第32話 賞品は僕のキス




皇太子殿下御一行様は

3度目の温泉地への視察を終えて

我が家に滞在するのも残り1日となった。


その、皇太子殿下御一行様は

温泉地の宿場に宿泊する予定だったが

執事のセバスチャンが

あんな質素な宿屋に、皇太子殿下をお泊めする事は駄目だと、我が家にとどまる様にしたのである。



今日は早朝から

私と兄、殿下とその御一行様と我が家の使用人達と

釣り大会を開催した。





勿論、真剣勝負だ。



殿下が、優勝者には褒美を取らせると進言した為に


─皇太子殿下主催の大魚釣り大会─となった。



「 負けませんわよ 」

この川は私の川だ。

絶対に負けるわけがない。

あの時、魚を逃がしたのは殿下がマヌケだったからだ。



キッと殿下を睨んだら

「 レティ、今、失礼な事を考えただろう? 」

………と殿下が目をしかめた。


こいつ………神様は心が読めるのか?




お兄様も、俺様が負けるわけがないと豪語していた。



兄妹が同じ悪い顔をしてると、クラウド様がクックッと肩を揺らして笑っていた。





時間は昼には暑くなるので10時までの4時間の勝負。

今は、6時である。



私は餌であるミミズを触るのは平気だった。

殿下とクラウド様がミミズを掴む私を見て、目を丸くして驚いていた。


「 嘘だろ 」

………と、殿下が片手で目を覆っていた。



フフン♪

ミミズに触れずに釣り師になれるわけがない!

………と

テイっと竿を振り糸を川に投げた。




しかし、

うちのカイルはミミズが苦手で、触れずに右往左往していたので、貸してみと私が付けてあげた。



カイルは侍女のマーサの弟で20歳。

マーサは私付きの侍女だったので、この領地で一緒に過ごしたが

カイルは王都にいるラウルに仕えていた為に、親しくなったのは、去年私が皇都に出て来た時からだった。



「 お嬢様有り難うございます 」

「 私に、任せなさ~い 」

……と……嬉しそうにちょっと頬を染めたカイルと笑いあっていたら

殿下がいつの間にか隣に座っていて

僕にも付けろと竿をグイっと私に付き出して来た。



いや、あんたさっき自分で付けていなかったか?


そう思いながらも

殿下の釣り針にミミズを付けてあげたら

満足そうな顔をした。


横でクラウド様がクックッと笑っていた。




そうしてるうちに

爺やがメイドを連れて、朝食のサンドイッチやくだものを沢山用意してくれたので皆で食べた。




やがて時間になり

白熱した皇太子殿下主催の大魚釣り大会が終了した。




私は4匹

ラウルは3匹

その他の出場者達も2,3匹止まりで

何と殿下は7匹も釣り、1人勝ちで優勝した。



「 殿下はお魚にもお慕いされるのね 」

………と………母が微笑んでいた。


侍女やメイド達ギャラリーも

口々に、皇子様はやっぱり皇子様なのよ。

………と頬を染め、うっとりと胸の前で手を合わした。



兄までもが

アルは何時も何時も最後には持って行くんだよな。

なんて笑っていた。



いや、違ーう!

これは もう、絶対に私が殿下とカイルへのミミズ付けのサービスに専念していたからだわ。



「 殿下!ズルいですわ! 」

もう、プンスカと怒っていたら



「 分かった分かった、じゃあ、優勝は2人で分け合おうか 」


「 当然ですわ 」

………と賞品はなんだろうと尻尾をパタパタと振ってると………



「 優勝商品はなんと皇子からのキスです 」

殿下が声高らかに宣言した。



「 はあ? 」



「 つまり………僕のキス 」

殿下がニヤリとして

さあ、おいでと両手を広げた。



とたんにギャラリーから歓声と黄色い悲鳴があがる。




「 冗談は止めて! キスだったらわけ合えないじゃないの! 」

私は、真っ赤になって

プンスカ怒って家に入っていった。




「 冗談じゃ無いんだけどな~ 」

………と殿下が呟いてるのを聞いて



クラウド様が

「 殿下………ご自重を 」

………と囁いていた事は…………私は知らない。









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