第69話 この皇子が可愛すぎる
一撃だった。
殿下は一撃で男達を倒していた。
私には体力、腕力の………力が無さすぎる。
知識や技術や経験は、頭の中にあるが、身体はまだ15歳のただの公爵令嬢の少女のままなのだ。
弱っち過ぎるわ………
食堂で料理を乗せたトレーを持って、テーブルに着こうとしてるエドガーを見つけた。
珍しく他の3人が居ない。
「 エド、ちょっと良い? 」
レティも料理を乗せたトレーを持って、エドガーの前に座る。
エドガーは食事をしながら無言でレティを見る。
エドガー・ラ・ドゥルグは国防相の父デニスの長男で、4歳下に弟がいる。
ドゥルグ家は侯爵家で代々騎士の家系だ。
叔父が騎士団団長であり、従兄弟のグレイは皇宮騎士団に所属している。
瞳は琥珀色、髪は黒色の短髪で眉毛はキリリと男らしく
かなり凛々しい顔をしている。
学園で騎士クラブに所属している。
レティは気付いているのだろうか
アルが暴漢と応戦した意味を…………
アルベルトは我が帝国の皇太子殿下だ。
たがら皇帝陛下の次に守られる存在なのである。
アルベルトは誰よりも強かった。
だけど、彼は自分の存在も自分の価値も知っている。
だから留学先で暴漢に襲われた時も、護衛騎士に任せ、後ろに下がり、決して応戦しなかった。
アルベルトが怪我なんかしようものなら、護衛騎士達が処分される。
それを知っていて、アルベルトは絶対に前に出なかったのである。
俺達だってそうだ。
親父達から、万が一の時は皇子の盾になれと幼い頃から言われてきた。
そのアルが
そんなもん全部吹っ飛ばして君の元に駆けつけ、奴らと応戦したんだ。
君を守る為に………
あの時の護衛騎士は皇子を守らなかったと、騎士団団長が軽い処分を下したよ。
勿論、俺は何故側に居なかったと親父から怒鳴られた。
あのラウルが、アルと護衛騎士達に頭を下げてたのはそう言う意味なんだよ。
レティ、早くアルの気持ちに答えてやれよ………
あの無敵の完璧皇子がいじらしすぎて可哀想になる。
「 私、騎士クラブに入ったの 」
エドガーは吹き出しそうになった。
「 何だと? それ、ラウルやおじさんは知ってるのか? 」
レティは目を逸らした。
だけど………
まだ言って無いけど駄目なわけない。
だって3度目の人生では私は騎士クラブに入部してたんだもの………
………あっ、目を逸らした、こいつ、絶対に言って無いよな…………
騎士クラブの練習は毎日ある。
料理クラブや語学クラブに入っているレティは無理じゃないのか?
……とレティに言うと
だからエドが私の面倒をみろ!と偉そうに言ってくる。
こいつ………
生意気な………
…………とレティの頬っぺを摘まもうと手を伸ばした時
レティの背後から物凄い殺気でアルベルトが睨んでいた。
恐い………
殺されそう………
「 何の話? 」
ラウル達も料理を運びながらテーブルに着く。
このテーブルは、どうやら皇子様御一行様の専用テーブルになっている様だ。
「 あっ、じゃあまたね、エド宜しくね 」
レティはそそくさとテーブルを立って、1年生のユリベラ達のいるテーブルに行った。
「 レティが騎士クラブに入部したんだとよ 」
………やっぱり………
アルベルトは驚かなかった。
「 ………で………何が宜しくなんだ? 」
と、アルベルトが訝しげに聞く。
「 俺に手取り足取り教えてくれってさ 」
エドガーがニヤニヤしながらアルベルトを見る。
「 お………俺が教える、俺も騎士クラブに入る 」
アルベルトが焦って、ちょっと恥ずかしそうに言った。
皇宮騎士団と毎朝早朝練習をしてるのに………
ああ、この皇子が可愛すぎる。
エドガーのニヤニヤに気付いたラウルとレオナルドも、そう思うのであった………
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