗よね 」

「 綺麗だ……… 」



レティは帰宅してから、ゆったりとしたシンプルな部屋着のドレスに着替えていた。

ピンク地に白の小花が散りばめられたドレスで、レティをより可愛らしくしていた。



秋の薔薇は春より小ぶりで色が濃かった。

暫く眺めていると………

ふと視線を感じた。

見上げると

殿下がレティを静かに見つめていた。



アイスブルーの瞳が熱く揺れる…………


「 レティ……… 」

殿下が甘く囁く様な声で名前を呼ぶ………



アルベルトはレティと話す時は何時も、話し口調が柔らかく、甘く優しくなってる事に気付いているのだろうか………




駄目よ、どうしょう………

殿下がスイッチ入っちゃった………

これは、告白される…………

告白されたら私はどうしたら良いの?



王女の顔がちらつく……

半年後に王女はジラルド学園に留学して来るのだ。

今回の様に数日では無く、1ヶ月以上も殿下の側にいるのだ………


泣きたくなる…………

駄目よ殿下、お願い、好きと言わないで………




「 レティ……… 」

「 僕は、ずっと……君の事が………」



「駄目ーーっ!!」


もう、どうしても黙らせたかったので

私は殿下にのし掛かり、殿下の口を両手で塞いだ。


「 ……………… ?!」


殿下の身体に私が乗っかり、口を塞いでいる………



殿下は驚いた様に目を見開いて、されるがままになっている。

この状況が飲み込めていない様だ。



これ…………どうしょう…………

この後、どうしたら良いの………??





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