第13話 白馬に乗った皇子様


シルフィード帝国は立太子の礼が控えていた。


本来ならば、アルベルト皇子が16歳の成人になる昨年に行われる筈だったのだが、昨年は皇子が留学していた事もあって、立太子の礼は今年行われる事になっていた。


だんだん慌ただしくなる宮殿。

この国の宰相であるレティの父親の毎日は、それはそれは忙しいものであった。


そんな中でのあのキャベツ千切り事件で(事件か?)、兄から叱られたのは当然だった。


ただ、レティ溺愛の父親のルーカスは、それでもレティの手作りの(手作りか?)力作に癒され、デレデレしたのは言うまでもない。


式典1週間前にもなると他国の招待客が続々と来国し始めた。

街には帝国の旗が至る所に掲げられ、花も飾られ、アルベルト殿下立太子記念商品も出回ったりしていた。


シルフィード帝国あげてのお祭りも始まり、国中が一気に華やかになった。


アルベルト皇子を学園で見掛けなくなった。


語学の出来る兄達も駆り出される事になり、彼等も学園からいなくなった。


国民は立太子の礼の前々日からの3日間はお休みとなっていた。


宮殿では、毎夜さぞ華やかな晩餐会や舞踏会が、繰り広げられている事だろう。


毎夜、着飾った父母と兄が参加して行ったが、まだ16歳の成人になっていないレティはお留守番だった。


「 早くお嬢様のドレス姿が見たいわ~ 」

「 それはそれはお綺麗でしょうね 」


ウォリウォール家の侍女を始め、使用人達はその時を想像してはうっとりとするのであった。


そんな中で迎えたレティの15歳の誕生日。


今年はクラスの友人であるユリベラとマリアンヌと、料理クラブで仲良くなったベル、スーザン、ミリアを招待していた。


最高位の貴族の家に、平民であるベル達が誕生日に招待されるのは非常に稀な事だが、 レティはそんな事には少しも気にしなかった。


貴族令嬢であるユリベラとマリアンヌも

先日、彼女達が苛められてる所を目の当たりにしたからか 直ぐにベル達と打ち解けて6人で楽しくしていた。


この日ウォリウォール家では父母と兄が宮殿に行き、レティと執事長と侍女達使用人しかいなかった為に、誕生日会は昼間にささやかに行われていたのだった。


今日のレティの衣装は

瞳と同じピンクがかった淡いバイオレットのふんわりとしたドレスに、胸元は清楚なホワイトのフリルで飾られ、腰の後ろではピンクのリボンが結ばれ、15歳の誕生日に相応しい可愛らしい装いだった。


髪は、ドレスと同じ生地のピンクとバイオレットのリボンで編み込まれ、後ろで緩く束ねられていた。


実は、このリボンを髪に編み込むスタイルは、お洒落番長である1度めの人生でレティが流行らせたものだった。


「 うわ~素敵~ 」

「 リティエラ様ってセンス抜群ですわね 」

「 ウフフ……有り難う♪ あっ今度、皆でリボンを買いに行きましょうよ」


「 リボンの編み込みの仕方をお教えしますわ 」

「 きゃー 」

「 あっ!私の知り合いのお店が洋裁店なの! 」

「 是非ご案内させて下さい 」

「 楽しみですわ 」


使用人達が、可愛らしい乙女達を見ながら萌え萌えしてる頃、突然外がガタガタと言う音とともにザワついた。




「 失礼する!!アルベルト皇子が御成りにならせられました 」

と言う先触れが告げられた。



「 よい、公務中だ、ここで構わない 」

……と言うアルベルト皇子の声が聞こえてきた。


我が家の執事が対応してるのであろう。

玄関扉を使用人が開けた。


急いで外に出ると………


白馬に乗った皇子様がそこに居た。



ロイヤルブルーの上着に黒のズボンに灰色の皮ブーツ。

腰の剣帯には剣があった。

騎士服を着た皇子様が10人位の近衛騎士を連れていた。


皇子様だ!

皇子様だ!

ホンマもんの皇子様だーっ!!!


頭の中で皇子様祭りが始まって、御輿が担ぎ出された。


我が国で白馬に乗れるのは、皇帝陛下と皇太子殿下だけである。


アルベルトが白馬から降りたら

近衛騎士達も馬から降り

一斉に片膝を付いて頭を下げた。



騎士だ!

騎士だ!

ホンマもんの騎士だーっ!!!


私の頭の中は、既にワッショイが始まっている皇子様祭りの御輿の横に、騎士祭りの御輿が担ぎ上げられた。


そう、3度めの人生は私はこの騎士だったのだ。



「 やあ、レティ、突然悪かったね 」

騎士服の皇子様が破顔した。



皇子様御輿が勢いを増した。

私の頭の中は、2つも御輿を担いでワッショイをしていたが……


そこは我が国の最高貴族である私です。

ドレスの裾を持ち上げ丁寧にお辞儀をした。


「 殿下………ご機嫌よう、お久しぶりですね 」


馬の手綱を騎士に預け、アルベルト皇子は私に近寄って来た。


「 誕生日おめでとう、直ぐに発たないといけないのでここで失礼するよ、 ハイっ! 誕生日プレゼント 」


プレゼントは、皇族の紋章の入ったロイヤルブルーの箱に金のリボンがかけられていた。


皇子様は、ワッショイ祭りが続いている私に手渡しながら………


アイスブルーの瞳のスラリと高い鼻、整った赤く形よい唇が近付いて来た。


「 今日の君………素敵だよ 」

……と耳打ちをした…………



低い声でボソッっと囁くと直ぐに踵を返し

皇子様は白馬に乗って近衛騎士達を引き連れ公爵家を後にした。



君……… 君ですってーーっ!!!



新たな君御輿が担ぎ出された。

それでなくても皇子様祭りと騎士祭りで頭の中は爆発寸前なのに、何やらわけのわからない君祭りまで繰り広げられ、私の頭はパニックに………


全身から火が吹き出して真っ赤になった。

真っ赤な物体は暫くは動けなかった。

もう、息をしていたのかもわからない。



勿論私だけでなく 残された家のもの全員と可愛らしい乙女達も、誕生日会がお開きになるまで皇子様祭りを開催したのは言うまでもない。



後から兄に聞いたところ

アルベルト皇子は、港に着いた他国の王族を出迎えに行く途中に我が家に寄ったらしい。


それにしても耳打ちは反則だった。

皇子様祭りと騎士祭りがおさまっても、君祭りと耳打ち祭りが夜になっても繰り広げられていた。



誕生日プレゼントは髪留めだった。



アイスブルーのダイヤの宝石を散りばめたシルバーのバレッタ。



アイスブルーはアルベルト皇子の瞳の色だ。


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