第96話 お嬢様は譲らない①

 「というわけで、しばらく住人が増えることになった」

 「「「「はっ?はぁぁぁぁっぁぁ」」」」

 モッカ、お松、お梅を連れて帰宅し、待っていた4人に紹介したハレオ。

 間髪入れずに発狂するスミレ、ボタン、トウカ、ユウ。


 「ちょっとハレオ、どういうことよ」

 「そうだよハレオくん、なんでこの2人の女はこんなエッチな恰好なの?」

 「お兄ちゃん、最低っ」

 「ハレちゃん……そうか、ちゃんと女の子に興味があるのね、良かったわ」

 

 「え、ああ、なんかセバスチャンとイエライシャンは喧嘩してて……」

 「ハレオさん、お松とお梅です」

 「モッカお嬢様……」「お嬢、その呼び名は嫌アル」

 「いいえ、ややこしくなるので、今後はその名で統一します」

 「「うっ……」」

 

 「ちょっと待ってお兄ちゃん、イエライシャンって、まさかあのレジェンドレイヤーの?」

 「なんだトウカ、イエラ……いやお梅さんのこと知ってるのか?」

 「知ってるも何も、レイヤー界では超有名人よ」

 「そ、そうアルか?」

 (私、そんな人気あったかな?けど、こんな小さな子まで私の事知ってるなんて、なんか努力が報われた気がする……嬉しい)と、お梅は少し涙ぐんだ。


 「高校生にして、女を捨てているとまで言われた、その露出度。来る者……否、来るカメコ拒まずと言われ、数多のポージングを繰り出す、その無尽蔵の体力。ツンデレキャラのコスプレに関しては、実際に人を殺めているのでは?と言われるほどのツン状態時の敵対表情を繰り出し、迷惑行動を起こすカメコが彼女の近くに行くと突然、気を失ったり。原因不明の骨折に見舞われることも有名なの」

 「……」

 (違う、嫌だ、そんな名声は要らない)と、肩を落とすお梅。

 

 「お梅……あれほどカタギの人間に手を出すなと言われているのに……」

 「バレなきゃ良い、それが我らの掟アル」

 「まぁそうだが」

 「え?もしかしてお梅さんも忍者なんですか?忍者でレイヤーなんですか?つまり忍者レイヤーなんですか?」

 トウカは有名レイヤーを前に興奮気味だ。


 「忍者レイヤー……」

 なんかカッコいい響きだな、とニヤるお梅。

 「まぁそうとも言う」

 「カッコいいー。私、レイヤーさんになりたいんです。ゴスロリだけじゃなく色々やってみたいので、教えてもらっていいですか?」

 「いいアルよ、これからお世話になるんだから、お安い御用アル」

 「わーい、やったー」

 素直に喜ぶトウカ。

 

 「トウカ、お前コスプレしたかったのか?というか兄として、こんな破廉恥な恰好はしてほしくないのだが」

 「お兄ちゃんは黙って、こんな急に女の人3人も連れ込んで、本当なら断固として反対するところだったんだから」

 「トウカちゃん、騙されちゃだめよ」

 「そうよ、断固として反対すべきよ」

 「うむ、冷静に考えてありえないわね」

 有名レイヤーのお梅に取り込まれるトウカを引き戻すスミレ、ボタン、ユウ。


 「だいたい、あなた達、まだ学生でしょ?急に他の人の家に住むなんて、ましてや同年代の男の家になんて許すハズない、ハレちゃんも冷静になってちょうだい。こんな状況、普通じゃないわ」

 「……」

 妹は良いとして、すでに同年代の女性2人と、父親の愛人で自身が通う学校の先生が住みついている状況が普通になってしまっているハレオには、ユウの言葉は響かない。


 「お松はともかく、わたくしと、わたくしの護衛であるお梅が、ハレオさんと同居するのは確定事項です。我が比留家の名に懸けて」

 「お嬢様……」

 凛とした態度で、言い放つモッカ。落ち込むお松。


 「比留家って、あの財閥の?ヒトメモーターの?」

 「はい」

 「なんだ、ユウさん知ってるの?」

 「バカっハレちゃん、ヒトメモーターっていったら日本の電気自動車の最先端をひた走る大企業でしょ」

 「ああ、なんか聞いたことあるね、そうなんだ……というかモッカ、そんな大企業が破産なんて、よく信じたね」

 「ハレオさん、それはわたくしを愚弄していると捉えて宜しいのでしょうか?」

 「いや、そんなつもりはないけど……」

 急なマジ切れモードのモッカの顔に、ハレオは気まずくなる。


 「だいたい、わたくしも好きでハレオさんの家に来たわけじゃありませんからね。お父様の意思を汲んで、ハレオさんが比留家に相応しい婿どのかを見極める為、ただその為だけにここに居ますので……あ、なんでしたらその他の皆様には、ここよりも良い部屋をご用意いたしますので、すぐさま出て行って頂けないでしょうか?」

 

 モッカは腕を組み、長い髪を靡かせて、言い放つ。


 「婿?」「婿だと?」「お婿さん?」「婿って?」

 その聞き捨てならない言葉に身構える4人。

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